富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-08-22

八月廿二日(土)快晴。籠りぎみ気分で外に出るを厭ふあまりの酷暑。陋宅も狭いながらも家中の窓全快にして扇風機でもあれば摂氏33度でも冷房要らず。幸ひ今日は風もあり。世界に一つのライカ風鈴(画像)の鈴音も清々しい。香港の聚合住宅ではよく(何て呼ぶのか知らず調べてみたら)滑り出し窓といふのがあり。これが天井に近いから開け閉めが面倒でかつては閉めつ放しにしてゐたが近隣に開けてゐる家少なからず開けてみると風がよく入る。たゞ場所が高いので如意棒(とアタシは呼んでゐる棒)も用意すると簡単。頻く沐浴でもして天花粉でもつけてゐれば汗もかゝず。公邸や飲食場所、芝居小屋などで冷房にすつかりやられてゐるので冷房なき陋宅が過ごし易ゐ。陽が陰るを俟ち出街。中環のオリムピアグレコ珈琲店に珈琲豆購ひFCCハイボール二杯。新聞讀み。Z嬢と尖沙咀。ペニンスラホテルの印鑑屋で福岡在住T君の次男誕生お祝ひに翡翠の印鑑誂へ。インディアプレイスに印度咖喱食す。二更に太空館で映画“Stranger Than Paradise” を観る。この映画ももう四半世紀も前の古典とは。Z嬢と東京でひよんなことから酒宴で仲良くなり歌舞伎を観たいといふので最初に一緒に連れていつてあげたのが歌舞伎座ぢやなくて半蔵門での地味な「稚魚の会」の公演。まだ昭和の終り、ちやうど暑い八月で(ッて今年の開催を観たら偶然にも今日から!)四の切で師匠澤瀉屋直伝で狐忠信演じてゐたのは故・猿十郎。京蔵さんも出てゐたはず。翌年の稚魚の会は寺子屋で松王丸が段治郎で戸浪が芝のぶちやん。最近のことは数日前にお会ひした方の名前も失念するのに二十年以上も前のことが記憶には鮮やか。でZ嬢と歌舞伎座に行けばまだ久が原のT君がゐて今では浄瑠璃本研究の権威となつたK君がゐて。さう/\“Stranger Than Paradise” はそんな頃にZ嬢と当時まで観てゐた映画がこれや『ミツバチのさゝやき』や“Coffee and Cigarettes” などかなり趣味が同じで意気投合したもの。結局、考へてみると二十数年前の当時と今と好きな芝居や映画を観て、それを肴に酒を飲んでゐる……となんら変はらない。でもう何度目なのかしら、の“Stranger Than Paradise” はそれでもやぱり面白い。あの三人の主人公で四半世紀後をジム=ジャームッシュ監督がまた撮つたらさぞや面白いだらう。帰宅して半夜三更『徠卡相機傳奇』なるムツク本讀む。『撮影雑誌』が出版のM型ライカ総覧のやうでM8.2のかなり詳細に渡る解説本は香港での徠卡総代理商であるSchmidt Marketing社の全面協力で当然、同社によるM8.2の販促が目的なことは顕か。どうであれ香港でライカカメラでかうしたムツク本が出たことだけでも珍しい。
▼信報林行止専欄で行止先生夫妻の八月のザルツブルグから巴里への夏の旅行記を読む。巴里のブリストルホテルの早餐廳にて巴里に十数年客居のキーシンと当然のやうに母親と邂逅の話あり。今年春に或る酒會にてキーシンと初対面の行止先生、お互ひ「一つづゝ何か質問を」と、ピアニストはエコノミストに「経済学とは何か?」と尋ねれば行止先生はフリードマンの言葉引き「世上没有免費午餐是經濟學的精髄」と答へたり。行止先生はキーシンに「神童と呼ばれるあなたは毎日いつたい何時間ピアノの練習をするのです?」と尋ねるとピアニストは「最低で四時間」と答へれば傍に付きさう母親が間髪入れず「それは演奏会のある日のことで、演奏会のない日は毎日十時間ですのよ」と答へた由。因此緣故他尚清楚記得行止先生殷々握手問好寒喧而散。
▼信報(廿一日)にLohas Park(日出康城)でMTR站蓋上に完成の聚合住宅「首都」の宣伝を讀む。1.2万平米の60だかの様々な娯楽設備あるPremier Clubなる居住者向け施設にはCapitol Houseなるパーティ施設やご主人向けDuke's Manorといふ私人倶楽部、奥様向けVenus Private Paradiseはエステ、他にボーリング場まで完備。当然のやうにマンション玄関は似非羅馬趣味の大理石とシャンデリア煌々。「首都」だのCapitol House(国会議事堂)、公爵荘園(Duke's Manor)やヴィーナスのパラダイス……なんて命名が「どこがLohasなの?」と嗤つてしまふが、この李嘉誠のゴミ埋立地開発でのロハス趣味の似非ぶりも然る事ながらロハス趣味ぢたひの胡散臭さが背景にあり。

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