富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

映画「歲月神偷」

三月十六日(火)早晩に銅鑼湾。Z嬢と映画「歲月神偷」見る。張婉婷のプロデュースで監督は羅啟銳。頑な親父(任達華)と気丈夫な妻(吳君如)が営む路地の違法建築で警察官に賄賂強請ひされる小さな鞜舗。長男は拔萃男書院(DBS)に通ふ穎才で勉強の苦手なヤンチャな弟の四人の1960年代の香港の物語。劉健威兄がこの映画の試写を見て「維園阿伯是這樣煉成的」と書かれたのが秀逸(信報、十日)。香港の嬰兒潮(ベビーブーム)世代にとつて貧窮な環境で勤奮負責の父親、それを支へる母の下に育ち、当時はまだ貧窮でも努力さゑすれば、と健威兄は自分は落ちこぼれだが、と自嘲するが貧困なる家庭でも二人の兄はDBSとラサール、妹も女拔萃に進学出来たのも今の教育、社会制度では難しいだらう、と。どうであれ任達華演じる当時の典型的な父親:ロクな教育も受けられず家族養ふために、と毎日苦行して働き続け辛酸を嘗め圧力に耐へかねられず時には妻子に暴力を振ゐ性格もどこか屈折し政治的には極左か、さうでなければ極端に右、でかうした世代からキョービの「維園阿伯」が生まれたことも、ある面、想像に易いこと、と健威兄。御意。映画終はつて北角の、べつにこの映画に合はせたわけぢやなかつたが精點茶餐庁に食す。涼瓜牛肉飯。一時期は西洋料理や食後のデザートまで出すほど洒落ていてが最近は亦た地味な茶餐庁に戻る。七、八年前までは向かひに巨大な北角邨の公共団地あつたが今では今では人通りもなく晩など閑か。改装もながくしてをらぬ煤けた店内に客は些か。娘と息子が新聞を黙読しながら親の営むこの食肆の終はるのを待つを眺む。
▼東京とが青少年条例改正で漫画など架空でも18歳未満のキャラクターの性描写規制。創作性の制限と漫画家や出版業界は反発、アタシも行き過ぎで違憲だと思ふ。都側は答申書で「極めておぞましい性的虐待をリアルに……」と指摘するがアタシは石原都政のはうが「極めておぞましい」と思へてならず、なんてネットで記述すると、今度はネット上での中傷書き込みも名誉毀損最高裁が判決。もうファシズムだ、これは。それにしても専門医が「子どもを性の対象にした過激な漫画が社会にあふれており」それが「それを読む中高生に誤った性の智識を与えている」といふが(朝日)子どもを性の対象にした過激な漫画を読むのはオヤヂたちで中高生ぢやないし、そんな漫画から誤つた性の智識を得てしまふほど中高生は馬鹿ぢやない。都の小学校PTA協議会も「こうした漫画などの蔓延によって青少年の判断力や常識、価値観が幼いときから歪められてしまう危機感が強い」と改正に賛成。子どもも判断力や常識、価値観が歪められるのはそんな漫画の所為ぢやなくて親の教育力の乏しさ。不安と言説ばかりが一人歩きの「極めておぞましい」風潮こそ怖い。
▼映画「歲月神偷」について(以下、映画の筋に関する記述)良い感じで物語進んだが颱風襲来のあたりで「ん?」と思つたが、不幸な筋の展開、演出が果たしてどこまで要るのか、疑問。兄は一流の弁護士となり弟は父の鞜屋業継ぎ兄の出資で……でも良からうもの。不幸で涙を誘ふのは演出として易しい。

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