富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-02-21

二月廿一日(土)曇。朝から午後まで官邸にてご執務。夕方、中環。Colorsixにて写真の焼き増し。FCCのラウンジでカプチーノ飲みながら週末版の新聞読みながら周囲の会話が耳障りなのでTyler BrûléのThe Monocle WeeklyをiTuneのPodcastsでiPodにおとしてBOSEのイヤフォンで聴いてゐる、と、快適。快適だが「いかにも今様」な快適さに我ながら嗤ふばかり。The Monocle Weeklyの最新号は香港での録音の由、Jimmy 黎智英氏が台北より中華圏の自由につきコメントあり。早晩に上方から来港中のT君、Z嬢来て晩餐。米国加州のWoodhavenのCar Sau 06年飲む。廉価で味的にはなか/\。Z嬢と市大会堂。Sergio Tiempoはんのピアノ独奏。ベネズエラ出身のピアノの天才少年も、キーシン少年と同じく、もう三十代後半。今が一番、脂が乗つた、失礼ながら紅顔の美少年も年相応なメタボな体形、で噂通りまぁよく指が動くこと、のポリーニアシュケナージもさうだつた、「怖いものなし」の三十代。曲はバッハのパルティータ1番から始まり前半はハイドンソナタ50番、ショパンエチュードOp.10の12番とOp.25の6番と12番。ピアノの上手な少年がそのまま大きくなつたなぁ、と。上手なのだが何か訴へてくるやうなものは感じられず。で前半のピアノの教則本通り、のやうな演目が中入後はラヴェルのGaspard de la Nuit「夜のガスパ」の3曲、アルベルト=ジナステーラといふ、彼にとつては地元曲で「アルゼンチンの3つの舞曲」でリストのコンソレーション3番とメフィストワルツ1番までほぼ休みなくさつーと弾かれてしまつては、ただ/\「怖れいりやした」首を垂れるしかない。さすがに後半の曲は彼の芸風を見せつけられた感あり。これから円熟がそりや楽しみなピアニスト。帰宅せば「又播磨」といふ掲題のメール久が原のT君より届くを見る。又五郎さんが亡くなつたか。今曉四時十分老衰にて逝去の由。齡九十四の大往生。アタシが東都でさんざん芝居見物の1980年代後半に目玉の市ちやん(市蔵)とか、彼ら脇役の重鎮はもう七旬だつたのだから。明くる朝の新聞弔報(朝日)に
近年は舞台出演が減つてゐたが、04年に東京・歌舞伎座で上演された中村勘三郎主演の「今昔桃太郎」で、約半世紀前の勘三郎の初舞台でもつとめた犬の役を再び演じた。最後の舞台は06年4月の「六世中村歌右衛門五年祭追善口上」。09年1月の歌舞伎座さよなら公演古式顔寄せ手打ち式にも姿を見せた。
とある「最後の舞台」につき「又五郎しみじみ陳べし聲音、餘も今に忘れず」とT君の語る話は斯の如し。
又五郎戦地出征の見送りに、東京驛頭に衆人群れをなす。故人歌右衞門の芝翫時代、その時は人中から控へめに別れを告げしと見えしが、列車發車し、次なる新橋驛に停車するや、意外にも省線にて先囘りせし芝翫窓外にあり。慌てて窓開けるや否や、「又ちやん。死んぢやダメよ!」と言ひざま、手造りのお守りを握らせてくれた藤雄さんの聲は今でも忘れません。

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