富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

岸とふ文字を歳時記に見ず

fookpaktsuen2012-01-13

農暦十二月二十日。小雨。京都B氏にイタリア産のワインテイスティングに誘はれる。晩七時半からで空きっ腹にワインも胃に悪いからウォーミングアップで麦酒でも飲んでから行こうかしら、と思つてゐたらB氏から「ワインテイスティングの前はどうされてます?」とメールあり。上環の永楽街にあるバーで麦酒でも……と思つて、と連絡すると「私らもよう寄らしてもらうバーですわ」といふことでCafe Nirvanaで待ち合わせ。晩のテレビニュースが日本のどぜう首相の内閣改造伝へてゐる。防衛相は軍事防衛に関して知識乏しいが「軍事に関する対中折衝では田中角栄の娘婿といふことで中国側が強く出られないこが期待され抜擢」と……なるほど(笑)。そこから西環でイタリアワインのテイスティング。或る修道院の歴史的建物と経営維持のため資金をどう集めるか、でいくつかのワイナリーが協賛し収益の一部をその資金に、といふ計画。それにしても香港がいくらワインブームといつても人口八百万人で百万人くらゐワイン飲む人はいてはるんかしら、である程度の市場はあるが千葉市程度。そこにいつたいいくつのワイン商があつてワイン屋があるか、と思ふと明らかに飽和状態。あまりにワインといふビジネスに人が鳩まりすぎ。そんな儲かるものぢゃない。会場でハムとクラッカーの一枚も供されず純粋なワイン試飲。隣席になつた食品関係の政府関係の方もお誘ひしてB氏と三人で十年ぶり?で西営盤の坤記。路上に張つた卓で羊腩煲と煲仔飯を二つ。美味。この時期はこれに限る。風邪のはずが勢ひつきB氏と銅鑼湾。バーSでB氏のジャックダニエル飲む。アタシも好きだがB氏のジャックダニエルへの忠義は立派でいつたい今まで何百本飲んだのだらう、とB氏。バーSでも過去七年で調べてもらつたら五十二本のボトルキープ。見事。
▼昨日は宮中で歌御會始。村上湛君に教へられたが「歌会始」といふ名称は昭和三年以降の新案。

天皇御製  津波来し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる
皇后御歌  帰り来るを立ちて待てるに季(とき)のなく岸とふ文字を歳時記に見ず

昨年末からきちんと綴られる湛君の日記(昨日はこちら)より。湛君曰く「御製は広い意味での「国見歌」である。ここでは昨春震災後の海を陛下ご自身見下ろされることにより、不慮の死を遂げた無辜の民の魂を鎮めておいでなのだ。御歌は実に細かな知的発見を糸口に、やはり、あまたの人々の無念の死に思いを致す透徹した理性がありありと顕われている」と。天皇陛下も立派な方だが平民出のこの皇后さまは本当に湛君の指摘するやうに知性と透徹した理性が素晴らしい。いつも皇后後歌には感心させられるが今春のこの「岸とふ文字を歳時記に見ず」は更に見事。