富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

馬湾に往く

fookpaktsuen2010-08-20

八月二十日(金)晴。馬湾に四年ぶりか、で往く。晩に西湾河の電影資料館で舒琪監督の1996年の映画『基佬40』見る。
▼馬湾は新界深井とランタオ島の間に浮かぶ1平方キロほどの小島で古くから小魚の漁業と蝦醤など海産加工で生計立てゝゐたがランタオ島に新空港建設が決まり青馬大橋が架かることになり馬湾は大橋の巨大な橋桁の杭が打ち込まれ馬湾の運命が大きく変はる。それまで新界深井から小さな連絡船が往復するだけの不便な離島だつたのが自動車乗り入れ可となつたことで貪欲なる財閥系地産業と政府の所謂「官商勾結」で馬湾の宅地化、大規模集合住宅建設計画が浮上し新鴻基が開発権をゲットしPark Island(珀麗灣)なる数十棟からなる郊外型マンション建造(こちら)。アタシがZ嬢と初めて馬湾訪れたのはもう十年も前だつたか当時はすでに青馬大橋は掛かつていたが深井から船で渡り馬湾大街の集落に遊んだが小さな崗を越へると、すでに大規模なPark Islandの造成工事始まつてをり、この島の昔からの住民の将来がどうなるものかとぞっとしたが政府は従来の「小汚い」集落の解体を決定。その代替にPark Islandの裏手の丘陵地に新村を建設。旧住民はそのこぎれいな新村へ移住させ旧村の家屋は政府が接収済み。まだ数世帯が移住拒み居残るが政府と地産商にしてみれば島西側の沿海のこの旧村を将来的に自然観光の娯楽施設としてだか開発することで馬湾の付加価値を高めやうといふ次第。すでに深井からの連絡船もなく今日は中環からPark Islandへ30分毎に出る高速船。Park Islandは本来であればハックスリーの「すばらしい新世界」のやうに薄汚い旧村から遮断された、選ばれた市民の好環境の理想的な集合住宅地になるはずだつたかも知れないが、一つの島の住宅開発が一つの地産商に独占されること=居住者が土地利用のexclusiveになること、がpolitically incorrectであるがゆゑに、本来であればマンション敷地内は「通り抜け禁止」にしたいところだろうが、不思議なほどPark Islandは開放されてをりマンション群を抜けると旧住民が住まふ馬湾新村と往来自由。興味深いのはその旧島民が居住権ある住宅の世帯の多さ。旧村にこんなに住民がゐたかしら?と訝るところ。「おそらく」かつて馬湾の少なからぬ住民が就労や教育の不便から島を離れてゐたが居住権あることで政府の旧村接収で代替の新村の住宅への居住権を得られ馬湾に戻つて来たのではないかしら。さうしてPark Islandの高級マンション群に住む新住民と、新村に引っ越して来た旧住民の隣合わせの社会が構築されたわけだが興味深いことは、それまで小魚や魚介類を穫る漁業くらゐしか生業なかつた馬湾で(島への出戻り含む)旧住民にPark Islandの新住民相手の商機が生まれ、飲食店や生活雑貨、英語教室からペットショップなど新村に点在。何とも不思議な共存関係。もはやこの馬湾の実質的な独占地主となつた新鴻基だが、問題は中環、荃湾まで往復する高速船と、青衣、荃湾を連絡する路線バスの経営コスト。二、三千世帯だけの需要に頼れず数年前に無理矢理「ノアの方舟」(こちら)なる観光施設を造り外部からの交通需要の増加目論み、政府による旧村の解体も「薄汚い集落の撤去」と自然観光娯楽施設の近い将来の充実、で更に馬湾へのビジター増やし交通機関の経営改善が目標。「開発」なるものの実にわかり易さ。
▼舒琪監督の映画『基佬40』は1996年当時、見ておらず。前年に確か「女人四十」(許鞍華監督、主演:蕭芳芳、老父役が喬宏)あり。林子祥が40代の主人公のゲイ。恋人役の陳小春が「いかにも」なゲイ役で天真爛漫に生きるが林子祥が演じる40代はカミングアウト、社会的立場、婚姻などで悩み、この映画が上手いのはゲイに限らず40代のミッドエイジクライスを様々なエピソードで語るところ。脚本は監督自身と鄺文偉。

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