富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

Asian Youth Orchestra 20th

fookpaktsuen2010-08-12

八月十二日(木)朝、驟雨のあと晴れ。早晩にZ嬢と尖東。一平安に食す。焼き餃子とカツ丼。Z嬢は長崎ちゃんぽん。テレビニュースは甘粛省舟曲の土石流惨禍の報道続くが何故、あんな山間の渓谷にあれほどの「都市」が出来るのか(人口13万人)。文化中心。Asian Youth Orchestraこちらの演奏会。毎年夏恒例で見せてもらつてゐるが、もう創立20周年の由(今月末の日本ツアーはこちら)。James Juddの指揮でAlban Gerhardtこちらを招きシューマンのチェロ協奏曲。中入り後はマーラーの5番。シューマンのチェロ協奏曲はやはりアルバン=ゲルハルトとのレベルの違ひで合奏は容易ではない。生では数年前にMichael Tilson Thomas指揮の桑港交響楽団でリン=ハレルで聴いゐるが、今晩は一寸詰らない曲に聞こへてしまつた。マーラーの5番はこの楽団の全員出場体制。難曲のやうで十代から二十代前半の彼らが例へばモーツァルトハイドンの「普通の」交響曲を演奏したら譜面上では簡単な曲でも実際は聴かせるには難しくマーラーのこれとかラヴェルとかの方が良い選曲。力む若い楽団員をJuddが巧みに誘ひ、木管など音量足らぬところは「のだめ」のRSオケのやうに楽器を高く翳し、それにしても第1楽章のファンファーレから活躍するトランペット奏者(Chen Yan Bin)が実に大人顔負けの上手さ。ヴァイオリンといふ楽器がいかに難しいか、を思はせるが、この難曲をアジアで十代の若者たちが弾いてゐるのだからマーラーも驚くだらう。さすがに第4楽章のAdagiettoが難しい。若造にさすがにそれを上手にこなされたら困るか。第三楽章(スケルツォ)でガシ/\に緊張しつゝこの楽章の間ずっと立つたまま演奏で大役を無事務めた首席ホルン奏者の少年がフィナーレが終わるなり、まるで打者を三振に打ち取つた投手のやうに「よっし〜」とガッツポーズで前述のトランペット君やホルンの仲間、ティンパニー君と舞台上で握手したり抱き合つたり、ふだんの大人の演奏会では見られぬかうした光景が何とも微笑ましい。余談だがユースオケを「子どものための演奏会」と勘違ひして入場制限6歳のところ幼児連れてくる親多く閉口するところだがシューマンのチェロ協奏曲では飽きてゐた幼子がマーラーの5番では葬送進行曲から第2楽章の激烈など演奏に釘付けになるのは怪獣でも登場しさう、と思ふからなのかしら。子どもはあゝした劇的で勇壮、破壊的なのが好き。大人もだが。更に余談だが会場にこの楽団の監督で20年間をこれに賭けてきたRichard Pontzious(リチャード=パンチャス)氏のお姿あり。昨晩のシュトラウスはこの方の指揮で今晩はお弟子筋か隣に中国人青年を連れて。「日本語と中国語を流暢に話す」「人生を音楽に捧げて」きた「人道主義者」とか、かうした、まるで「淀川さんが一生を映画に捧げた」みたいな言ひ回しをアタシはどうしてもナンシー関のやうに「はたしてホントにそれだけで人生は満足だろうか?」と見てしまふ。「必ずしも全員がプロへの道に進まなくてもいい。ここでの経験を誇りに、それぞれの場所で音楽の喜びを伝えてくれる人間に育ってほしい」(朝日の記事)とパンチャス先生。

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