富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月廿九日(月)やうやく雨が歇む。星巴珈琲の商魂淺ましく商品にsmallがあるのにsmallを隠しtall賣るだけならまだしも今日はsmallと註文せばtallの紙コップを見せ「これか?」と質すので「さうぢやなくてsmall」と註文すると「これだね?」とsmallの紙コップ見せ「それだ」と答へると「ありがたうござゐ」とも言はず憮然と珈琲を注ぐ態に呆れ余の言葉もなし。どうやらsmallといふサイズの存在を「なかつたこと」にしたゐらしい。ひどく忙しいなか夕餉も逸しさすがに餓へ遅晩に湾仔の泉記に寄りあつさりと好物の紫菜魚蛋粉で小腹満たさう、と思つたら供されたのは紫菜牛腩粉……牛の肋肉と筋の煮込みの「きしめん」に海苔がたつぷり盛つてあると思つていたゞきたい、想像しただけで食慾も退く一品。最初は店の間違ひか、と思つたが、それがチキンカレーとビーフカレーの間違ひなら頻繁にあり得ようが紫菜牛腩粉なんて誰も註文しない珍しいもの、をよそひ間違へるはずもなく明らかにアタシが紫菜魚蛋粉と註文したのを給仕が紫菜牛腩粉と聞き間違へたのだらう。魚蛋(ユータン)がどうすれば牛腩(アウナ厶)に聞こえるのか、そんなにアタシの広東語はひどいか、と凹む。あつさりと胃に優しい夜食のはずがかなりヘヴィな紫菜牛腩粉で思ひきり胃に負担あり。
▼そもそもアタシは香港にこれだけ住んでゐて広東語が本当に下手。今でもタクシ自動車で運転手に行き先を告げるとか街市で買物に不自由しなければ良い、と思つてゐるのが良くない。これが広東語に文盲ならもう少し「聞かう、話さう」といふ気も起きよう、がアタシは「讀めた」。高校の時に散々「漢文」で苦労したが、神田神保町東方書店など立ちより「北京週報」とか手にとると唐詩など古文に比べ現代中文のなんと平易なことか。で自己流讀み下しを始め、それが今に至る。で「讀める」から、もともと独りが好きなうへ誰かに何か尋ねよう、とか話を聞かう、といふ気が失せる。しかもアタシほど皆さん新聞など貪り讀む暇もなからうから何かあつてもアタシの方がだいたい新聞で讀んだり、で事に詳しい。そして何よりアタシが生理的に「広東語が嫌ひ」といふと語弊があるが嫌ひぢやないが「自分が話したい言語」ぢやない。ジャズは好きでもブルースは、みたいな。
▼今日の朝日新聞の社説「児童ポルノ 放置できぬ幼い被害者」には驚いた。同じ朝日の社会面に「本社の出向社員 13歳買春の疑い」といふベタ記事あり、この社説はてつきりこのお詫び社説か、と思つたが全く関係ない。文字通り児童ポルノ規制訴へるもの、だが驚いたのは冒頭の一節。これが
インターネットでさがせば「おぞましい」くらいひどい児童ポルノの画像にたどり着くことも難しくない。子どもを性的に虐待し、尊厳をずたずたにする「犯罪行為の写真」があふれているのだ。
……とかなら普通。だが今日の朝日の社説は
児童ポルノ」というと、ちょっとエッチな少年少女の姿態、といったイメージを持たれがちだ。
が書き出し。少年少女の姿態を「ちよつとエッチな」と表現できるのは、まるでその筋の好事家のやう。これだけでも「えつ……」と思つたが、社説はそればかりか
児童ポルノ」というと、ちょっとエッチな少年少女の姿態、といったイメージを持たれがちだ。だが、インターネットでさがせば、おぞましい画像にわけもなくたどり着くことができる。子どもを性的に虐待し、尊厳をずたずたにする「犯罪行為の写真」があふれているのだ。
と続く。一瞬、すんなりと讀める鴨しれないが、「ちよつとエッチな」に「だが」で「おぞましい画像」といふ展開を深読みすると、まるで「ちよつとエッチな」は許容範囲かしら、やつぱりこの書き手は「ちよつとエッチな」レベルでの好事家か?とすら勘ぐつてしまふ。しかも「インターネットでさがせば、おぞましい画像にわけもなくたどり着くことができる」と書いてゐるが10年前の「ネットの春」の自由謳歌した規制なき時代ならまだしも今どき、殊に児童ポルノにつひてはかなり規制も厳しく普通の検索レベルではさういつた「おぞましい画像」レベルのサイトに「わけもなくたどり着くこと」はかなり難しいはず。例へば検索サイトでは「児童ポルノ」と引けばわかるが大量の「児童ポルノ規制」訴へるサイトが続き検索サイトの自主規制でさうしたサイトには往き着けない。なにせ児童ポルノ画像蒐集など立派な犯罪行為であるからサイト者もかなり公開には慎重で、かなり凝つて探さなければさう易々と「おぞましい画像」に辿り着けないだらう。それをこの社説の書き手は「わけもなくたどり着くことができる」といふのだから。朝日の論説委員室のパソコンで「社説を書くため」でもさういつたサイトを見てみたのかしら。或は誇張か。よくわからんが何十年も朝日の社説を読んできたアタシもこの社説には驚いた。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/