富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-03-29

三月廿九日(日)昼過ぎから太古城シティプラザの映画館でシンガポールのLei Yuan Bin監督“White Days”観る。登場人物は三人。エルサレム訪れること夢見る青年、その妹?と映画制作がしたいのか市街を8mmで撮影する無職の青年、は蔡明亮に憧れ台北に旅行したい。その三人の生活。この監督は小津への憧憬が強いさうで慥かに一つのカットが長いのはそれつぽいが、それだけ。小津安二郎の映画は淡々と日常を描き話が進行しないやうで、実は繰り返しの目立つ会話が重ね畳むやうに筋の展開をしてゐる点で饒舌。それに対してこの映画は饒舌なのだが筋の展開がほとんどない。ある面では小津以上に無為。だが映画としては面白くもなんともない。ただ基督者の青年が路上で延々とする説教は実に見事。映画跳ね、無印良品でL版の写真用ファイル購入して帰宅して先日、書室の片付け中に出てきた七、八年前のスナップ写真を整理。午後遅く今度はZ嬢と一緒に復た太古城シティプラザの映画館で市川崑監督の『その木戸を通つて』を見る。聞いたところでは1995年にフジテレビが日本初の長篇ハイビジョンドラマとして制作。平成七年に一度、ハイビジョンの実験チャンネルで放映されただけのものが市川監督逝去の頃から映画作品として復活。山本周五郎原作。で記憶喪失の娘・ふさ(浅野ゆふ子)と彼女を見受けした侍(中井貴一)でづらりと脇役に一流俳優が並ぶ、が筋は所詮、テレビドラマの域を出てをらぬどころか火曜サスペンスドラマ仕立てにするにはオチがないことで脚本企劃の段階で「ボツ」となる。フランキー堺岸田今日子、市川監督ともう他界。だがハイビジョンとして大覚寺彦根城など実物でのロケを映像に見事に活かした点は評価されよう。地下鉄で尖沙咀尖沙咀のJimmy's Kitchenに早めの晩餐。この週末は香港は七人ラ式蹴球(Rugby Sevens)開催。金曜日からかなり血の気の高まつた泥酔気味の猛者が香港スタヂアムのある銅鑼湾に集結。今晩はその決勝。終はるとご乱痴気組が市街お練りとなるが幸ひ決勝の開催中で銅鑼湾で地下鉄に愚連隊が乗り込むもなし。Jimmy's Kitchenもこのセブンスに協賛らしく尖沙咀の店でもバーエリアで決勝戦の実況中継。だが客は数人が眺めるのみで閑散。ドライマティーニ飲み中継を少し眺める。蟹肉とアヴォガドの前菜、菠薐草とベーコンのサラダ、オニオンスープとビーフストロガノフと、他に註文する品はないの?と思ふいつものメニューをZ嬢とシェア。ワインは新西蘭のSacred HillのSau Blがなぜかセブンスのオフィシャルハウスワインとなつてをり、これを一杯。尖沙咀でコンサート前はこの「香港のたいめいけん」に限る。で香港文化中心でエフゲニー=キーシンのピアノリサイタル。香港でのリサイタルはアタシは二度目。少しお痩せになつた?の今晩は前半はプロコフィエフ。「ロメオとジュリエット」からの10の小品Op.75(1937年)より「少女ジュリエット」「マーキュシオ」「モンターギュー家とキャピュレット家」の三曲、ピアノソナタ8番を存分に。後半はショパン幻想ポロネーズマズルカは作品30の4・嬰ハ短調、作品41の4・嬰ハ短調、作品59の1・イ短調の三曲、で練習曲は作品10から1〜4番と12番(革命)、作品25から5〜6番 で最後は11番(木枯らし)。キーシンといへばアンコール、で何度もの拍手喝采での出入りの中で(以下、曲名はアタシの勝手、で未確認)ショパン夜想曲16番、プロコフィエフピアノソナタ6番の第1楽章と三つのオレンジへの恋(作品33)行進曲が今晩の大詰め。それでも客の拍手喝采鳴り止まづショパンのワルツ7番と「仔犬のワルツ」までたつぷり40分強。途中20分の休憩挿み2時間45分たつぷりとキーシン。今晩は「モンターギュー家とキャピュレット家」、プロコフィエフ8番の後半、もちろんショパンの練習曲も良かつたがアンコールは客の喝采に応へ、どうしてもショパンでワルツ七7番と「仔犬のワルツ」に至つたがプロコフィエフ6番の第一楽章と「三つの〜」の行進曲、でドカーンと花火を打ち上げて、で終はつてほしかつた。どうであれアタシはこの見た目が宮崎駿の映画でトゝロのやうな愛嬌のある「ピアノを弾く希少な生き物」と同じ時代に生きて、この地球上の謎の生物の弾くピアノが聴けることがつくづく嬉しい。ピアノはそりや凄いが、この人がぬぼーつと、そして喝采にちよつと含羞んでにこつと嗤ふ、その舞台上での立ち姿だけで一時間は見飽きないだらう。ふと思つたがバレンボイムが主人で妻がアルゲリッチ、執事役がアシュケナージ、で当然、息子がキーシン、運転手にブーニンで家政婦が内田光子、別棟に監禁される叔母がフジコ=ヘミングとかで『アダムスファミリー』みたいな映画撮つたらさぞや面白いだらう。キーシンのピアノの妙が帰宅しても冷めずウオトカにZ嬢自製の枸杞の実のスピリッツを割つて飲む。

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