富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-08-06

八月六日(金)いつものやうに朝六時には起床。ハノイの朝は早過ぎ。もう公園ではバトミントン好きがもう朝練で盛り上がってゐる。昨日からちょっと頭痛。昨晩飲んでゐたRuou Vodkaなる地元産の安ウオツカの所為かしら?、目がちょっとごろ/\して痛みあり。朝食まで「金正日入門」読む。読了してバンブーバーの書架に還す。石田千『月と菓子パン』(新潮文庫)読もうと思つたが、かうした随筆は何かの雑誌の連載でちょっと読むから良いのであつて続けざまとなると泣菫の「茶話」ぢゃないが一寸、つらい。唯一の例外は戸板先生の「ちょっといい話」だらう。Z嬢は再び河内大教会の方に出かけたがアタシは部屋に寛ゐでばかり。須賀敦子の全集第1巻(河出文庫)読み始める*1。買物から一旦戻つたZ嬢と晝はホテルを南の方に歩き路地のカフェで食し昨夕に続きホム市場の方へ布地行脚?に向かふZ嬢と別れる。本当に一人で良く歩ける人だ、とZ嬢に感心。それが銀座とか巴里ならなんだがハノイでもバスに乗つてよく何処へでも出かけてゆく。今日は猛烈な暑さ、といつても摂氏33度くらいかしら。北見では摂氏37.1度の由。アタシは一旦、ハノイ駅の方に歩いてふら/\してから1系統のバスで旧市街北へ。整体と所謂、吸ひ玉。また1系統で市中心に戻る。夕方、宿に一旦戻り晩はまた七時くらゐに夕食の終はつてしまひ、と思ふとせっかくだから、と河内名物といへば河内音頭だが越南河内は水上人形劇ださうでアタシはかうした観光客相手のエンターテイメント*2は苦手だが折角だから、と重い腰を上げることに。夕餉は、ずつとベトナム料理の、それも路上の腰掛け料理ばかりよね、とホテル近くでビアホイで麦酒一杯だけ飲みTaraといふ創作ベトナム料理屋で夕餉を、と思つたら古い洋館のこの食肆も昨日のオーラックカフェと同じく建物が壊されてをり観光客御用達のタマリンドカフェでメインのみ。水上人形劇まで一時間半あるがホアンキエム湖北の観光客の多さに酔ひさうで(ってアタシらもその二人だが)人の少ない方、少ない方と逃げたらBát Đàn街49番に昨晩のLu Duc通りの老舗のフォー屋のようなオーラがある更に雑多で客が絶へぬフォー屋あり。夕食済んでゐたが思はず頬張る。ベトナムでフォーはこの店もđồng2〜2.5千と安くない。この食肆は化学調味料が入つてゐないか、かなり微量なのかMSGの虜客は求めると別に化学調味料を茶匙で一杯もらつてフォーの肉をつけて食してゐる。これだけ客で繁盛するだけあつて別格の美味さ。かなり小汚い店だが、それがまた風格になつてゐるから。一昨日に来たビアホイが近いがもう時間がないので水上人形劇場へ。二、三百人収容の劇場は満員。夕方から四、五回の公演あり。内容は確かに精巧だが地方の田舎文楽程度の無形文化財レベルだらう。それを首都の外国人旅行者相手にベトナムを代表するやうな伝統芸能に仕立てあげられてゐるのは偏へに外国人相手のエンターテイメントが他に乏しく言葉が解らずとも理解できる稚拙な内容を45分にまとめ、しかもS席でUS$3といふ、まぁ内容がだうのかうの、と評するものぢゃないところで晩の文字通り「余興」に収めてゐるところが立派。これこそマーケティングといふものだらう。客席最前列で人形劇の撮影と録画に病的に熱心な初老の客あり。カメラバッグのためにも隣席を確保するほどのはヨーヨーマか、アンタは。撮影に遠慮がないのだが背後から見ていると肝心なところのシャッターチャンスを逃してばつかり、がトーシロー。だん/\興奮してきて舞台にかぶりつきの水かぶり。人形劇よりこのオッサンのパフォーマンスの方が客にウケる。ちなみにベトナムは今年700万人の外国人来越を見越す。日本に昨年一年で訪れた外国人は680万人で円高での日本回避もあり確実にベトナムの方が日本とり外国人にとつて気軽な観光先。こんな、といつてはベトナムに失礼だが観光資源はけして多くなければホーチミンハノイもこのオートバイの群れと大気汚染、煤塵、単調な食事……と、あの小さい、まるで茨城空港ような南と北の二つの空港で700万人を捌いてゐると思ふと大したもの。欧米人にとつてこの秩序と対照的なカオス、都市の混雑、埃とスコール、その中に身を置くことがある面、日常生活からの乖離、ストレス解消になるのかしら。それにしても市街を漫ろ歩いてゐると、そこいらの路地/\に腰掛けて通りを眺めるオリュウノオバがをりタイチのやうな若さゆゑの一瞬の輝きに本人が気づきもせぬまゝ路上を徘徊し路上の食堂で料理を運びオートバイ駐車を整理する若者たちがこちらにも、あちらにも。健次の世界そのものなのだから、こちらは頭がくら/\(ここ数日、麦酒に日常的に酔つてゐる所為もあるのかしら)。ホテルに戻り寝しなに須賀敦子の随筆(第1巻)を読むが今一つアタシには合はないところあり。その世界に耽むに能はず。ただアタシが塩野七生の芸風を厭ふやうな生理的な拒否反応が須賀にあるはずもなく、たヾ書かれてゐる内容がアタシにつまらないだけだらう。第2巻まであるので明日はそれを読んでみよう。

   
須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)

須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)

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*1:アタシが記憶にある女流(といふ言葉もおかしいが)エッセイは意識して読んだのは木村晴美の「黄昏のロンドンから」が初めてだつただらう。「黄昏」が読めず母にわらはれた。この頃のニュートラル(に見えた)木村晴美は面白かつたがPHPといふ出版社を識つたのもこれが最初で<松下>がいかに政治的か、を理解するのに数年も要らなかつた。当時その政経塾は単に自民党の政治家の孵卵器だと思つてゐたが当時は社会党で全く実現不可能だつた政権交代がこの政経塾の卵が孵化して実現しようとは……。

*2:上海雑技団、中国の少数民族村の舞踊、常磐ハワイアンセンターのフラダンス、ロシアのコザックダンス、北朝鮮は?などトラウマのやう。