富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-10-15

十月十五日(木)早晩に中環。まだ夕飯には早い時間ながら小腹空きStanley街の王府なる肆に餃子食す。美味ゐは美味ゐが十粒の餃子でHK$32といはれると安くない、と思ひつゝ餃子だけでは食べたりず向かひの麥奀に雲吞麺食したが、こちらも小ぶりの雲呑麺でHK$28と思へば餃子が極端に高いのではない。独酌の念にかられるが最近、酒がはひつてしまふと音楽会などすつかり良い気分で音楽が子守唄どころか白河夜船の如し、で晩の音楽会には素面で行かうと思つたがWatson'sのワインセラーの前を通つちまつてつい引き寄せられ立ち飲みでTaupenot-Merme Charmes-Chambertin(トーペノメルムシャルメシャンバルタンとでもかな書きすれば良いのかしら)のGrand Cru 1997年と2005年のMontes Follyを一杯づゝ。前者はとくに立ち飲みとかするのは失礼な葡萄酒か。FCCで新聞読み。カプチーノ飲んでゐたが酒を飲まぬと甘味欲しチョコレートムースのデザート。餃子と雲呑麺とデザートは明らかに食べ過ぎ。市大会堂。Z嬢も来て香港ショパン協会主催の今週は秋の音楽会。今晩はLondon Chamber Orchestraの弦にパスカル=ロジェさんのピアノ(こちら)。最初は絃樂四重奏でドヴォルザクの二つのワルツ(作品54)の一番と四番。ロジェさんのピアノが加はりフォーレのピアノ四重奏曲第二番(ト短調 Op.45)はアタシは初めて聴いた、フォーレの円熟期(四十代初、1886年)の名作の一つ。いや/\LCOの弦が見事で格別。拍手鳴り止まず。中入りで、この春に定年退職された政府の元高官T氏と邂逅。京劇ではよくお会ひするが音楽会は初めて。T氏も「フォーレのこの曲は初めて聴いたが素晴らしい」と一言。後半はショスタコーヴィッチの絃樂四重奏曲第一番。交響曲五番の後の作品ですでに「社会主義リアリズム」が求められてゐたショスタコーヴィチにしては「え、これがショスタコ?」と思ふ古典らしさが漂ふが否応なく節目/\が社会主義リアリズムが表現され時代的苦悩垣間みた思ひ。最後はブラームスクラリネット三重奏曲(作品114)。今晩の演奏ではフォーレの曲が出色の出来。帰宅してホンマタカシの『たのしい写真』少し読む。ホンマ氏のアサヒカメラでの坐談での写真評は楽しいが、この本は「たのしい」といふわりには表現があまり楽しくない(笑)。写真といへば今日、母からメールがあり新宿はゴールデン街の「ことじ」に行つたといふ。アタシは江戸東京博で版画絵は勧め「伊藤深水も趣が異なりよかつた」とそりやさうだらうが、その足で新宿、ゴールデン街とは。しかも「ことじ」。アタシでもちよつと二の足踏む濃い世界だがアタシなど若輩だから、で母はきつと写真家のY女史に誘はれて、の「ことじ」だつたのだらうが考へてみれば母の齢ともなればゴールデン街なんて自分たちが「女学生の頃に出来た飲屋街」と思へば寧ろ堂々としてゐられる鴨。うーん、それにしても脱帽。男なら老いてせいぜいニコンの高級デジイチでも頸に下げ佃とか門前仲町とか散歩スナップ写真で満足してゐるといふのに。新宿といへば、つて無理矢理だが、昨晩、帰宅してテレビをつけるとNHKのSONGSといふ番組で美輪明宏特集。フィナーレが「老女優は去りゆく」で圧巻。同じ熱唱を見た畏友Sの言を借りれば「純粋に音楽としてだけ聴くよりは、老女優を演じる美輪明宏の歌芝居として視聴すべき作品」であり「その意味での一番の見所は、女優人生最後の芝居を終へて、足元も覚束ない老いた姿で退場した老女優が、鳴り止まぬカーテンコールに応へて再登場したときの、余りにも若々しく颯爽とした華やかさにある」もので「「スター」と形容される主演女優の、最高度の輝きがそこにある」と、この見事に指摘されてゐる通り。

富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
富柏村写真画像 www.flickr.com/photos/48431806@N00/
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たのしい写真―よい子のための写真教室

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