富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

陰暦四月十一日。立夏、といふに相応しい初夏の日ざし。蕁麻疹はどうにか治まつてはゐるが眩暈だの耳鳴り、脚の腫みが気になり視力がずいぶん落ちた気がする。養和病院に参れば新型インフルエンザ警戒中で寧ろ平常より患者少ないのは「なるべく病院には近づかない」心理かしら。RCサクセションのLPがどうしても聴きたく、晩に、もう35年くらい前に父が購入の音響アンプ(ヤマハのA1)の不調をどうにか直してレコオドが聴けるやうにしよう、と試みたが治らず。養和病院より血液検査の結果が電話で連絡あり血糖値が基準値上回つてゐるので再検査勧める、で「今晩12時は如何?」と看護婦。三更半夜? 「もう夕食が済んでゐれば食後四時間だから」と、そりやさうだが何故、夜中に。ラボは24時間空いてゐる、といふ。早朝五時でも六時でもOKなのださうな。香港らしい。が明日にしやう。
▼香港ではケーブルテレビのニュースチャンネルが30分のニュースのうち冒頭の五分で済ませた新型インフルエンザ報道。NHKのNW九は17分。楽観視の危険性課題が浮かび上がつてゐます、さらに発熱相談センターの設置と一般の病院での外来としての診察拒否……と日本の新型インフルエンザ報道はまるでマッチポンプ。蔡瀾の言ふところの日本人の好む悲観主義か。まさに希臘語で「全ての人々」意味するPandemosを語源とするパンデミックな一億総ナントカ。問題を大きくして課題を想定し悩んで結果は不十分なものだから、とまた課題を考へ……の永久運動。自動車製造ではKaizenは有効だつただらうが。SARSのさなかに感染経路の特定できるSARSに比べインフルエンザがいかに脅威か、と指摘された尾身茂教授、今晩のNW九に出演して「今、地方自治の力が試されてゐる」といふコメントなど聞くとインフルエンザの権威からすでに変異か?と思つたが尾身教授が自治医大だと思ふと地方行政に言及は当然か。だがインフルエンザの流行の周期について話すなかで「流行が穏やかになつてしまふと」なんて生放送のコメントだから論うのもなんだが「風が吹けば桶屋が」のやうに思へもして。息を吸ふ音が耳障りなキャスター(女性)も何を勘違ひしてゐるのか「私たちが国としてやらなければならないことは」ですつて……アンタは首相か。キャスター(男性)は「35歳、昔なら働き盛り、今は希望のないワーキングプア」の特集を受けて番組の最後で、あのの世代が「報はれない社会をどう作るか」とコメントしてしまつて慌てゝ「報はれる社会」と訂正。アタシがプロデューサーだつたら番組終はつて胸ぐらつかむだらう。独逸訪問中の麻生首相は伯林のフンボルト大学での講演で日本語なのに「日本と欧州のパートナーシップが必要」といふところで、思ひつきりパートナーシップだけ「僕も英語が出来るんだぞ」と力んだのか、思ひつきりコントさんのやうな英語風で発音してみせた。どうせならPartnerschaftと言つてみせれば良かつたのに。NHKから首相まで全てが滑稽。
▼信報の今日の社説曰く1918年の西班牙大流感と米国の株価を見てみると意外にも、この流感が猛威を振るつた期間のダウ平均株価は安定してをり1918年から21年にかけ六割近い伸びをみせたさうな。「人類はこの新型インフルエンザの未曾有の危機を乗り切つた!」といふことで景気恢復の起爆剤つて「あり」鴨。
朝日新聞で市川速水氏が「広告塔」ジャッキーの失言、と題してジャッキー=チェンの舌禍取り上げる。この俳優が「香港返還の97年前後から中国の未来について楽観的な発言を繰り返してきた。(略)香港と中国を結ぶ役割を背負わされた、中国にとっての広告塔。今回も公的な役職として発言する場を設けたのが、中国の意向であることは疑いない。今や彼の発言は個人的ではすまされない」と手厳しく評す。書き手は続けて曰く、香港と台湾が「中国から独立も、統合されもしなひ微妙な両地域」として(香港は統合された上での隔離にすぎないのだが)「自由」の一語に託す思ひの強烈さであり「そこに想像力が働かないなら、広告塔といふより中国の宣伝マシンと呼ぶべきではないか」と痛烈に批難し、社会の不安定化への不安もあらうが「それでも、管理が自由に優先するという論理が堂々とまかり通ることには、寒気がする」と結ぶ。市川エディターにとつてはかなり高揚した物言ひ。それくらゐこのジャッキー=チェンの発言が残念なのだらう。だが敢へてジャッキー=チェンの側で考へてみれば、中国の現状に多くの問題があることなどわかつてゐる、が解決策が見えないからこそ敢へて道化となり、世の中を少しでも良く感じられるやうにしたいのだ……といつた気がしないでもない。さもないと、それぢや映画『新宿事件』の登場人物たちのやうに仕合せになりたくて逃走したのに結局は内ゲバ的に壊滅情態でいゝんですか、と。とても難しいところ。

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