富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月十九日(木)ほんの少し寒さ和らぐ。午後遅くヴィクトリア山頂。訳あつて山頂のまはりぐるりと歩く。心地よし。燈刻に北角。夕食の約束までちよつと時間ありHatbour GrandホテルのLe 188° Restaurant & Loungeに一飲。眺望は最高、前回指摘した通りのネオンサイン目障りで最初通された眺望良き席を厭ひネオン避け眺望などどうでもいゝので内部の席に移りドライマティーニ飲む。客は二、三人と閑散。ロビーには田舎漢の大陸団体客目立ち彼らが昇樓してきて騒がないだけ幸ひ。供されたマティーニには三粒の潰れたオリーブ。音楽がチック=コリアとウェイン=ショーター?つて感じなのは素敵。壁に高級ワインが飾られるのは良いが全部、空瓶。今晩、アタシにとつて二つ大きな驚きあり。一つ目は香港の飲食施設で暖房が入つたこと。冷房寒からず心地良いな、と思ひ新聞読んでゐたら暖房になる。おそらく室内気温が摂氏十八度くらゐに設定されてゐて暑ければ冷房で室内は極寒になるところが湾岸沿ひの地上四十一階で室内もさすがに温度下がり暖房が自動的に働いたのだらう。緩い通り越して少し暑かつたが。もう一つはドライマティーニの「おかはり」について。普通、世界中どこでも一杯目を飲み終はり空のグラスがあれば「もう一杯如何です?」とバーテンダーなりウェイターに声をかけられ、あるいは香港の場合まだ酒が残つてゐても二杯目勧められるのも当たり前田のクラッカーなのに一杯目を飲み終はつてもウェイターも誰も「二杯目は?」と尋ねて来ず。註文しようか、と思つたがモノは試しに時計で時間を見、待ち始める。五分、十分、飲みたいと思ひつゝいつ「もう一杯如何です?」と待つ気分は筑波の蝦蟇か。結局、二十分、アタシが去る時間までの孤独。支払ひ済ませ店を出る際に数名の給仕、レセプションとそれ違つたがぼーつとしてたり書類を眺めてゐたり、で誰一人として「ありがたうございました」「またどうぞ」も、なし。あまりの閑散に従業員がスヰツチオンしてゐないのかしら。近くのWhitfield Rdの食肆 Jacky's Kitchenに三重Mご夫妻、Z嬢と食す。ペニンスラホテルだとか名立たる食肆で厨房務めたさうなJackyなる厨師の小さな店。味はかなり慥か。喉が渇いて飲んだハウスワインのApaltagus gran Veranoなるチリ産のSauv Bl(08年)がかなりドライで飲みやすく一昨日に味をしめ持ち込みはChâteauneuf-du-PapeのCh. La Nertheの05年。
▼中国のクレジットカード発行枚数が二十億枚突破。今年に入り八月までのクレジットカード犯罪が六千件と聞けば二十億枚で六千件なら0.0003%で皆無に等しいが犯罪額は四億元、つて一件あたり六萬七千元。
▼雑誌『世界』十二月号より覚え書き。特集「東京都政も転換を」と題して「石原時代の終焉」と副題をつける。石原時代の悪夢は倒したのではなく、たゞ/\終焉を待つ、といふ何とも弱々しい姿勢だが。(町村敬志平山洋介の対談より)東京だけの生き残り。「東京」と「それ以外」の無関係。国際的に新自由主義的に世界都市が勃興してゐるが(紐育や倫敦)東京はそれに加へ国家主義的な開発主義の枠組みの中での都市開発(ある意味、かつての伯林的かも)。石原都政での初期の東京の計画はいはゞ人々をプロセスに向けて動員し危機を煽つて動機づけを高めてゆく、がゴールはよくわからない、といふもの。それが東京オリンピックはわかりやすいゴールが作られ政策が運営される(この時点ですでに新自由主義的には失敗)。また東京は一つでないこと:下町と山の手の格差はかつてもあつたが東と西での階層格差(収入や学歴、職業など)。80年代のバブルで都市ぢたひが不動産化。二回目のバブルでは不動産の証券化、都市空間の金融商品化となる。本来の都市計画と建築規制は都市空間を作る行為を市場経済から隔離するための技術、それが東京では建築と金融商品が同列に。東京が東京として東京だけで富と繁栄を享受。ある面、石原慎太郎は好き嫌ひは別としてその象徴的存在かしら。この大都市とその他の隔絶は東アジアの多くの都市に共通する課題。(教育について:世取山洋介)石原都知事の新国家主義的と思はれてゐた教育は實は新自由主義的。子どもの能力に見合つた=普通教育を全ての子に提供する公教育制度の解消=教育コストの余剰を選抜主義的な教育に。小中学校での特別区、市町村レベルでの学校統廃合と学校選択のリンク。単純な児童生徒数の自然増減でなく、市場競争の結果生き残る学校の選定。競走の低年齢化で子どもの受ける教育に親の資力の影響大。修学援助率高=学力テスト成績が低い、は明らかと。でも公立学校の学区制解消など除けば競争主義とか貧困と恵まれない教育環境の問題とか、けして石原都政に限らずアタシら子どもの頃からずつとあつた気もするのだが……。あまりに全てを「石原の所為」にすることは「激増する兇悪犯罪」と同じで煽り鴨。
ウイグル穏健派(同じく『世界』の記事より)ウイグル独立を目指さず中国の近代化、民主化ウイグル問題の解決となる、と主張。ゆゑに北京中央からすれば反体制として独立派と同じく敵扱ひ。中国の憲法に謳はれる民族自治と平等の実現。

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世界 2009年 12月号 [雑誌]

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