富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-08-16

八月十六日(日)大量の路線バスの排気瓦斯は香港の大気汚染にかなり影響がある。今朝も北角のフェリー乗り場前のバスターミナルでバスを待つてゐたら少なくても八台のバスがエンジンをかけたまゝ冷房もガンガンなのだらうが、こともあらうに運転手不在で停車中。排気瓦斯とエンジンの放熱で暑いくらゐ。キチガイぶりに呆れシティバスのホットラインに電話で苦情申し立てる。ちやうど警邏中の警官がゐたので話するとアタシに「どこから来たの?」といふから「香港に住んでゐる」と答へたら「何処の国の方?」といふので「日本」と答へると「へぇ、英語が上手ですね」と……さういふことぢやない(でも日本人=英語下手なんだらうな、まだまだ)。警官がシティバスの運転手詰め所に行きエンジン止めるやう命令。で運転手の1人が出てきてエンジン止めたが車鍵はつけたまゝ。誰でも開扉ボタン押して車内に入れば勝手に大型二階建てバスの運転興じることが出来るわけ。誰かがそれをやつて人身事故でも起こしバス会社の業務上過失責任でも問はれぬ限り改善はないのだらう。官邸で御執務しながら香港電台第四台聴いてたら今月は「村上春樹の音楽世界」なんて特番ありムラカミハルキの小説で聴かれる曲を特集。今日は《尋羊的冒險》 ださうで
Handel: Sonata in C for recorder and continuo Michala Petri (recorder), Academy of St. Martin in the Fields Chamber Ensemble
Vivaldi: Concerto No. 6 in A minor, RV 356 Academy of Ancient Music/Christoper Hogwood
Scriabin: Piano Sonata No. 10 Vladimir Horowitz (pf)
Beethvoen: 1st and 4th mvt from Sonata for Piano and Violin in F major, Op. 24 'Spring' Yehudi Menuhin (vln), Wilhelm Kempff (pf)
といつた具合。ラジオといへば香港政府が画策する中学生への強制検尿麻薬取締りにつき誰だか指揮者が「the war against drug」なんて物言ひ。九・11から何でもかんでも the war against ばかり。今日は恐ろしいほどの青空。市街はガラス壁の建物多く太陽光の反射で隅々まで照らされ恥づかしいほど。ガラス壁の建物は制限すべき。湾仔の文化中心でオムニバス映画『台北異想』観る。台北を舞台に八人の新進気鋭の監督が朝から夜半まで与へられた時刻をテーマに撮つた短篇映画集。早朝に樹木の高枝から下りられぬ猫(猫の視線からの撮影が面白い)、離婚で不安定な母を厭ひ家出こゝろみる少女、昼の情事……と夜半まで短篇で出来すぎた話が多いがショートショートだもの。アタシの好きな季康生がトリで真夜中、それも朝の四時つてのがいかにも。この短篇『自轉』は珈琲専門店が舞台。長年営んだ店を閉ぢ他に譲る女主人(陸弈靜)。その店仕舞ひの最後の晩(明け方)に珈琲を飲む男(蔡明亮)が台湾を代表する舞蹈家の羅曼菲(1955〜2006)を想ひ出して哭く。演出は当然のやうに羅曼菲が属した雲門舞集の林懷民。それだけ、といへばそれだけなんだが蔡明亮、季康生、林懷民と好事家には垂涎の短篇。映画会場は冷凍庫のやうに凍えてゐるが外は炒る鉄板の上を歩くやう。熱中症が怖いのでDelaneysでギネス一杯飲み涼をとる。帰宅してココナツリキュールのマリブとウオトカベースのカクテル飲み宮台真司『日本の難点』(幻冬舎新書)讀み終へる。「まへがき」の<システム>の全域化による<生活社会>の空洞化とか、相対化の時代と絶対的なものへのコミットメントの終焉で普遍主義の不可能性と不可避性、とか、疆界線の恣意性からコミットメントの恣意性へ……なんて讀むと意味不明でも本編は「世の中間違つてゐるけど僕はかうわかつてゐるんだ」といふ時事放談的。夕食後に原武史松本清張の「遺言」』(文春新書)一気に讀む。清張の未完の大作『神々の乱心』讀んでゐることが前提。清張の『神々の』が貞明さんと昭和帝の確執、二・二六事件秩父宮擁立クーデターといつた昭和史の暗部と絡むことは原武史の指摘を待たず推測も容易で、具体的に宮中の神懸かりの乱心と新興宗教の動きを検証してみせ清張は何を語りたかつたのか、をまとめてみせる。皇居から秩父、吉野、足利、と核となる<空間>でまとめたのは見事。だが清張が最後、この物語が満州にまで及ぶと収拾つかなくなり本人も意慾が欠けたやうに原武史ほどの人でも満州の章はまとめるのは易しくない。当世の皇太子と秋篠宮皇位継承に言及あり。清張の「予言」が何処まで意味するのか、は不明だが宮中ではアタシら民草には想像もつかぬ神々の御乱心がこれまでも、そしてこれからもあるのだらう。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/

日本の難点 (幻冬舎新書)

日本の難点 (幻冬舎新書)

松本清張の「遺言」―『神々の乱心』を読み解く (文春新書)

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