富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-06-06

六月六日(土)快晴。気温摂氏卅三度。暑くなるといつも思ひ出すのが夏のさなかにひとさまの前に出たので、ときちんと背広姿で汗もかゝず涼しげな表情の久が原のT君。煎茶の席で、暑くないの?、とほんとトーシローっぽく尋ねると、気持ちのもちやうで。そりゃ暑いけど慣れれば慣れるものです、といはれ、さういふものか、と感心。Z嬢と昼前に尖東の香港歴史館。摩登都會:滬港社會風貌 "Modern Metropolis: Material Culture of Shanghai and Hong Kong" なる特別展参観。ありがちな、歴史写真並べ「はい、ご覧ください」想像してゐたがなか/\だうして都市文化、社会生活全般の充実した展示内容で面白い。レトロ趣味。香港で戦前のJimmy's Kitchenのお洒落なメニューあり供する料理が今とあまり変らず、さすが。永安や先施など戦前に上海で戦後は香港の二大デパートメントストアがいずれも創業者が豪州華僑で豪州が創業地と知る。ところで香港の“Victoria City”について。十数年前では興味持ち図書館で調べやうにも難儀したが今ではだいぶ資料も充実。1843年に香港島の中心地を“Victoria City”と制定は良い。がいつたい何時まで、この英領香港の中心都市?存在したのかしら。今でも航空路の都市名表示であるとかNHKワールドの受信地名などでVictoria (Hong Kong)とあるが、ありゃ航空や通信の国際規約で具体的な都市名が必要で香港の場合は「香港」といふ地域名の下に都市名が“Victoria City”制定のまゝ、とアタシは勝手に解してゐる。白日夢の如き、土曜の昼で閑かな尖沙咀の裏町、Austin街の北京餃子店に昼を食す。独特の飴を用ゐる。久々に「いかにも北方系」の容貌の主人在り餃子づくりが見事。Z嬢と一緒なのに写真機店数軒覗き散歩。日本ではコシナがベッサシリーズ10周年記念でNokton 50mm F1.1なる大口径レンズを発表なのだ。125千円は高い、がライカがなか/\出さぬノクチルクスのf0.95に比べれば値段は8分の1と思ふと「125千円ってなんて安いのかしら」と大いなる誤解が惚け老人の怖さ。香港藝術館にて特別展「路易威登 A Passion for Creation」参観。直接、ルイ=ヴィトンとか関係ないのだがGilbert and Georgeのお二方のClass War, Militant, Gateway(1986)もお目見え、でそれ見たさ。それにしてもアタシは村上隆のLV作品など全く理解できず。村上隆がLVをば素材にするのは勝手だがLVがそれを受入れ日本の少女アニメ風のキャラとは……。炒るやうな暑さ。XTC Gelato頬張りつゝフェリーで中環。Z嬢と別れColorsix現像店に写真フィルム出し外国人記者倶楽部のバーでステラぐい/\と喉ごし爽やかで涼を得る。小腹減り鏞記の焼鵝頼粉、無性に食べたく鏞記に駆け込むが午後遅く夕方の一旦店仕舞ひ。向ひの黄枝記に咖喱牛腩麺食す。帰宅。一浴。早晩に復た尖沙咀。ペニンスラホテルのバーに飲む。新顔の若過ぎるバーテンダー二人がお当番。無難にギムレツトを注文。ジントニックの次くらいに簡單だろう。二人のお当番さんは小娘の方がギムレットの調合を教えてもらつてゐる始末。天下のペニンスラホテルのバーでこの様。世も末。P君が現れたのでヘンドリックで胡瓜マティーニを一杯。昨晩に續き香港文化中心で李寶春の京劇。昨晩よりぐっと客の入り佳し。一幕目は陰陽擊鼓罵曹。三國史の名士禰衡が曹操から受けた冷遇への遺恨で化けて現れ、ぐっと痛恨抑へ沉鬱に崑曲「陰罵曹」歌ふのが李寶春なのだから。昨晩、幕間にこのCDをHK$50で入手済み。これが日本なら能なら續ひて孫正陽が八歳の男童役!の「櫃中緣」は狂言岳飛之子岳雷が追つ手避け逃げ込んだは劉玉蓮の家。玉蓮は事情察し岳雷をば衣櫃に匿ふが事情知らぬ間抜けな兄(孫正陽)が騒ぎ、家に戻つた母が執り成し岳雷をば愛娘の婿とすることで目出度し、目出度しの話。梅欄芳が戦後、舞台に復帰した頃に小丑の若手で同じ舞台に立つてゐる!七旬も後半の孫正陽が、天王寺屋だつて十歳だかの愛息にこの役なら譲つてしまふだらうところ、じつの年齢よか七十歳も若い、幼気な童役を見事に演じ、それが可愛らしいから。幕間に小屋を出てXTC Gelato頬張る。中入後は「大鬧天宮」なのだが、昨晩は「烏盆記」(奇冤報)の通し狂言で今晩は折子戯専場(一幕物特集)といふが「陰罵曹」がたつぷりで「櫃中緣」と合わせ九十分、「大鬧天宮」も尺の長い芝居で何処が折子戯か……嬉しいところだが。でこの「大鬧天宮」は西遊記孫悟空物。李寶春が孫悟空澤瀉屋の全盛の頃を彷彿させるような八面六臂の活躍。澤瀉屋の四の切なら大道具の仕掛けや宙乗りもあるが京劇の場合、軽業や大立ち回りだけだから。「その他大勢」の若い役者の身の軽さは当然として小猿の役ながら見栄を張ればぐっと眼を見開き瞬き一つせず見事。台北新劇團なるこの李寶春が手塩に掛けて育む劇団の格別。寶春の孫悟空孫悟空の英才と武術の強さ、そしてその才気ゆゑの傲り、弱さまで実に巧みに演じきる。もう還暦も来年とは、の身のこなし。思わず舞台下に駆け寄り、の拍手喝采。舞台写真は右が李寶春、左が孫正陽のこの若さ。それにしても勘三郎と久々に舞台に登場の猿之助つて言はれたら似てゐて信じるね、こりゃ。芝居が撥ねれば開演から三時間五十分の午後十一時半近く、日本なら芝居小屋出た老人たちは帰宅の手段もなく野垂れ死に、だらう。まぁ「あゝ、いいお芝居を見せてもらつた」でぽつくり逝つてしまふのがアタシらの理想なのだけど。ヴィクトリアハーバーに月が見事。
▼英国首相ブラウン君、内閣閣僚相次ぐ辞任で窮地に追ひ込まれるが彼自身が才量は別としてそも/\前任ブレア君の「やりたい放題」で労働党はもはや何が労働党か、の所信も不確か。小泉三世に「ぶっ潰された」自民党も同じ。米国とてブッシュ二世の好き勝手を誰もあれが共和党とは思つてもゐないがブッシュ後遺症から脱するには未だ暫く時間もかゝらう。今更評価するのも何だが俳優レーガン、鐵女サッチャー、中曽根大勲位の時代、その後の新自由主義の幕開けで何だか市場開放だの国営企業民営化だの「やりたい放題」に見えたが少なくとも政党政治を壊そうどころか寧ろ保守党の基盤強固なるものに尽力もあり。それを思へばこの「レサ中」の三人を「ブブ小」と一緒にしたら失礼、といふもの。

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