富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-10-22

十月二十二日(木)十時のジェットフォイルでZ嬢とマカオ。機体整備で二十分くらゐ遅れ。マカオに着き、ちよつと訪れたい場所ありフェリーターミナルの観光案内所確認しようとすると職員二人、かなりダレてゐて勤労意慾に欠けるは一見して明らか、がアタシがその場所紹介の切り抜き見せると「なに、これ?」「どこよ、これ?」と、かりにその施設を知らずとも住所で見当をつけるとか、その電話番号に問ひ合はせてくれるとか、さうした意慾がいつかうに感じられず。「あんたらに尋ねたのが間違ひだつた」とアタシも悪態つき案内所を辞す。路線バスで氹仔(タイパ)。もう昼で前回に続きCastiçoに往く。飾らぬ食肆で葡萄酒をグラスで頼むとかなり大きめのグラスに三分の二くらゐぢやぶ/\と注がれ最初に飲んだ白でかなり良い気分で赤二杯でもう完全に出来上がる。この食肆のご主人はジャン=ポール・ベルモンドにそつくりで、性格から仕草までがゴダール監督の「気狂ひピエロ」を彷彿せざるを得ず。アタシらには最近かなりお気に入りの食肆だが「そのへんの食堂」でせつかくのマカオ周遊なら一般的には全くお勧めできぬ。かけつぱなしのテレビからは映画で帝政羅馬時代の「カリギュラ」とまでは言はぬが、けつこうエグい宮廷劇物が流れてゐる。どこかちよつと破壊的な感じ。1980年代末の恵比寿の「うめや」とか「おそらく数年後はなくなるかもしれない」といふ予測、写真でいへば金村修の「なぜ、これなの?」だが、たまらなく素敵なやうな。鱈のコロッケ、山羊のカッテージチーズ、内蔵の煮込みは鶏の心臓なのださうな=極めて美味、で常連客のオヤヂたちが入つてくると主人がおもむろに厨房で焼く塩味の安つぽいビフテキが美味さうで、それをZ嬢と半分づゝ。で雑多ながら極めて満足の昼食。住宅博物館に続く小丘の木陰のベンチで午睡。週末に葡萄牙の、なのか中国なのか縁日あり準備続く。Castiçoでも、週末は忙しくなる、と料理の下準備を始めてゐたのがこれか。路線バスでマカオ市街に戻り二龍喉公園。熊が過去二回いつもゐないのが気になつてゐるが今日も熊は見当たらず。だが糞便があつたので他界はしてをらぬのだらう。公園のベンチに憩ふ。夕方の下町を散歩して牛房倉庫。香港も土瓜湾に牛棚藝術村があるが、かつては街外れの牛舎が都市化で囲まれ牛舎として使はれず、の再利用。中環のFCCの建物とて牛舎だつたのだから。隣がマカオ政府の狗房で牛房倉庫の裏庭から狗房に入れてしまつた。ドッグレース場がすぐ傍なのは偶然なのかしら。路線バスで十月初五日街。黄枝記で早めの夕食で雲呑麺食す。關前正街を抜け(いつもこのへんばかり)で議事堂前。さらに栗鼠ボアから歓楽街抜け文化中心までずつと歩く。今晩はマカオ藝術節でシドニー交響楽団の演奏会あり指揮はアシュケナージ先生。ラフマニノフのヴォカリーズ、エルガーエニグマ変奏曲、プロコフィエフの五番といふ演目。今晩のこの演奏会が澳門芸術祭であるのを知り勇んで切符確保した直後、その翌日(つまり明晩)香港でも演奏会あることを知り演目がプロコフィエフの五番に加へラフマニノフのピアノ協奏曲二番もあり一瞬、これも聴きたい、と思つたがピアノが地元の若手Rachel Cheungと知り、まだ/\若いピアニストには失礼だが彼女なら聴かなくてよいと思つたのが事実。彼女には素晴らしい機会だらうが今年の英国Leedsの国際ピアノコンクールでやうやく五位の彼女にはまだ不相応。と割り切つてゐたら今朝のSCMP紙に明晩のその演奏会の紹介記事があつたがアシュケナージ
"The programs are not exactly the ones that you want to do as a conductor. You always ask the promoters what they would like to have, [the] pianists [they] want to play. You come to a decision based on various factors."
とまで言ひ切つてしまつてゐる。かなり香港側の無理矢理なRachel起用。それにしてもこの記事つてアシュケナージのコメントはオフレコつぽいが……。で今晩の演奏はシドニーを聴いたのはアタシは初めて。勝手な「オーストラリア」の印象があるが、服装が半ズボンに裸足でない。悪い意味でなく音が古典よりポップス系に聴こえる。だから「ヴォカリーズ」が似合ふ。エルガーは、今回のアジアツアー(こちら)が基本的に露西亜ソ連を主とするのに、なぜ一部だけエルガーが入るのか、が不思議。アシュケナージの、あの独得の、失礼だが見た目はあまり流暢ではない指揮ぶりからするにアシュケナージ先生ご自身はエルガーはかなりお好みのやう。エルガーは個人的にはあまり面白いと思へないアタシ。中入り後はプロコフィエフの五番。ショスタコービッチ好きでプロコフィエフはピアノ協奏曲ばかり聴いてゐるアタシは今朝、あらためてカラヤン&維納の同曲を聴いてか

西半山豪宅天匯 46層的樓宇,竟「變」出了頂樓 88樓。

ら出かけてきた。基本的にプロコフィエフといふ人は露西亜の演歌。それがスラブ的に西欧まで伝はるので「ロミオとジュリエット」とかになるし「ピーターと狼」も面白い。そのプロコフィエフが1945年といふ年に敢へて政治的な意識があつたことが曲の節々から感じられるが、土著の調べと社会主義的リアリズムのアンバランスが面白い、とあらためて思ふ。アンコールはアシュケナージさんがエルガーで"Salut d'Amour"と言つたやうに聴こえたが「愛の挨拶」で間違ひないかしら、たぶん。それにしてもこの小屋、音響も椅子の座り心地もアタシは好き。今晩のマカオ、さすが香港より土共化が徹底と驚いたのはVIPのおもてなし。マカオ政府の文化某署の小役人が中共の在マカオ中弁聯の高官を接待するのだが入場はさすがに一般客が入場し終はつたあとにご入場、なんて両陛下のやうな扱ひはなかつたが中入りではエニグマが終はり一旦、舞台袖に消えたアシュケナージが観衆の拍手に応へ舞台に戻つてきたところでVIPご一向だけが一同で席を立ち来賓室へとさつさと退散。後半も演奏直前にお戻りになり、うーん、演目に合はせたのかとてもスターリン主義的。アタシらの席はB列で最前列から二列目か、と思つたらオーケストラボックスの分が四列あり六列目。「あ、アンドリュー先生!」とZ嬢。前列に香港ショパン協会のAndrew Freris博士夫妻。先週の一連の音楽会、楽しませていたゞきました。同協会主催の香港国際ピアノコンクールはアシュケナージさんが審査委員長。ご夫妻がマカオに今晩聴きにいらしてゐるのは当然。いつも最前列で音楽会ご覧になるご夫妻は「きつと予約の時はA列で最前列だ、つて思つて来たわよね」とZ嬢。終はつて主催者側が手配のシャトルバスでフェリーターミナルへ。手配が悪くバスのルートがかなり混乱。晩二十三時のフェリー予約してゐたが三十分前の前便に乗れるかしら?とスタンバイの列に並んでゐるとアシュケナージさんがFrerisご夫妻と一緒にアタシらの並ぶ列のすぐ後方に来られる。そこでプログラムにサインを強請つたり出来ないアタシたち。楽団員はマカオ泊りでアシュケナージさんだけご夫妻と香港、はスタンバイもアタシらの前で爆満になつてしまつたがアシュケナージさんらは次便のスーパーシートのチケットお持ちだつたのでスーパーシートの若干の余裕で先の便で香港に向かはれアタシらは予定通りの二十三時のジェットフォイルで香港に戻る。機中、山口正介の『山口瞳の行きつけの店』少し読む。
▼香港の株の大立者「四叔」李兆基財閥の恒基兆業地產が建設販売するミッドレベルの高級マンション「天匯」で誇大広告どころか46階に位置するトップフロアが88階として売り出され顰蹙かひ大笑ひの種に。西洋で禁忌の13や、死=四が厭はれマンションの階数で飛ばされるのは許容範囲だらうが、このマンション、39階の次がいきなり60階(嗤)。で60階の楼上は 61、63、66、68階と88階だけ。販売側は「きちんとこのフロア表示については販売前に説明してゐる」としてをり四叔も「あくまで買ひ手の満足感に応へるためのアレンジ」と開き直るが呆れて言葉もなし。
▼さういへば昨晩、銅鑼湾からタクシーに乗ると信号待ちで隣に白のマセラティ。車も車なら運転するのは若くはないが「いかにも」な派手な紳士。でよく見れば告東尼(T. Cruz)調教師。あまりに「なるほど」だが、信号が青でアタシの乗るタクシーより当然のやうに良いスタートを切り、銅鑼湾から天后までの高士打道をそれなりに混雑するなか実に見事なコース変更と位置取り、で巧みに他の駄車をば抜きながら東区走廊へと入つていつた。それだけ、の話だが香港競馬で唯一、地場の見習ひからリーディングジョッキーになつた天才は自動車の運転も実に見事。

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