富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-03-28

三月廿八日(土)昨晩、高原英里『無垢の力』の足穂に関する章(第四章、断念の力)読んでゐたのだが田中長徳日記読むとチヨートク先生もプラハから戻る露西亜機のなか足穂の一千一秒物語を読まれてゐたことが書かれてゐる。足穂を徹底的に読みたいが全集も時間もない、か。昼すぎに尖沙咀。今晩のドバイの競馬の馬券購入。Dubai Duty Freeに参戦のウオトカ(武豊)は結局、外す。でもどうも勉強不足で馬券的に面白からう、とDubai Golden SHaheenはMarchand D'orから、Duty FreeはBaliusとPaco Boyから流すキネラ、Dubai World CupはAsiatic Boy一発勝負。久々に海防道街市の徳發に牛腩麺食す。よく毎日のやうに麺を、それも牛腩を飽きずに、と我ながら思ふが店により味付けも全く異なり飽きず。この店のこつてりしたスープでラーメンも美味いだらう、と思ふ。太空館でフィリピン映画“Imburnal”観る。監督はSherad Anthony Sanchez、で215分の長篇。フィリピンの田舎の集落で育つ少年たちの通過儀礼的なさまざまな事象通しての成長、その結果のやうに待ち受ける十代の若者たちの何するでもなく怠惰な生活と大らかな玩性玩愛。ドキュメンタリーのやうな日常の撮影と最低限の芝居が交錯する。意外と飽きもせず215分、見続けた。椿事あり。午後をすつかりこの映画に費やし午後六時のジェットフォイルマカオへ。今晩、澳門文化中心でチュニジア出身のDhafer Youssefのコンサートあり。このDhafer YoussefはOudといふ楽器奏で歌を歌ふ。「をうど」は京言葉みたい、だがリュートの原型のやうな中東の楽器で琵琶みたいなもの。アラビアの琵琶で「アラ琵琶」なんて、ね。このDhaferさんの今回のツアーでドラムとパーカツションがSatoshi Takeishi(武石聡)さんで、この方はアタシの中学の二級上の先輩。中学の吹奏楽部でご一緒。当時から、そのへんの中学生バンドのドラムとは全く違ふ世界で太鼓敲かれてゐたが(ギターでいへばCharのやうな少年がときどき現れる)、高校卒業後に米国に渡り紐育在住で現在に至り、お会ひするのは実に三十数年ぶり。先日、同じく紐育在住のベーシストのST君来港の際に「兄貴がマカオで今月末にライヴがある」と教へてくれ、それが今晩。波止場から路線バスで文化中心。聡さんに用意していたゞいたチケット受領。開演まで周辺を近くのコンビニまでビール買ひに歩いたが、数年前はそれなりにレストランやバーの点在した一角もすつかり食肆が閉まつてしまつた。ビール二缶飲み「場内での飲酒は堅くお断りいたします」に隠れて飲むのに300mlの赤葡萄酒を一瓶購ふ。この葡萄酒が18パタカ(300円ちよつと)。Dhafer Youssefのこのバンド、流れでいへばかつてのECMレコード系、といふ感じ。"The most beautiful sound next to silence"である。ジャズのやうな、無国籍な何とも漂ふ音。北亜弗利加の民族音楽か、と思へばコーランのやうな、で強烈なフリージャズに展開したか、と思ふとどこか亜細亜の、それも川田晴久の!ボードビリアンのやうなフレーズも聴こえてきたり。Dhafer YoussefはMCで愛嬌見せるがSatoshiさん始めピアノもベースもみんな伏し目がちで、それがバンドの雰囲気。客はさすがマカオ葡萄牙系の客が多く反応良し。アタシもそつと飲む葡萄酒でかなり心地佳し。このSatoshiさんのドラムは自然系。自然の中で打楽器から音が流れてくる。他のどのドラマーとも違ふ天然系の打楽器に客もかなり喝采。二時間のライブ終はりCD即売&サイン会がロビーで。その長蛇の列が終はるのを待ちSatoshiさんにご挨拶し旧交を談る。田舎の中学の先輩と三十数年ぶりの再会がマカオとは感慨深いものあり。明日はもう紐育に戻られる由。ライブ跳ねNAPE=新填海区(埋立地)を宋玉生公園の方に歩く。市街のカジノ街に近い、このへんに来ると少しは賑やか。それにしてもシーヴァスとジョニーウォーカーの看板の飲み屋ばかり目立つ。漫ろ歩き友誼大馬路渡り歓楽街の方へ。土曜日の晩だといふのに繁華街も閑散。通りに企つ淫売のお嬢さん方のはうが目立つ。これぢや商売あがつたり、だらう。松花湖なる餃子など供す北方料理屋に入る。水餃子食しビール飲む。路線バスで波止場に戻り23:30のジェットフォイルiPod志ん生の「らくだ」と黒門町の「寝床」を聴くうちに香港到着。帰宅してドバイからの競馬中継はWorld Cupに間に合ふ。Golden ShaheenもDuty Freeも前者はBig City Man、後者はGladiatorusが来て、Marchand D'orも日本馬バンブーエール武豊)も香港馬Lucky Qualityも、後者はウオトカもみんなダメ。でWorld Cupはダートがドバイの先日来の雨でかしら、なんか糠を踏んで走つてゐるやうな情況でWell Armedが五馬身さ、くらいで勝利。今年のドバイは擦りもせず。
▼中学生の頃、ビートルズは小学校高学年で利いてゐるやうな子が周りに何人かいて、中学生では渋谷陽一の音楽評を読み「パープルは歌謡曲だよ」なんて口ぶりでピンクフロイドやクリムゾン、ELPにザッパとかプログレまでカヴァーしてゐたのは、地元のNHKFMリクエストアワーに今では伝説だが田中勝美さんがとんでもないロック番組を流してゐたからで、音楽がこれなら読む雑誌はJJの頃の『宝島』や『面白半分』で授業中に『ビックリハウス』の回し読み。クラフトワークも聴いてゐるから、その後のYMOも驚かない十代がそこにゐて、この上述のドラム&ベース兄弟がゐて、担任は高校受験のアタシに当時、ショスタコービッチなんて聴かせてくれた。嗚呼、なんて70年代なのかしら。

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