十月十二日(月)朝六時に目覚めさすがに眠い。沖縄よりM氏来港で晩にK氏と三人で尖沙咀の鹿鳴春に食す。かなり久々、はこゝ数年何度か来よう、と思つても予約は暴満で午後九時以降の来店ならなんとか……が続き今晩は一週間前の予約で空いてこそゐたが暴満は相変はらず。地元客と米国人。何といつても米国人。香港では北京料理では(通りに面した看板は恐ろしいほど下手な字体で「料理が不味さう」でも)この食肆は名店、だが北京料理は宮廷料理こそさすが豪華だらうが地場の京菜は実際のところ限られた食材で所謂「ベタな」料理。さまざまな食材をふんだんに用ゐて味付けも幅のある粤菜に比べればずいぶんと見劣りする、と思ふのが素直な感想。それにしてもこの鹿鳴春の見事なのは料理以上に老練な給仕らの慇懃な接客ぶり。慇懃でも慇懃無礼にならず、上客にも一見の米国の田舎漢にもアタシらにも本当にきちんとした接待は惚れ/\とするほど。これが繁昌の礎なのだらう、と感心するばかり。睡魔に冒され続けさすがに帰りに一杯独酌とならず帰宅。晩十時に臥床。
▼軍事オタクだとかさんざん嗤つてゐた、鳥取からいつも「出雲」で上京の鉄ちやん石破茂君。築地のH君君に教へられ日曜日の朝日を一日遅れで調達して石破先生のロングインタビューを読む。慥かに四年後の総選挙でまだ自民党があれば(笑)やはりこの人が総裁だらう。谷垣君では民主党に近すぎて、石破君くらいが「中道右派」としての輪廓が一番ハツキリするしそしてH君君の言ふ通りインタビューを読んでも「本人にその自覚が十分ある」。ヨーダ喜一財務相、チェリー龍太郎行革相、縄文洋平外相等、当時の自民党のオールスターキャストの布陣で森政権が支持率をどん底まで落とした時に「自民党は一度終はつてゐた」のに小泉三世の登板で「選挙に勝てればいゝ」の挙党一致。実際には官僚に言ひなりで本質的に自民党なるものが壊れてゐた、と。民主党ともう一度一緒くたにして政界再編成が必要。それにしても石破君の守らうとしてゐる保守なるもの、イデオロギーでなく感覚、フィーリングだ、と言ふ「押しつけ」ではない皇室への敬愛、国旗、国歌、家族や祖先、地域のつながりなどを保守が大切にするもの、と説くが、家族や祖先、地域のつながりは実は保守であるべき理由にならず、皇室、国旗、国歌といふものが近代の産物でむしろ民俗的に地域に根付いたものと一切何ら関係もないこと、を石破君はどこまで気づいてゐるのか。保守といふのが実は近代的な改革主義者であることをよく自覚すべきだらう。
▼昨日、礼儀などについてちよつと書いたが、この週末の東京滞在で駅とか「なんでよ?」と驚くやうな態度や言動をとる方々を見て、きつとかういふ人にかぎつて「日本人は」と日本人の美徳を説いて「日本人ぢやない人たち」つまり日本人以外の世界の絶対多数なのだが、を卑下したりしてしまふのだらう、と思つた次第。先日も、これは香港での話だが、ある会合で催事のルールを守れるかどうか、といふやうな話題になつた時に「日本人だからそんへんはちやんと守つてくれると思ひます」とある方に発言に、その愛国心にたゞたゞ返す言葉もなし。それとか「ぜひどうぞ」が裏返すと「出ないといけないんぢやないか」といつた気遣ひとか、言ひ出したら切りがないが「気配りのすゝめ」どころか漱石的に不自由を感じざるを得ず。
富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
富柏村写真画像 www.flickr.com/photos/48431806@N00/
http://twitter.com/fookpaktsuenhkg