富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-04-02

四月二日(金)小雨。巷は今日から耶蘇の復活祭で五連休。春物の仕立て仕事一向に追ひつかず早晩まで官邸にて針仕事。昏刻に中環。市大会堂で中村義洋監督の映画「ゴールデンスランバー」(www.golden-slumber.jp)見る。「アヒルと鴨のコインロッカー」もさうだが伊坂幸太郎の原作で仙台が舞台。勾当台公園や通町、東一市場など懐かしい風景に思はず映画の筋を追ふのも忘れ見入つてしまふが一番町などすつかり廛補が変はつてしまひ驚くほど。映画として面白いし客も拍手喝采だが自民党で首相の座を狙ふ幹事長が警察も巻き込み首相暗殺つてちよつとねぇ……。次の映画までの幕間に市大会堂の外でZ嬢買つてきたサンドヰッチ頬張る。自宅で入れてきてくれた珈琲。若松孝二監督の舞台挨拶ありで映画「キャタピラー」(www.wakamatsukoji.org)を見る。音羽屋がベルリンで最優秀女優賞。若松監督が「また香港に来ました。日本の中国侵掠も描かれてをり皆さんにお叱りを受けるのは承知で」「映画は一時間25分であつとひふ間です。終はつたら皆さんといろいろ話し合へるのを楽しみに」と。とさすが見事な挨拶。最近では香港で「赤目四十八瀧心中未遂」、1969年の「ゆけゆけ二度目の処女」それに浅間山荘物と若松作品をアタシも良く見てゐる。対中戦で四肢を失つた軍人、それが芋虫となり故郷に戻り軍神と崇められ、それを健気に介護する妻、その芋虫と妻との性交、妻の軍神への嬲り、中国でのレイプへの反芻と監督の反戦意識……と85分は濃厚。乱歩の「芋虫」を知らぬ観衆はこの物語にかなり驚くだらうが「芋虫」を知る者も(昭和四年に「芋虫」を出した乱歩の嗅覚も凄いが)あの乱歩の作品をかう演出したか、とやはり感歎するのは、太平洋戦争期に置き換へ戦争の罪悪の告発、さらに皇国日本の欺瞞さの曝露といふ若松ワールドにしてしまつたこと。更に敵陣に命捨てゝ投身で敵に大きな損害与へた代償に四肢失つた軍神……がその神話も実は、と盛りだくさん。でも何故、日本での劇場公開が今年八月つて(敗戦に合はせたのかも知れないが)そんなに遅いのかしら。質疑応答嫌ひ帰宅してあらためて乱歩の「芋虫」、ある面、鏡花のやうなエロティシズムに耽読。
▼狄娜逝去(1945-2010)。広東新會人。祖父は新會の大地主で父は弁護士、法学者で広東省稅務局副局長。1962年開始に映画界でデビュー。ヌード、濡れ場も厭はぬお色気女優の先駆。70年代から親中共を公言し北京中央とも親密。セクシー女優で政財界のVIPとの親交もあり北京の女諜報とも云はれる。若い頃に宝石業に失敗し億の負債抱へたが改革開放後の中国の宇宙開発事業に関与。親中派だが23条立法反対や71デモなどで派に衣著せぬ果敢な発言も怖ぢけず。


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