富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-10-19

十月十九日(月)朝日新聞の文化欄に北山修氏の加藤和彦故人追悼の文章あり。「お前は」と加藤故人が北山氏に対しての語りかけだが、これはアタシら皆になのだらうが「お前は目の前のものを適当に食べるけど、僕は世界で一番おいしいケーキがあるなら、全財産をはたいてもどこへだつて飛んでいく」と語つてゐた由。全財産を叩けば経済的には「無」、だがそれすら厭はぬやうな気分。「この世から消えてしまひたい」といふ気持ちはわかる気もする。それにしても加藤和彦に死なれてしまふと、彼の生き方を「素敵だ」と思つてゐた=誤解もあらうがさう信じさせられてゐた雑誌編輯者や業界関係者やアタシら巷の輩もみんな困る。こつちとら、たかだか一個のカメラレンズを買つただけで「仕合せ」と思つて生きてるつていふのに。それにしても軽井沢のホテルで、しかも首を縊るはないだらう。ホテルだつて迷惑。まさか彼が首を吊つた部屋が遠野で全焼の座敷わらしの出る旅館の部屋ぢやないんだから「加藤和彦の歌声が聞こえる」と宿泊客を呼べるわけぢやなし。やはり他人に迷惑をかけちやいけない。何十年も「加藤和彦をやつてきた」のだから、せめて自殺するにしても「へぇ、こんな素敵な自殺があつたんだ」と思はせるくらいぢやないと……。本当に世界で一番おいしいケーキを食べに出かけて、そのケーキを買つて、でもお店ではお店に迷惑をかけるから、ケーキを抱へゴダール監督の映画のやうに海岸にでも行つて、とか。さすが加藤和彦、そこまでやるか……と。先週くらゐから頸と肩の痛みひどく、ふと気づけば三ヶ月に一度の捐血をもう予定日より一ヶ月も過ぎてしてをらず。そりや肩痛もでよう。で慌てゝ銅鑼湾の紅十字で捐血済ます。帰宅してせつかくドライマティーニ飲まうと思つたのにオリーブの実を切らてゐた。不覚。Z嬢自家製の枸杞酒芋焼酎で割つて飲む。かなり久々に自宅で夕食。酒盗丸干し、焼き海苔などで米飯を食す。
▼信報の林行止専欄。香江第一筆と称される林行止の専欄は経済から政治、文学、紀行と筆致は留まるところ知らず。淫売、便所の歴史や汚穢だの、かなり幅が広いがこゝ先週は「物產豐富 毋須食人」とカリバニズムをば冷静に経済学の立場から書き始めたのは良いが、それが翌日は「飽肚治病 人肉至上」と多少、深みに入つてきたな、と思つたら三回目(十六日)は「賣嬰殺嬰 理性行為」とかなり具体的な猟奇的食人行為の具体的記述(引用ではあるが……)に至り林行止の凄さに言葉もなし。日本で日経の紙面に主筆の連載でカリバニズムの描写は載るまい。

富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
富柏村写真画像 www.flickr.com/photos/48431806@N00/
http://twitter.com/fookpaktsuenhkg