富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-03-27

陰暦三月初一。日値歳破。早朝にJ-Waveのジョン=カビラ氏の番組に電話出演で数分間「香港の引越し」について喋る。いつもならBoseのSound WaveでRTHKのChannel-4の古典音楽がfade-inしてくるので心地よく目覚めるが、それが修理中でラジオ局からの電話に慌てゝ飛び起きた。昼遅く銅鑼湾の文輝墨魚丸大王に紫菜四寶粉食す。アタシはどうしても灣仔の泉記が好きだがこの文輝は銅鑼湾では墨魚丸では老舗。今はどうだか知らぬが嘗ては銅鑼湾の卡拉OKに遊んだ日本人の客が卡拉OK小姐連れ出し夜な夜な「最後の〆め」なのか「同衾前の仕込み」なのか知らぬが、この文輝に夜食の客多く註文もいゝ加減で、この食肆の紫菜(海苔)が日本人客には好評で日本語で「海苔蕎麦!」と頼むと紫菜盛つた墨丸粉だかが供されたといふ話(都市伝説か)をふと想ひ出す。だがさすがに今どき昼ひなかに「海苔蕎麦!」と註文する勇気もなし(笑)。この肆の河粉はとにかく量が大盛り。味付けは本当に控へめで客は好みで卓上の魚醤を加へたり。晩は久々に吉野家の牛丼。箸が環境保護か、割り箸でなくプラスチック製でリサイクル。牛丼を割り箸以外で食べたことがないので、どうも勝手が違ふ。プラスチックの箸ではとにかく食べづらい。店内でなんとなく和んだ気分になり、ふと気づくとBGMがチェッカーズの“Song for U.S.A.”であつた。アタシがおそらく吉野家の牛丼を最も食べてゐた頃(1983年はもう四半世紀前!)のヒット曲。かなりヒットしたが曲名のSong に冠詞がないのがいかにも日本的で、当時“for the U.S.A.”だらう、精確には、とか指摘され、サビの“This is the song for U.S.A”の語呂と音がどうもマッチしてゐないのが気になり、いづれにせよ当時まだ健在だつた朝日ジャーナル的には「まるで日米安保ソング」であつた。閑話休題。昨晩に続き太古城シティプラザの映画館でZ嬢と今晩は想田和弘監督の『精神』観る。この想田監督も昨晩の『谷中暮色』の舩橋監督と同じく赤門、想田さんは文学部宗教学科の出でやはり紐育の視覚芸術学院で映画制作を学んだ人。想田監督上映挨拶あり。前作『選挙』がこの映画祭で上映された時に香港に好印象あり今回も是非に、と願つての香港上映の由。岡山の或る精神科診療所舞台にしたドキュメンタリー。英語の字幕はけして患者らの語りのニュアンスを全て訳しきつてはおらぬが、そこが映像の強みでぐゐ/\と観衆を引き込み客の香港のあからさまな反応はそりや監督にとつては感慨無量のはず。精神病の患者は映画が始まつた頃はとても不気味だが、だん/\と親近感を持ち始め、観てゐる我々が自分たちとはほんの軸が数度違ふくらゐの差異しかなく、自分たちも鳥渡した弾みで精神を病むのだらう、と覚悟し、そして精神病の患者が佳人から遂には聖人にすら思へてしまふ……は監督の敢へていへば「演出」の凄さ。とにかく出てくる患ひ人たちがさすが紙一重で見事に役者づいてゐる。かなり見事なドキュメンタリーであるが見事なドキュメンタリーほど「やらせ」ではなく制作上の非現実性があるわけで、この映画でいへば、精神病といふ病に対しての偏見がこの映画で解けるか、といへば慥かに偏見は多少解消されよう、がこの岡山の診療所はいはゞ愛すべき精神病者らのサロンであり、この診療所に通ふことすら能はぬ精神病患つた人々がその何十倍、何百倍もゐるのが現実で、その人たちがこのやうに和気靄々とフィルムに登場できるか、といへば無理な話で、山下清草間彌生は芸術家になれるし、この岡山の診療所に集ふ人たちはまだその言動が愛すべき対象となる。このドキュメンタリーはまるでムーミン谷、一つの桃源郷のやう。それはそれで大いに結構だし映像に撮つただけ偉業。だが精神病の現実とは、まだ遠い世界だらう。……とそんなことは製作者である監督自身承知のことで、だからエンディングをどこに着地させるか、がこの映画の醍醐味……はまだ日本公開前らしいので此処では語らず。ところでこの作品、想田監督の企劃・監督・撮影・製作の一人作品ゆゑ撮影がビデオになるのは致し方あるまい、がキョービの高画質ビデオはもう鮮明過ぎてアタシの目には画質が硬いのが難。映画や音楽会の時にふだんの眼鏡では弱いので強い度数のに掛けるのだが、このビデオ作品も高画質過ぎて思はず普段の眼鏡に掛け直し、少しぼんやりでどうにか135分に耐へた。ビデオ編輯作品も岩井俊二監督の「リリィ=シュイの世界」も、あの当時はデジタルで映像が硬い、と感じたが今、DVDで見直すと今のに比べればずつと柔らか。あれくらいが限界だらう、通常の視覚にとつては。
▼先日「身を窶し」と書いたが不幸は架空の物語を待つ迄もなく現実にいくらでもあり。二日前だかの蘋果日報に「愛滋婦體内蔵毒因152月」とベタ記事あり何かと思へば四人の子をもつケニア人の女性は不幸にも前夫からHIV染され三歳の娘も感染、その娘の医療費捻出のため麻薬密輸に500g(末端価格でHK$63万)のヘロインを99包に分け陰道と大腸に隠し中国内地に運びUS$三千の報酬を得る仕事得たがバンコクからのフライトで香港空港に到著し税関で捕まり12年八ヶ月の入獄の沙汰。香港での収監にケニアに残せし四人の子を想ひ悲しむばかり、と。
▼先日のダービー馬Collection(閑話一句)について昨日の蘋果日報の連載で左丁山氏が語るに、ダービー優勝の賞金HK$928万は世界二位の高額で、まるで一攫千金だが、この駿馬は父が97年の凱旋門賞五馬身差で圧勝のPeintre Celebre、で祖父がNureyev、曽祖父がNorthern Dancerといふ超名駒だから落札の価格が90万英磅で、だからさすがの香港馬主らもシンジケート組んだほど、ダービーまでの二冠一亜での獲得賞金がHK $1,116.3万で手取りが七掛けとすれば、まだ/\回収も出来ず、ダービーでの2,000mの余裕の走りを見れば一月末のチャンピョンマイル、年末の香港国際で走つてもらつて賞金稼ぎせば、やうやく「閑話一句」と。うまゐねぇ、左丁山
藤間紫刀自逝去。享年85歳。六代目の勘十郎が前夫で亡くなる時は澤瀉屋の喜慰斗の姓となつた。
▼昨日のIHT紙に“Dear A.I.G., I quit”と題しA.I.G.副社長だつたJake DeSantis君が同社C.E.のEdward M. Liddy君に送信の公開E-mailより抜粋。DeSantis君は「問題となつた」高額の賞与の全額返済申し出「一人だけ良い子ぶりやがつて」だろうが。
The only real motivation that anyone at A.I.G.-F.P. now has is fear. Mr. Cuomo has threatened to "name and shame," and his counterpart in Connecticut, Richard Blumenthal, has made similar threats ― even though attorneys general are supposed to stand for due process, to conduct trials in courts and not the press.
So what am I to do? There's no easy answer. I know that because of hard work I have benefited more than most during the economic boom and have saved enough that my family is unlikely to suffer devastating losses during the current bust. Some might argue that members of my profession have been overpaid, and I wouldn't disagree.
That is why I have decided to donate 100 percent of the effective after-tax proceeds of my retention payment directly to organizations that are helping people who are suffering from the global downturn. This is not a tax-deduction gimmick; I simply believe that I at least deserve to dictate how my earnings are spent, and do not want to see them disappear back into the obscurity of A.I.G.'s or the federal government's budget. Our earnings have caused such a distraction for so many from the more pressing issues our country faces, and I would like to see my share of it benefit those truly in need.
と。このDeSantis君の半思と賞与返済の行為は評価に値ひしやう。が、問題はそも/\何故にA.I.G.救済に巨額の公的資金を米国政府が注資したか?であり、その結果がこの管理層に対する賞与、と思へば貰つた連中は寧ろ貰ひ得で返済などせぬも一興。張五常教授ら市俄古派中心となり多くの経済学者が米国政府の金融機関救済が為の公的資金投入反対の声明出したも然り。

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