富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-10-10

十月十日(日)雨模様。十月上旬の香港にしてはうすら寒い日が続く。昼すぎまで読書。安藤忠雄『連戦連敗』読了。安藤忠雄が感銘受けた本の一冊が露伴の『五重塔』の由。これを読んでも建築家はさうなか/\いはないだらう。香港で教育事業展開するG氏が別府の立命館APUと日本人倶楽部にて教育講演会開催あり拝聴。G氏の挑発的な「これからの世界で何をどう学びどうビジネスしていくか」で語られる内容は20年近く前から氏の持論。確実にその予測が現実問題化してきてゐるから。ほんと「日本沈没」の先の、世界各地に、やたら手先が器用で物静かで勤勉な、だけど言葉があまり通じない放浪する少数の群れとなつた民がぽつ/\と……を想像してしまふ。空想はさてをき、立命館宇治高校がIBを始めても海外からの転入生を受け入れるには日本で最低1年の居住歴がないと入学を認められないこと、フィリピン大学やダッカ大学の優秀な学生が(留学にあらず)日本の大学に専門課程で編入しようと思つても大学が定員に満たない場合を除き受入れできないこと……聞いて呆れるばかり。文部行政は「規則ですから」で、看護婦の国家試験の前に日本語が出来ないとダメなのと同様、こんな国に人材が集まろうはずもない。「外国人は嫌い」な愛国者だけでガラパゴス化してゆくしかないのだらう、南無阿弥。この講演会を途中で失礼してZ嬢と湾仔で待合せ畏友A君のアートオフィスがプロデュースする中山英之なるクリエーターの「草原上的門」参観。26系統といふ意識して搭乗したことのない路線バスで湾仔から西環をぐるっと回りHollywood Rdへ(日曜だからすい/\だつたが)。The Upper Station(公式)といふ写真ギャラリーで昨年91歳の大往生となつた写真家・麥烽の戦後の香港の写真を観る。雨に映える夕方の高台を漫ろ歩き久々に京香餃に餃子を食す。Caine Rd沿ひの旧店舗から隣のお洒落なオフィスビルの二階に移転。広さは倍以上となり小綺麗で従業員も揃ひのユニフォームなんて着てゐるが小汚い路面の舊舗(写真右)が懐かしい。アタシらが「女将」と呼んでゐた猫はどうしたかしら。さういへば尖沙咀の文華鶏飯も開業から半年で路地裏から山林道に移転拡張の由。贔屓にしてゐた小汚い小さな飲食店が繁盛の成果だらうが改装拡張なんてすると、つい足が遠のくのはアタシだけぢゃあるまひ。銀座のはち巻岡田とか恵比寿の(鳩が寄つたんで迷惑だつたが)「さいき」とか、いつ何年ぶりでも「おかえんなさい」みたいな、何も変はらぬ風情といふのも年々の飲食業には大切。香港でいへば雲呑麺の麥文記や湾仔の泉記、尖沙咀の鹿鳴春、北京水餃店等等。晩に木田元「なにもかも小林秀雄に教わった」(文春新書)読んでゐるのだがなか/\小林秀雄が登場せず。
▼今朝の明報に「97歲杜葉錫恩未忘民困」と久々に「香港の市川房枝」Elsie Tu(杜葉錫恩)刀自の元気な御姿を拝見(記事)。2001年に夫の杜學魁先生がお亡くなりになつたが今でもお二人で建立の慕光英文書院の理事長現役で学校の宿舎にお住まひの由。今回の取材は明報編集部に刀自より

親愛的編輯先生︰當我看到人們如何賺到上百萬上億萬的文章,我便感到厭惡和憤怒。當『自由市場』在西方開始時,富商是否忘記了它本身的目的,是在經濟場ェ長時帶動低薪工人或窮人受益?

と一通の手紙が届いたことが契機。刀自が指す「人們」はビル=ゲイツなのか李嘉誠なのか、いずれにせよ富豪が巨額の寄付で福利基金創設しても本来、自由市場は経済成長に伴ひ低収入の労働者や貧困層も受益があるはず……と貧困格差は拡大するばかりで、さうしたなか富豪の寄付行為の欺瞞を指摘される。御意。2001年に杜學魁先生逝去され、刀自には英国に姉が健在で英国で一緒に住まほうか、と思ひもしたが香港に一人の身内もなき學魁先生と一緒にこの香港にありたひ、と刀自も故郷の英国にはお戻りにならず。
▼「皇太子ご夫妻“襲撃”元活動家が名護市市議に当選 基地闘争激化か」と産経新聞なら「業界紙」だから放つてをいても良ささうだがYahoo! Japanに配信されてゐるから怖い(記事)。米軍の辺野古移転で県外から反米・反日活動グループが集結の由。反米はわかるが反日って……嗤ひ。基地反対「闘争」がこれまで以上に過激になるのではという危機感が地元で広がっている、と(これが地の文なんだから)産経は煽る、煽る。この元活動家といはれる川野市議は皇太子(今上天皇)沖縄訪問を「天皇沖縄戦の問題を考え、ふと現代に目を移すと、同一線上に巨大な米軍基地がありました」と振り返つてゐるさうで、この一言は沖縄の戦争から戦後を省みると実に重い。それにしてもこの記事が怖いのは

公安関係者は「市議という公の立場にあることで、川野氏の発言力も増す。全国から同志が集まり、反対運動が激化する可能性も高い」と警鐘を鳴らす。

なんてさりげなく書いてゐるが公安関係者が産経の一記者に対して、活動家歴があつたにせよ選挙で当選した市議の発言力が増すことで全国から同志が集まり反対運動が激化……とコメント(マジに?)。それを産経の記者がまた調子に乗って公安関係者が「警鐘を鳴らす」って(笑)。アタシは元左翼活動家が市議になることより公安がこれに警鐘を鳴らす警察国家の方がずっと怖い。公安から何を聞いたのか知らぬが産経の記述も稚拙。一人の市民の

最近、県外から活動家らしい人物が集結しているようだ。反対運動を展開していた地元のオジーやオバーも反対運動から排除されつつあるという話を聞いた。県外から反対活動家が集まり、辺野古が反対運動の拠点になるのではないかと不安だ。

なんてコメントは「いかにも」だが「……ようだ」「という話を聞いた」で推量、伝聞をそのまゝ伝へるとは。商業ジャーナリズムの水準にも達してをらず。JanJanでも素人記者の記事でもデスクがもう少し「報道の基本」みたいなものに気をつかふだろう。で記事の最後は基地反対運動に「地元の退職教職員会支部が最近、復活」したことに地元では危機感、「全国から退職教職員が夫婦で名護に来て選挙活動を展開」(名護にサポーターで集まる退職教職員はみんな夫婦らしい……熟年の夫婦で歩く奥入瀬渓谷みたい)することに危惧、と。まだ産経は日教組憎しか……もう政権与党の支持母体なのに(笑)。

なにもかも小林秀雄に教わった (文春新書)

なにもかも小林秀雄に教わった (文春新書)

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