富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

路線バスでペナン島一周

fookpaktsuen2011-08-14

陰暦七月十五日。盂蘭盆。中元。朝五時ごろから小庭のテーブルで書き物などしてゐると厚かつた雲のなかから見事な満月が顔を出した。やがて夜明け。朝食をとつてからバスでひとつ先の漁村、Teluk Bahang へ。ここからバスを乗り継ぎBalik Pulauへと向かふ。バス停を見つけ猛暑のなか十分ほど待つとバスが来た。あとでわかつたのだが、このバス(501系統)はアタシらの乗つた09:30発を逃すと次は11:30だつた。ペナンの小高い山越へ。ドリアンの産地で路上に点々とドリアン売り。買つて頬張りたいが1個売りなのと当然だが、その場で割いてくれたりはしない。あくまでドライブ客に売つて自宅で食べるもの。それにホテルはドリアンとマンゴスチンまで持ち込み禁止だつた。もう季節外れとはいへ無念。Balik Pulauにつき小さな集落を散策。村の規模のわりに、いくつもの学校が充実。かなり教育熱心に映る。Balik Pulauは叻沙が馳名、旧市場隣りの老舗の茶室で叻沙食しライムのジュース飲む。Teluk Bahang に戻るバスは一時間半後なのでバスターミナルからペナン島の南をぐるりと周りジョージタウンの市街に向かふバス、401系統はまだ頻繁に出てゐるので、これに乗る。島の西南の郊外から空港をまわりちょっと庶民的な公共団地のなかを抜け巨大なショッピングモール眺め……で社会科見学のうち90分ほどでジョージタウンへ。ほんと車社会。ガソリンもマレーシアは安いし(それでもペナンは高い?)道路も確かによく整備されてゐる、がアタシは自動車社会の土地は苦手。郊外を走つてゐると整備された街並がどこかLAや豪州のパースなどに雰囲気が似てゐる。まだペナンの場合、バス路線網が整備されてゐるのは便利なのだが。欲をいへば、拠点から拠点に移動するには問題ないが、これだけの島で20数系統しかなく、そのほとんどがジョージタウンとの連絡。アタシは香港や東京のように自動車があると逆に不便なくらゐが好き。ほとんどのバス路線がKomtarを抜けるので、そこで下車。一昨日に続き再び格成茶室で叻沙、鶏飯と紅豆沙。バスでバトゥフェリンギに戻る。午後三時くらゐ。結局、ペナン島を路線バスで一周してしまつた。かなりのスコールが通りすぎたやうで乾きつつあつた洗濯物がびしょびしょどころか汚れるほど。プールサイドで読書。今日は団伊玖磨の「パイプのけむり」とその「続ヽ」をもう何度か読んでゐたがパラ/\とページを捲り再読。確かにエッセイが上手いなぁ、と感心するが、この「パイプの」連載が朝日グラフで始まつた時の伊玖磨はまだ41歳。それにしては当時の40歳は老成してゐるなぁ、と思ふ。パイプの嗜好だけはアタシはこの作家に似てゐる、がふと気づくとこの人は作曲家だつた。慌ててZ嬢に「ところで団伊玖磨の曲って何よ?」と問ふとZ嬢が「ぞうさん」と。うーん、確かに。エッセイのなかに交響曲何番、と出てくるがアタシは知らない。さういへば合唱曲で「筑後川」ってあつたよねぇ、とZ嬢と盛り上がる。中学の合唱コンクールで必ず学年で一クラス、金賞狙ひで意気込んだクラスが選ぶのがこの曲。筑後川とて、たかだか一級河川の一つなのだが、その川の流れをやたら勇壮に歌ひ上げ、よく出来てゐるのはピアノ伴奏が難しいのと、たかだか中学生の合唱の指揮なのに指揮者が「砂の器」の加藤剛みたゐに素敵に見えるのがポイント、で、とにかくクラスにピアノが上手な子がゐて、それっぽく歌ひ上げると必ず優勝、がこの曲。ところで調べて知つたが、この作曲家の「わがまち足立」つて行進曲、とても気になる(作曲年 も不詳)。どうせなら「荒川」って合唱曲も所望。隅田川、だと謡曲っぽくて艶がありますけどね、荒川だとだうするのか。
 実は隅田川の用水路    
 岸辺を歩くのは金八先生
 巷のおどけた区民たち     
 中州の幼気(いたいけ)なホームレスさんたち     
 こんちは、こんちは     
 川は歌うこんにちわ (略)    
 東京都民の千万の生活の幸を     
 祈りながら川は下る     
 江戸の海へ     
 荒川、荒川、荒川用水路
なんて歌詞で。晩にまたバスで(あたしらほど路線バスを使ふ観光客も珍しいだらう)Teluk Bahang へ。海辺のFishing Villageといふ海鮮の店で夕餉。まぁそれなり、なのだが、香港が、辺鄙な漁村の海鮮でもかなり見事なものを供されてゐることにあらためて納得。こんな辺境の、しかも村はずれの料理屋まで明日の朝刊の早刷りの新聞売りが来た。バスでバトゥフェリンギに戻りホテル近くのフードコートの印度料理で甘いロティ食す。
▼明日の光華日報にペナン州首席大臣で野党の民主行動党率いる林冠英が反・民聯(野党連合)のメディアを批評。今週号のエコノミスト紙に“Getting back its mojo - After a slump, an early engine of globalisation is thriving again”といふペナンの特集記事あり*1。これはこれで面白く読んでゐたが、これにつきMalaysia Tribune Today紙がブログで、この記事はペナン州がカネで書かせた記事で林冠英は首相の座を狙つてゐる(本人はそれを否定してゐる)などと揶揄。それに対して林冠英が反発、といふもの。それだけ、といへばそれだけ、なのだが、この紙面だけでも記事を拾つても、ペナンで民主行動党の総部と所属議員の事務所に漆喰で汚された事件もあり、これは結党から30年で初めてのこと。これがペナン州イスラム教の朝夕の祈祷でアザーンを拡声器で町中に流すことを禁止したことに対する不満、嫌がらせではないか、といふ声もあり。州政府はこの決定はペナン州の回教司署(Jabatan Mufti)に属する法規委の決定によるもので回教司署の成員は国家元首に任命されてをりペナン州政府は回教司署に干渉する権限もなく、この拡声器によるアザーン放送の禁止決定に関与してゐない、と林冠英首長とペナン州行政委員(回教事務担当)のイスラム系議員が会見してまで説明。次の国政選挙では民聯が現在の78議席だつたかを100議席まで延ばすといふ調査予測もあり政府系の青年団がそれを意図的と批判するなど、いろ/\話題には事欠かない状況。何より問題はKLでの政治が政府与党本流にとつての政局がアンワル鶏姦罪なんてのに陥つてゐることなのだが。ペナンは圧倒的に華人が多く勢力もあり、それに非イスラム系の印度やペルシア系なども反マレー本流で野党に加担するところもあり、さういふ意味では逆の意味で安定してゐるのだが、アタシは何だか、これからマレーシアの政局は、ことにペナンは物騒になりさうな気がしてならない。

パイプのけむり選集 旅 (小学館文庫)

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*1:記事のなかで林冠英の名前がMr Engになつてゐるがこれは当然、Mr Limですね。