富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-06-21

六月廿一日(日)夏至。朝、北角を通ると琴行街の行列の出来る、尚更週末には行列の長い「鶏蛋仔」といふ焼き菓子の店が、さすがに朝の十時過ぎに焼き菓子を喰ふ客も少ないのか朝の開店間際だからか一人待ち客がゐるだけ、で「並んでまで」といつも思ふ焼き菓子を買つて頬張る。慥かに昔懐かしい素樸な味だが十数分並んで買ふ?といはれたら疑問。だが店を大きくするとか焼き菓子の電気オーブンを多くするとかせず客が並んでゐても一人の焼き手が三台の焼き器でゆつくりと焼いてをり、で行列が絶えないことが、むしろマーケティングの上手さなのだらう。日曜だといふのに週明け迄に済ます仕立物の仕上げ仕事。午後遅く整体按摩に行く途中、香港墓地に掃墓の人少なからず。父の日で亡父の掃墓とはアタシのやうな不孝者からするとたゞ/\敬意。整体のあと午後六時前だといふのに夏至で太陽はまだ高くライカを持ち歩いてゐたので日暮れに影も延び面白い写真でも撮れるかしら、とヴィクトリア公園を歩く。公園内の公営プールにプール見下ろす食肆&バーあり。二人の常連の爺さんが涼むだけの、閑かなその肆のテラスでステラを二杯ぐいぐいつと飲む。帰宅しても午後七時半過ぎまで外は明るい。こゝ二、三週間、書籍をほとんど読んでをらず。で手許の雑誌や溜まつた新聞の切り抜きなどずつと讀む。雑誌などきれいになくなりかなり落ち着く。届いた瞬間に読まう!と思ふくらいぢやなければ定期購読は危険。新聞も数紙減らしてどうにかその日のうちに読める分量となる。あとは時間の使ひやう。
▼一昨日だつかか取引先の銀行より電話あり。当座預金が残高不足で小切手落ちず入金してください、と。小切手の不当りは御法度だが付き合ひの長い銀行で連絡があるとその日のうちに入金すれば良かつたので、ついお気楽だつたが「これから残高不足の場合は手数料でHK$60いたゞくことになりますので。今回は猶予いたしますから」と。だんだん世の中せちがなくなるわひ。
▼香港政府の規律部隊=警察、消防、税関や入出境管理局などの所謂「制服組」の公務員が本日、給与据置きの措置に抗して約二百人が市街をデモ行進。日本では考へられぬだらう、が香港では公務員とて待遇改善要求の自由は当然、ある。これで士気が下がるとか、市民の規範たるべき公務員が、とは誰も言はぬ。
▼先週末のFT紙のLunch with the FTが伯林フィルの指揮者Simon Rattle卿を仏蘭西郊外の、まるでセザンヌの描く風景のやうな田舎屋に尋ねてゐるが、これが面白い。英国人としてのサイモン卿の独逸人観、といつても伯林フィルもかつての安永徹氏に続き樫本大進君がコンサートマスター務めるわけだし伯林フィル=独逸人ぢやないが、やはり芸風として当たり前だが「国籍を超えて独逸」だらう。で些かステレオタイプな独逸人観ではあるが
“Germans have an understanding of history and cannot allow themselves to forget it. It may be a curse but in some ways it’s a blessing. It makes them cautious. American economists can’t understand the German fear of inflation and the effects of inflation when dealing with the world economic crisis.
“They wonder why Germany pursues such a different course – ‘Why can’t they agree with us?’. I would have thought it was fairly obvious. These are intelligent people but they show a lack of historical awareness [of the inflationary pressures that brought Hitler to power].”
と語るSimon卿、で
How does this affect his relationship with the orchestra? Language plays a huge role, he replies. “German sounds so clear and articulated but it’s not allusive. My language teacher came to some of my rehearsals and told me afterwards that I didn’t know how to talk to Germans. “You can’t say vielleicht [perhaps] and ‘don’t you think that ...?’. They have none of our layers of politeness, and you have to be careful how you use humour, because Germans often take irony as sarcasm.”
との指摘はなるほど、と思ふ。ところで“Don't you think that...?”でふと思ひ出したが先週末にペニンスラホテルのGaddi'sに食した折、黒服の地場の給仕も仏蘭西娘の給仕もメニューを選んでゐると、と言つても料理を選んでゐるより三鞭酒でたゞ酔つてゐると言ふはうが正しいが、お勧めの料理を勧める際に二人とも近寄つてきては“Why don't you order あれこれ?”と語りかけるのだつた。それが「今日のお勧めは」を意味する慣用文句と言へばそれまでだが“Why don't you order あれこれ?”と言はれても「そりや、メニューにない特選の料理だらうがっ!」と「どうしてメニュー見てゐて書いてないそれが頼めるのよ」と思つてしまふ。どうもその“Why don't you....?”といふ慣用句が、ジムでの会員勧誘とか自動車セールスとか、さういふ、どうしても「もと/\購買の意慾も必要性もないものを売りつけられる」時に聴くフレーズ、といふアタシにはさういふ印象なのだ。……なんだかSimon Rattle卿の独逸人観とは全然違ふ話になつてしまつたが。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/