富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-08-02

八月二日(日)朝五時に目覚む。雨空。ホテル裏手に市場あり朝の賑はひを見る。宿の客室から双塔を眺む定慧寺に賽し路道の焼餠屋に葱餠と油條食し豆乳飲む。水路に沿ひ葉家弄漫ろ歩き十梓街から十全街に至る。商店街と聞いてゐたが閉まつてゐる商店多し。気づけば朝九時前でそりや当然か。大雨。アーケードで暫し雨宿り。裡道を抜け水路沿ひにホテルの方に戻り平江路のユースホステルのカフェでIllyのエスプレッソ飲む。朝からの雨が歇む。平江路から路道を東に折れると評弾博物館。弾詞は弦に合はせ話芸、唄を披露する蘇州ならではの演芸。連日昼に一時間半ほどの一席があり昨日これを逃したのは不覚。少し先に全晋會館といふ崑劇の戯曲博物館あり。廻廊式の建物の奥に崑劇の室内舞台あるが夏は定席も休み。残念。圧巻はこの云わば本堂の前に立ち中庭を振り向くと対面の楼上に見事な屋外舞台あり。神社の神楽でも舞ふ高い舞台だが、それを廻廊の楼上の廊下に設へた卓席から喫茶でもしながら眺めるといふ、いかにも酔狂な構造。村上湛君などこの建物を見ただけでぞく/\だらう。博物館の賣店は崑山の音源や画像が澤山。牡丹亭のDVDがいくつか。そのなかに全編通しでは白先勇による蘇州崑劇院の牡丹亭青春版あり。DVD四枚組で250元は他に比べ破格に値が張るが白先勇のそれを一度来港の香港で見逃したり。購入せぬわけにいかぬ。それと楊振雄(1920〜1998)の弾詞俞調と崑曲当代名家のCD購ふ。博物館は米国人など参観者もゐるが賣店で買物などアタシくらひで賣り場のヲバサンと「香港で崑劇の公演はね」と立ち話。ホテルに戻り急ぎ荷造りして退房。荷物預けホテル出て昼食に向ふがバス乗り間違へ下車して干将路を急ぎ足で歩いて太湖人家大酒店(人民路西入ル嘉餘坊)なる食肆で昨晩からの面子で昼を食す。白魚(Bai Yu)といふ太湖の蒸し肴が殊更美味。バスでホテルに戻り荷物ピックアップしてタクシー雇ひ蘇州站。軟席候車室でY夫妻と合流。二時半の特急で上海に戻る。大雨。降車客が出口で雨を厭ひ外に出ず物凄い混雑。鉄道と地下鉄の驛が連絡してをらず一旦、驛舎出て駅前広場歩かねばならず。地下道に入ると昔の上野驛のやうな地下商場が続き地下鉄に乗るまで雑沓の中をかなり難儀。鉄道から地下鉄乗り継ぎより蘇州から上海の空港までリムジンバス利用の方が渋滞なくても三時間としても楽なのだが前回、上海に来たときは未だ地下鉄も開業してをらず地下鉄とそれにリニアモーター鉄道に乗つてみたい。リニアモーターの鉄道は聞いてゐた通り多摩や千葉のモノレールのやうな造りだがちやんと時速430kmを数分間体験する。四半世紀近く昔の筑波の科学博以来。上海の浦東空港に到著してチェックインすると19:30発のドラゴン航空の香港行きが両地の悪天候で出発が遅れる見込で一時間前のフライトをばアサインされる。アタシらにすれば空港で二時間半以上の待ち時間が短くなつて幸ひ。搭乗前に「機内持込みの荷物は一人あたり一件で規定を超える数、大きさ、重さの荷物は頭上の棚に入りません」とアナウンスあり「規則破り客」をば係員が見つけては事情説明し小型カバンなど預かり別に収納して運ぶまでの徹底。何かと思へば後発の便からアタシらを移し乗客満載でエコノミーは3-3排列のA320機は座席も棚も狭いゆゑ。アタシらは当初、後発の便で2-4-2排列のため窓際の二席押へてゐたが、この便となり3-3排列では二人のいづれかがどうれあれ真ん中席で狭い思ひ。でチェックインの際に通路はさんだ二席を予約。何か話すことでもあれば狭い通路越しに話せば良い。A320のY席でこれは妙案。搭乗から離陸まで一時間。機内食の最後にアイスクリームが配られた時に、ずつと「待ち」のゐた洗面所が束の間の「無人」でさつと用を済まし席に戻らうとした時、通路はさみ横六席の客が何十列もびつしりと埋まり、そのほゞ全員がハーゲンダッツのアイスクリームを頬張つてゐる光景。奇観。岩城宏之『指揮のおけいこ』讀む。1995〜98年に「週刊金曜日」に連載され99年に文藝春秋から単行本となつたものの文春文庫版。左翼雑誌から右派出版社が可笑しい。香港に戻ると熱帯性低気圧の影響で無風となり気温は摂氏35度だつた由。蘇州、上海と10度の差。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/