富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月十七日(火)朝は摂氏十一度。極寒。今月上旬は汗をかくやうな暑さだつたが一転して真冬。寒いがセーターやコート著たり楽しくパイプ煙草も香しく。Châteauneuf-du-PapeのCh. La Nertheをば一本携へ銅鑼湾農圃飯店。奈良T君来港でZ嬢と夕食。T君とは食肉の機会多く今回も季節柄といふことで農圃で東山羊をいたゞく。久々の農圃、四方上客ばかり。例湯から野菜、食後の甜品まで素材も良ければ美味いのだが一つだけ欲を言へば味付けが何を食べても甘くてとろり、が単調。食後、近くで会合終へたK氏いらつしやり茶話会は送別会二回戦。十時過ぎ帰宅。つひに暖房スヰツチオン。
文藝春秋十二月号。保坂正康、櫻井よしこ高橋紘(皇室研究家)、岩井克己(朝日新聞)と香山リカの対談「雅子妃が変えた平成皇室」つて皇太子妃が「変えた」は良い意味に非ず。もう少し気配りができぬものかしら。本当にベン=アミイ=シローニ(ヘブライ大学名誉教授)の指摘する右翼からの皇室批判が怖い。櫻井よしこなど天皇憲法遵守発言について「今上天皇日本国憲法を……と仰つたのには違和感を抱きました。勿論、第一章について仰つてゐるわけですが、他の部分を想像する人もゐるでせうし、憲法についてはさまざまな議論もありますから、そこはむしろ触れないはうが宜しかつたのではないか」とまで指摘。今上天皇の即位後の「皆さんとともに日本国憲法を守り」発言についてだが櫻井よしこは意図的に、作為的にか天皇発言のうち「皆さんとともに」と「守り」を言葉にせず、さらに「第一章について仰つてゐる」と解釈してみせるが、「皆さんとともに」があるから憲法全体について国民の義務として国家の最高法規としての憲法を遵守する、と、そんなの憲法概論の基礎の基礎だと思ふのだが、櫻井よしこは「他の部分を想像する人もゐるでせうし、憲法についてはさまざまな議論もありますから、そこはむしろ触れないはうが宜しかつた」つて、嗚呼、なんてこの「改憲」どころか超法規的な尊大なこの櫻井女史の発想。更に怖いのは、この発言について同席者から何ら指摘もなきこと。「櫻井さんといふのはかういふ人だ」とあつさり流されたのか誰か何か言つたが編輯で削除されたのか。司馬遼太郎の一九九四年の論文が同誌に採録されてゐるのだが、その中に
左翼思想とは、いわば擬似的普遍性をもった信仰であって、国家や民族を超えてこの擬似的普遍性に奉仕せよということでしょう。日本の左翼はその成立の瞬間から日本史をとらえる点でリアリズムを失ってしまいました。そうすると左翼の反作用として出てきた右翼も同時にリアリズムを失っています。二十世紀のソ連崩壊までのあいだ、我々を非情に惑わしたのはこの左右のイデオロギーでした。明治の漱石や子規たちが幸いにして知らずにすんだ思想的行動でした。
と述べてゐるが、さういふ意味で右翼もまたいかに近代的で伝統や保守からも乖離したものであることか。同号で民社党(懐かしい……)の元職員で拓大大学院教授のモヒカン遠藤先生は「朝日は鳩山民主党の機関紙なのか」つて、うーん、かつての自民党の機関誌文藝春秋がさう吠えても、といふ感じがするのだが。

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