富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-04-18

四月十八日(土)曇。週末版のどつさり届いた新聞に目を通してから吉田秀和全集で「ポリーニ」読む。昭和40年代に、まだポリーニを生で聴いてゐない秀和さんは(この「ポリーニ」も所収の記載がないので書き下ろしかしら)ポリーニについて、
ポリーニの演奏には、燃えるような強烈なダイナミズムと非常な早さで走ってゆくアレグロの音楽の中に、きれいに歌がきこえるという魅力があるのだが、その反面、奇妙な冷たい感触をもったピアニッシモの世界があり、それを現代風の演奏と呼ぶのもたぶん的外れではないだろう。が、私はそこにこのイタリア出のピアニストの特質を、まず見るのだ。それはいわゆるロマンティックな気質とはちがい、むしろ感覚的でしかも理智的な肌合いが強いのだが、それでいて、そこにはまるで白昼の日ざしの中で夢みるような明晰さと硬質な優しさとの同居がある。
と綴る。「燃えるような強烈なダイナミズムと非常な早さで走ってゆくアレグロの音楽の中に、きれいに歌がきこえるという魅力」はまさに正鵠を得てゐるが、このまだ三十代のころのポリーニに対して一昨晩の彼は少なくてもピアニッシモに「奇妙な冷たい感触」が寧ろ優しさ、に聴こえた。ジムまで走り昼にかけ筋力運動一時間。午後に西湾河。太安樓の基記水電工程の牛雑を一串頬張り電影資料館。Z嬢と映画監督・易文(1920〜78)の特集で1959年の映画『空中小姐』観る。主演は「マンボ女郎」で有名な、初代「歌つて踊れる女優」の葛蘭(GraceChang)が当時、花形であつたスチュワーデス役で對手役のパイロットは喬宏。当時は映画だから商社マンの宝田明も香港駐在で遊んでばかりしたが、この映画でも台北シンガポールバンコクと仕事より観光と恋愛に現を抜かす。折からキャセイパシフィック航空は記録的な減益(昨年は損益HK$86億、今年第一四半期の収入は昨年同期比で22%減)でフライト削減と職員の週単位での無給休暇による人件費削減など必死。半世紀前の空の旅の楽しさ、嬉しさよ。1959年当時の香港啓徳空港の風景が実写なのも貴重。当時まだ、今の九龍湾から観塘にかけて野つ原。映画終はると大雨。タクシ自動車で帰宅していくつか仕事済ませ晩に銅鑼湾。知己の映画監督C君のプロダクション。C君が月イチで開くパーティ、といふか宴会。出不精のアタシがかういふのに出ることも稀。H-MédのCh. Sociando-Malletの04年を持参。これを喜んだ客は稀で自分でかなり飲む(笑)。事務所の関係者や友人、芸人や俳優、モデルもちらほら。C君にいくつか話を済ませちよつとBBQご馳走になり退席。パーティであつた客の一人と書店の話となり銅鑼湾そごふ裏の開益書店といふ書肆を聞き、鳥渡寄つてみる。陳雲の『中文解毒』購ふ。バーSに寄る。知己のB君夫妻と邂逅。 

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