富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

重慶副市長が米総領事館に駆込み。中共幹部の国内初の快挙。

fookpaktsuen2012-02-08

農暦一月十七日。曇天。胃腸風邪は快方に向かふが寒さ戻り用心して出先より真っ直ぐ帰宅。ランニングは二日無し。チキンと野菜のクリーム煮を夕餉に飰す。葡萄酒少し飲んだが、まだ酒が美味くない。アタシが村上開新堂と喩へたら一部の人に受けた岩波書店の『世界』二月号と朝日新聞の月刊『Journalism』十二月号読む。前者では北野和希「橋下維新、躍進の理由」が面白く、後者では英エコノミスト誌が経営好調の理由を分析した海外メディア評論(小林恭子)が面白い。エコノミスト誌の人気の秘訣は、経済専門誌のはずが政治好き、英国誌なのに米国が主たる購読者、紙媒体の読者の平均年収は1,600万円だがネットは低所得読者に人気、大英帝国時代彷彿させる俯瞰主義と不遜なほど大胆な分析の妙、と。なるほど。それより朝日新聞の月刊『Journalism』、社内でも読者は稀少か(笑)。
重慶市副市長が在成都の米国総領事館に政治庇護求める珍事あり。中国政府は装甲車など軍警動員し総領事館包囲の上、この副市長引き渡し求め米国側これに応ず。この王某なる副市長、中共ホープ・薄熙來(重慶市長市共委書記、父は中共元老の故・薄一波)の懐刀で重慶での暴力団一掃の実質的責任者。中米ともこれに論評せず重慶の官方は王が「因長期超負荷工作身體不適,正接受休假式治療」とだけ発表。これは中共建政以來、中共高官が国内で米国に政治庇護求めた初の快挙(笑)。消息筋によれば副市長は米方に中共内幕かなり吐露したが来週に控えた習近平国家副主席訪米控へ米国が譲歩し副市長は中国側に渡されたもの。この幼気な副市長がこれから中共でどんな仕打ち受けるか人権など考慮もされず。これが現実。可哀想だがそも/\米国に亡命なんて判断に誤謬あり。消息筋によれば副市長は中方の公安に引き渡された際に「我是薄熙來的犧牲品,薄熙來是野心家,我要與他魚死網破!」と叫んでゐたといふ。暴力団一掃キャンペーン際に黒社会側の弁護士事務所のボスが中共の元老・彭真の息子だつたので圧力がかかつた、だの、重慶での贈収賄で市長の薄熙來が自分に捜査及ぶを嫌ひ副市長の王と境界線を引いた、だの、今年確実といはれた薄熙來の政治局常委入りをば阻止する勢力がかけた罠だの、と憶測は限りなし。中共ほど興味深き宮廷劇は他に無し。
▼雑誌『世界』二月号のユルゲン=ハーバーマス「民主主義の尊厳を救え!」が良い。金融資本主義が世界を席巻するが「金融資本主義は、まさに政治家たち自身が現実経済の手綱から解き放ってしまったもの」であり(小泉であるとか竹中とか)、「リベラルな収税国家にあっては、民主主義と資本主義は、常に緊張関係にあった」もので「民主主義によって選ばれた政府が正当性を獲得し維持するには両者の、つまり民主主義と資本趣致の機能命報をなんとか調整させる方途を賢明に探り出さなければならなかった」し、それは「資本主義、つまり投資家の利益期待であり、民主主義、つまり生活水準、所得配分および社会的安定の三点に関して多少なりとも公正が必要であると考える選挙民の期待である」と。まさに自民党政権がこれだつた!(素晴らしい!、懐かしい!)のだが、金融資本主義の横行でさうした調整の方途がブロックされてしまひ、政治家は資本主義につくか民主主義につくかの選択を鮮明にしなければならなくなつた、と。ギリシア財政破綻パパンドレウ首相は「ペストとコレラのどちらを選ぶか」といふ選択を強いられ、国家存続か破綻か、は民主主義を担ふ住民の頭越しに決定がなされてはならず守るべきものは民主主義の尊厳。欧州はドイツとフランスが牽引してみせるが「今回のギリシアの悲惨な事態は、メルケルサルコジが選んだポスト・デモクラシーの道に対する明白な警告」なのだ、とハーバーマス先生。民主主義なんて何処にいつてしまつたの?という風潮のなかでこんな論文に出会ふのが新鮮であることすら時代の貧困だが、この論文が面白いのは「訳者解説」で、これは『世界』一月号でも「原発利用に倫理的根拠はない」ドイツ倫理委員会の報告を約した三島憲一先生によるもの。この解説が前回も今回も白眉。興味ある方は是非ご一読を。ドイツでかうした世紀末的事態にあつて「保守派の良質な部分がデモクラシーへの信仰表明したこと」「あるいは左翼の社会分析に一定の正当性を認めたこと」「福祉国家というかたちで資本主義と妥協してきた左翼の夢が破れたと同時に、そうした左翼の金融資本主義批判に教養リベラリズムともいうべき保守系の文化論者たちが、同床異夢とはいえ、ある程度合流している事態」とは、前月号の原発について「絶対的拒否」と「比較考量による相対化」の対立をアウフヘーベンさせて「倫理的根拠がない」とした判断同様、日本のこの貧困たる政治状況から見ると何とも羨ましい限り。日本でいへば文藝春秋朝日新聞が一緒に原発や貧困、反民主主義的な横暴に抗するやうなものなのかしら。そこまで意識的にいずれも緊張してゐないのでせうが。
香港大学の八一八騒動。学長曰く、北京から副首相来港祝賀のために創立百周年記念式典を合わせたのではなく副首相来港で他にも多くの祝賀行事があったわけで香港大学の祝賀行事は副首相来港の祝賀ではない。何だか全くよくわからない。
▼どうでもいいことだが蔡瀾先生主宰の豪華グルメツアーの内容。今回は殊に豪華、と蘋果日報の随筆で紹介する春節第二弾ツアーは
1日目 香港からビジネスクラスで大阪。リッツカールトン宿泊。晩は神戸で友人の蕨野さん?のところで三田牛炭火焼。
2日目 サンバーバードで福井へ。お昼は豪華海鮮。芦原温泉グランディア芳泉に宿泊。各部屋に露店風呂つき。
3日目 お昼は野豚の火鍋。晩は蟹づくし。芳泉二泊目。
4日目 国内線で東京。今半ですき焼き。ペニンシュラ東京宿泊。
5日目 終日フリー 日本食に飽きたら赤坂の脇屋で中華は?と蔡瀾先生ご推奨。ペニンシュラ東京二泊目。
6日目 永田町の黒澤でお昼のあと香港戻り。
アタシの胃袋では二日目のお昼でお終ひ、といふ感じ。この円高不況のなかかうして日本で豪華旅行していたゞけるだけでも御の字かしら。でも個人的には蟹づくしも今半のすき焼きも蔡瀾でなくても「いかにも外国人向け」だし中華グルメの達人が東京で創作中華推奨するのも、映画人「だつた」蔡瀾が「黒澤」贔屓なのも「さもありなむ」でアタシは全く食指動かず。

世界 2012年 02月号 [雑誌]

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