富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-09-02

九月二日(水)昨晩は二更にうちに寝ちまふアタシのところに半夜三更に電話あり起こされる。夜中に他人に電話してまで質すべき内容か甚だ理解し難し。小一時間つき合はされ、すつかり目が覚めちまひハーブ系安眠薬呑んで寝入る。今朝の朝日新聞(国際版)の文化欄に「インフルエンザと人類 生活映し出す「文明の病」」なる記事あり(織井優佳)。一読し溜飲下がる。国立感染症研の田代眞人氏への取材に基づき、もともとは渡り鳥(=大洋渡り大陸と大陸を往来できる唯一の存在)のウイルスであつたインフルエンザが同じ鳥の家鴨や鶏など家禽類に感染り近くで飼育される豚に感染り……といふ経路。豚は殺され豚肉にならない限り大陸から大陸に往来はないがヒトが代はつて大陸から大陸にインフルエンザを伝へる。インフルエンザの根絶は不可能であり「ヒトとインフルエンザは共存していかなければならない」こと。今回の「新型」は微弱性が災ひし感染しても歩き回れたりするので免疫のないヒト(とくに若者)に感染が広がる由。実家より船便で送つた書籍が20kgほど小包で届く。もう書斎の本棚は疾うに溢ぶれ床に書籍が積まれ……もう少しよんで処分すれば良いのだが。先考の遺した書籍整理してゐて父が晩期、闘病のなかで読んでゐたのが難読漢字の類ひだと知つた。もう余命短いとわかつてゐるなかで人生の崇高さなんて諭ふ宗教書でも読みさうなのがベタな想像だが、あと数ヶ月の命で難読漢字が一つ余計に読めて何になるのか、でも何かそれが芥川的。帰宅していつものやうにドライマティーニ飲む。ふと、オリーブをいつも短い串に刺すのだが、べつにグラスにぽろん、と落としてもゐゝはずが、一度もさうしたことがなくバーでもさうされたことがなく、初めてオリーブを二粒ぽろん、としてみたが間抜けだつた。たゞ「間抜け」。夕餉は肉骨茶。マレーシアやシンガポールで食したことはあるが自宅で肉骨茶は初めて。よい骨付きの豚肉を得て実に美味。晩に乱歩の『悪魔人形』ポプラ文庫、読む。前半は猟奇的な人形偏愛趣味で始まり小林少年の女装癖あたりまで乱歩らしい面白さだが後半、突然、あまりにB級の小学生でも呆れるやうな猛獣などの着ぐるみ合戦(笑)となり、そのギャップが何とも……。
▼香港最終審(最高裁判所)首席裁判官の李國能君が任期二年残し来年九月で辞任表明。英国から香港が中国に返還され特区となつて以来、香港基本法に則る司法裁定に董建華超法規的措置で介入し(星島日報社主・胡仙事件)全人代常委の釈法を被り(香港市民の大陸生まれ子女の香港居留権問題)京官より三権分立ならぬ三権合作をば求められるなか香港法治象徴する「法治捍衞者」で人望厚し。この突然辞官、北京からの施圧か、またリベラル派として次期行政長官選挙に出馬と猜ふ噂もあり。競馬好きで香港ジョッキークラブの理事でもあるが最終審首席裁判官就任以来、競馬観戦も控へ退官すれば観戦も自由。香港の「四大名望家族之一」の出で清末に太平天国の頃に広東より香港に移住の李家成を祖とし二代目の李佩材(字は石朋)が第一次世界大戦の頃に海運業で成功し巨萬の富を得、三代目の李作元(字は冠春)が周壽臣や馮平山らの華商と初の華人資本の東亞銀行を創立。東亞銀行の現・頭取である李Baby國寶と弟の前・教育局局長であるアーサー王・李國章はこの冠春の孫。冠春の弟の孫が李國能法官。父の世代もBabyとアーサー王の父である福樹やその弟の福善、福兆(香港証券取引所代表の時に収賄で入獄)、國能法官の叔父は福和、その世代には華人初の香港ジョッキークラブ主席となつた福深、と「香港のロックフェラー家」だの財閥系にしてはリベラルな家風から「香港のケネディ家」とか。
▼天才といふのは天才。凡才が望んでも得られぬセンスといふか感がある。チヨートク先生が「いふぉんとかつま」つて何だか暗号のやうだが、たかだかiPhoneのデジカメ部分を双眼鏡に当てると「東京タワーに突き刺さるツェッペリン号」が撮れてしまふから。(こちら
▼今回の選挙を山崎正和氏が「リーダーなきポピュリズム」と呼んでゐる。一人ひとりが熱狂的だとファシズムになるが、ポピュリズムを「ある問題を、主として否定することをテーマに、大多数の人がムードに乗つて一気に大きく揺れること」と定義する(朝日新聞オピニオン欄「輿論と空気」)。郵政民営化で、政権交代で三百議席が生まれる。昨晩、K氏とZ嬢と話してゐたのは、前回の郵政選挙でも自民党大勝のなか民主党が得た百余議席、今回の自民党も同じく百余議席。この保革(といふほど民主党が革新とは思へぬが)少なくとも自民と民主に百議席与へる国民にブレはない。公明党は多少、支持者にも煩悩が感じられるがそれこそ健全の証左だらうし、社民・共産は言ふに及ぶまい。問題はキャッチングボード(といふにはあまりにも多数)の、郵政では「小泉さんなら自民党を変へてくれる」と思ひ今回は「民主党に期待して」と願へる=寝返る、正和さんの指摘するポピュリズムに靡くヒトたちの存在の大きさ。若い時には美濃部亮吉を支持し現実的な大人になり鈴木俊一に投票したこともあり冗談で青島幸男にも期待したが石原慎太郎の三百万票の一票を担つた東京都民の「誰か」たち。いくら鞏固たる保守が何を守らうと革新が騒がうと、所詮はかふいふヒトたちが政治を動かしてゆく。米国でも九・11の直後に熱狂的にブッシュの愛国心に奮へオバマの改革に呼応するヒトたち。

富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/