富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-06-28

六月廿八日(日)幾度も甚雨あり。机に凭り午後に至る。午後遅くFCCに往き獨酌。白葡萄酒二杯。新聞讀む。晩に自家製のコロッケ揚げ食す。コロッケはいつも麦酒か焼酎なのだがクロケットだと思へば葡萄酒はどう?といふことで智利はAconcaguaのAgustinosなる葡萄園のCab Sau、07年のReserveを飲む。肉料理にはちよつと負けようがコロッケには合ふ。
▼米高積遜さんの逝去。沢山の報道に接したが追悼は何といつてもFT紙の“Peter Pan 'King fo Pop' who moonwalked into history”が格別(FT 27/28 June 2009)。また同日の同紙に“Scramble starts to untangle singer's riches”といふ記事あり経済紙としてさすがの分析。“Thriller”でポップスターとして最高位を得、ビートルズの版権取得などでビジネス上でも見事な投資判断下したが次作“Bad”ではすでに凋落が見え巨資に対して物入りも続き今年一月に倫敦で開催予定の公演も債務精算が目的(とこゝまではどの報道も一緒だが)でUS$5〜10千萬と噂される倫敦公演のギャラで負債の半減を企図。で負債は約US$5億。……となると倫敦のギャラで半減も難しい、と思つたが、その負債のうち半分はSony ATV Musicとのジョイントベンチャーでの損失の担保。でそれを除けばUS$2.5億ならUS$1億のギャラで負債半減といふのも首肯けるところ。で今回の倫敦公演。本人は10公演が限界でそのつもりが恐怖の50公演開催と決まり、その精神的負担が死因の一つといふ噂もあるが、これを企劃したのがコロラドのメディア王、Philip Anschutz氏のプロダクション。Philip Anschutz氏といへば保守的クリスチャンでネオコン有力者との噂もあり。Anschutzといふ姓からユダヤ系か、と想像しマイケル=ジャクソンの死も実は……なんて想像すると故・太田竜先生的な陰謀論になつてしまつたり。それはさうとApple社のiTuneもさつそくマイケル特集があるが興味深き事実はiTuneでのダウンロード曲が“Ben”がトップで“I'll be there”と幼きマイケル少年の天使の美声が続きジャクソン5の“I Want You Back”、ポール=マッカートニーとの“Say Say Say”と続く。“Thriller”以降のアルバムは持つてゐる、曲は知つてゐる前提で、急逝に際し往年の名曲への回顧なのだらう。それにしても凋落からの奇怪なマイケルさんに対して、殊に彼の少年愛嗜好に懐疑があつたなか人々は彼が逆に越後獅子的にShow Bizで歌ひ踊らされた幼ゐマイケル少年を愛をしむ……この逆相が興味深いところ。水上勉が生きてゐたらマイケル少年を主人公に『べん』なんて小説も書けたかしら。
▼今晩見たNHKスペシャルJAPANデビュー第四回「軍事同盟 国家の戦略」。このシリーズは一月だつたかの第一回で日本の台湾統治取り上げたが拓殖大の元総長先生らが内容は公正さ欠き「精神的損害を受けた」として東京地裁NHKを告訴。番組では「日台戦争」といつた言葉を誤つて使ひ日本の統治時代に台湾の人が 不当な扱ひを受けたかのやうに偏つて伝へた等と主張の由(朝日新聞)。この第四回は日本が日露戦争から第二次世界大戦での敗戦に至るまでいかに国際関係の中で誤算があり上手く利用され……にスポット当てる。がこれが左翼的には「日本は侵掠国家であるのに、まるで被害者のやうな扱ひ」と批難され右翼的には「まるで日本の戦略が間違つてゐたやうな扱ひ」と批難されるだらう。さういふ意味では中立で公平な扱ひかしら。さういふ意味では第一回の台湾統治もアタシには左右いづれからしても緩い=バランスのとれた内容と映つたのだが。
朝日新聞の書評を読んでゐたら、井上章一伊勢神宮』(講談社柄谷行人の評)も面白さうだつたが市川昭午氏が著書『教育基本法改正論争史』(教育開発研究所刊、耳塚寛明の評)で「法は行為を律するもので、心を律するものではない」と言つてをられる由。社会の荒廃を教育基本法(原法)での徳育の軽視の責任にしてしまつた中教審にあつて37名の委員の中で一名だけ基本法改正に賛成しなかつた市川氏は教育基本法改正は結局のところ目的は「憲法改正に弾みをつける」ためと指摘。御意。「法は行為を律するもので、心を律するものではない」つてのは、昨日綴つた中国での煽動顛覆国家政権罪で逮捕された劉曉波氏にも当て嵌ること。ところで前述の『伊勢神宮』は「仏教建築以前の日本固有の建築様式」といふ伊勢神宮に対する日本人の「通念」への疑問提示ださうな。西洋建築のモダニズムがあつて、それへの比較として伊東忠太やブルーノ=タウトの評価で伊勢神宮は「近代として」絶讚されるやうになつたが実は式年遷宮も長期に渡つて中断してゐたいし神宮の建築がどこまで原型保存か証拠もない。その近代の勝手な伊勢神宮への「日本固有」といふ意味づけが同じく近代の思想としての皇国史観に繋がること。結局、日本人が伝統とか思つてゐることの多くが伝統とは乖離した近代の勝手な誤解なのだらう。
▼北京訪れし劉健威兄が「鳥巣」体育館訪れ遠目には良いが近づくと周辺の照明灯の塗装の剥離に始まり鳥の巣のやうな体育館覆ふ金属に北京五輪から一年でかなりの錆や腐蝕目立ち黄砂の砂塵が舞ふ気象条件の中で(大気汚染だつて深刻で)鳥巣の金属條の内側はかなり汚れもひどく表面積でいへば通常の外壁の建物の何倍かをどう清掃し維持してゆくのか、と疑問呈す。国内ならこんなこと口にしようものなら国家顛覆罪なのかしら……。中国といへば政府によるネット管理と検閲が強化されるなか国内のブログで"Hello, internet censorship institutions of the Chinese government,"と始まる書き込みあり“We are the anonymous netizens. We hereby decide that from July 1 2009, we will start a full-scale global attack on all censorship systems you control.”とネット管制する中国政府当局に対して攻撃の戦線布告あつた由(FT 27-28 June 09 "Control, halt, delete")。記事は中国と並べ政治混乱のなか暴動起きる伊蘭での政府による携帯やネット交信遮断のことなど紹介。三億人のネット人口抱へる中国は政治的自由の制限など表面的な管制は皆な見て見ぬふりで物言へば唇寒し、と口を噤むがネットだけは“the desktop is the last bastion of personal freedom”といふわけで中国の沈黙する若者たちにとつて最後の自由の砦。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/

Ben

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