富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

澳門に遊ぶ(二日目)

fookpaktsuen2010-01-24

一月廿四日(日)宿房が冷暖房機だつたのが幸ひ。次の間の方を暖房つけたまゝで寒さ感じず熟睡で朝。地味だがそれで十分な、パンと自家製ジャムの美味い朝食。ゆつくりと週末=昨日の新聞読み。今朝の香港の新聞はまだ届かずマカオの新聞などホテルも購読すらしてをらず。朝食後に望厦西洋墓地を散策。昔からの西洋墓地のうち歴史的に遺される墓地も多いが此処は無縁仏(と言ふのも耶蘇では変だが)の墓はだいぶ整理されちまつて最近亡くなつた者の墓石がかなり並び西洋墓地からかなり中国化。それでも墓石に嵌め込まれた写真は中国人なのだがPedro Antonio Xavier da Silvaなんて、いかにもマカオの土葡な名前を見かけたりもする。やけに二十代の青年の墓が目立つ。そんなに病死するやうな年齢でもなく故人の遺影見て失礼ではあるがマカオならではで当時の「抗争がらみか」などと思つたり。昨日に続き二龍喉公園まで散歩。つひに五度目の正直くらゐで熊とご対面。すつかり老けてもう動くのも難儀な様子。午前中ならセナド広場から大三巴もまだ観光客少ないかしら、と出かける。モンテ砦に位置するマカオ博物館にかなり久しぶり。常設展は最初か感動したが常設は不変。強ひて言へばホテルベラビスタの看板や各部屋のプレート、陶器や銀の食器具など展示され懐かしいかぎり。Z嬢と宿泊はもう十五年くらい前かしら。今回こゝに来たのは“Os Anos Vermelhos - Exposição de Fotografias por Zheng Jingkang”(紅色歲月:鄭景康攝影展)展示中のため、で参観。散歩してバスで正午前にホテル戻り。退房。荷物預け出街。荷蘭園の利多餐庁に食す。土葡系末裔の老婦人の経営なる食堂。女将が引退すれば終はりか、と思つてゐるが内部改装中でまだ続けるやう。給仕どころか料理もフィリピン系でどこが「伝統的マカオ料理」か不明だが鄙びたこの食肆がZ嬢とアタシは好き。女将が店に孫を連れてきた妹か従姉妹と話す会話も二人とも見た目にはすつかり中国人なのだが葡萄牙語でぼさ/\と世間話。客も土著だがどこか土葡系少なからず。赤葡萄酒の小瓶入れて二人で150パタカくらゐの昼餉。盧廉若公園の茶具博物館だか通り抜け培正中学から通称「三盞燈」と呼ばれる圓形地に往き下町の商店街からごみ/\した市場を抜け紅街市の方まで散策。野菜など旧正月前もあるが香港に比べ僅かに高値。宿に戻るがフェリーまでまだ少し時間があるので望厦砲台まで上りアタシは暫し昼寝。宿で荷物受け取りバスで波止場に戻り16:15発の「プレミア」ジェットフォイルに乗船。客はわづか二十名ほどで而も二階席は八十席ほどにアタシら二人だけの貸し切り状態。香港に戻り晩は軽く蕎麦を茹で食す。
▼鄭景康(1904─1978)はマカオを出自とし少年時代は上海で教育受け写真撮影覚え1929年に香港で写真館開業。かなり富裕の生活を捨て1938年に内地での抗日救国文芸宣伝工作に十時。1940年に周恩来の安排で赤色中国の革命拠点延安に入り1941年〜1945年に八路軍で記者、撮影師として活躍。1942年の中共が毛澤東の主宰で行つた文芸坐談会に唯一の撮影界代表として参加。1949年の「開国大典」で天安門に掲げられた毛澤東の巨大な肖像画も鄭景康が撮影した写真が元。その後、中国写真界の重鎮として君臨。毛澤東ら多く革命期の政治、文化界の重鎮ら写真を遺す。今回、このマカオ博物館での特別展は鄭景康の「愛国愛澳」の精神を(無理矢理だが)中共建政六十年とマカオ特区成立十年でマカオ市民の皆さんにご覧いたゞきませう、と。
▼本日搭乗の「プレミア」ジェットフォイルについて(覚え書き)。マカオの観光開発は三時間要す香港からの航路の時間短縮、とStanely Ho氏の信徳集団が何十年前かに導入したのが米国ボーイング社の単胴型水中翼船のジェットフォイル。香港〜マカオを一時間で結びマカオの集客に大きく貢献したが現在のこの航路の主力は大型の双胴型の英国製のハイドロフォイル(Tricat)や水中翼船でもノルウェー製の双胴型(Folicat)など(こちら)。それでも親しみ込め「ジェットフォイル」が通称。だがボーイング社のそのJetfoilも老朽化しYクラス207席、Sクラス32席といふ大きさはTricatのY-272〜282席、S-45〜48席やFolilcatのY-333席、S-82 席に見劣りあり。そこでボーイング社のそのジェットフォイルの内装を全面的に改装し「プレミアジェットフォイル」化。値段設定は通常のY席より高いがS席より多少安く、飛行機でいへばプレミアエコノミークラス(詳細こちら)。まぁさういふ価格設定もあり、だらう、が問題はジョットフォイル一艘をプレミア化してしまつたことで普通のエコノミーより70ドルだか高めの設定で中途半端な設備とサービスに客足は退く。しかもS席の富裕層も敬遠。なぜなら15分に一本だか走り繁忙時間帯には増発もありY席でもS席でも適当な時間の便でチケット購入しておきウェイティングで先発の便への乗船変更も容易。その利便性のなか二時間に一便あるかないか、のプレミア便は、チケット購入しておいて15分、30分前の先発に乗らうと思ふとY席へのダウングレードかS席なら差額払ふ必要あり。急ぎの客もこのプレミア便に乗らずとも15分後に次便があればちよつと待つだけ。で誰からも敬遠されプレミア便の運行は大失敗の態。今回これに乗船はかなり馬鹿/\しかつたが「近々廃止」は明らかなプレミアジェットフォイルと思へば後世語り草にはなるかしら。それにしてもこのボーイング社製のジェットフォイル、今さらまた主力に復帰も出来ず廃船にするにはまだ惜しく……で扱ひ憎い。バスなら豪華サロンカーで「貸し切り」専用に出来るが150人くらゐで香港〜澳門や珠海など動く団体など、さうはゐない。将来的には賭王崩御マカオに分骨でもあれあば法事のたびに親族一同が利用できるが正妻ら四人の妻の各家族の啀み合ひも考へるとプレミア号に同乗は難儀。利用できるのは日本の悪徳リフォーム会社の珠海買春ツアーくらゐかしら。
▼唯靈先生が先週末の信報でハイボールについて書かれてゐる。半世紀もスコッチのブレンドウヰスキーソーダされた思ひ出とハイボールは安酒でいゝのであつて十二年以上のウヰスキーならロックやストレートで飲むべき、とウヰスキー飲みには常識的な内容。だがその文章に添へられた写真はロックのウヰスキーとブランデー。信報など香港ではかなり酒に一言ある新聞と思ふが、それでもハイボールの記事にこんな写真添へてしまつて校正なりで誰も気づかず。それくらい香港は酒について素養がない。酒を飲まない輩がバーテダーになる、なれる世界。酒がないところに文化は育たぬ、といふとシンガポールは該当するが伊斯蘭圏から大顰蹙かしら。

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