富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-02-22

二月廿二日(日)霧雨。朝から午後遅くまで出先でご執務。早晩に中環。Z嬢とIFCで待ち合はせExchange Squareのラーメン「札幌」ででも食事済ませようと思へば日曜で休みで何年ぶりかしら、でJubilee街の金華に食す。白切鶏などで著名の老舗はかつては近隣の労工らが気軽に食す食肆であつたのが数年前に方針変更でかなり高級化。昼に開店で唯霊氏が中環で朝食の貴重な食肆を一つ逸したと嘆く。が個人的には昔の方が好ましい味つけ。IFCの映画館で“Milk”観る。70年代の米国加州桑港で同志解放に活躍のハーヴェイ=ミルク氏を主人公にした映画で、つい先日、この映画のポスターを見た時に80年代のドキュメンタリー映画ハーヴェイ・ミルクの時代』のリバイバル上映か、と思つたのはポスターに公民権運動など今でもよく写真の載るハーヴィー=ミルクが写つてゐたから、で、だが今回のこの映画『ミルク』は主人公演じるショーン=ペンがあまりに故人にそつくりで役になりきつてたのが、それ。驚くほど。米国の、それでも米国らしい良心、といふ世界。主人公のハーヴィー=ミルク氏がそりやゲイやマイノリティ解放、労働問題等に尽力したことは事実だらう。が、政治の世界に首を突つ込むだけ政治的な、政治家としての野心的な部分、また同じく暗殺された桑港市長との政治的な取引きの部分など映画にも描かれぬし真実は明らかにされやうもないだらうが、さういふ点もあらうことか、と憶測するばかり。今晩の上映はIFCの狭い小屋とはいへ満席。いかにも民主党支持といふ感じの、米国人の比較的中高年の客多し。
山村修さんの『もつと、狐の書評』ちくま文庫読了。書評といふと著者が珍しくかなり厳しく評してゐるが週刊文春の<風>氏=朝日新聞百目鬼恭三郎のやうな「自分を語る」ものか、最近気になるのは朝日新聞の書評など評家は一流の人を揃へてはゐるが問題は書評でありながら「買はなくても読んだ気になる」くらゐ書籍の本筋の核心をネタ晴らししてしまふやうな書評が目につくこと。それに比べると日刊ゲンダイに連載された、この<狐>の書評は作品の面白さを語り、かといつて興醒めさせるやうなネタ晴らしもない。この『もつと』はちなみに日刊ゲンダイ以外に掲載された書評二百数十扁。恥づかしながら、そのうちアタシが読んだことがあるのは、カール=マルクス『ルイ=ポナパルトのブリュメール十八日』岩波文庫山口昌男『「敗者」の精神史』岩波書店和辻哲郎『古都巡礼』岩波文庫山上たつひこ『喜劇新思想大系1』双葉社のたつた四冊で、三毛の『サハラ物語』は原書で読み、東洋文庫『唾玉集』平凡社はもうずつと読みかけ、で寝台の横に放つたまま。ちよつと読んでみたいのがL=ガーフィールド斉藤健一訳)『見習ひ物語』福武書店武田百合子『ことばの食卓』ちくま文庫安井仲治写真集(新潮社)といつたところ。この『もつと』の解説で岡崎武志氏が、この<狐>氏が幸田文の『木』の書評で紡いた言葉を故人となつた<狐>氏に贈り返す。
見ることと書くことが等価、その間に寸分のスキもない。それが物書きのなかでも特異といへるほど、たぐひまれな才幹であつたことに気づいたとき、作家はすでにこの世にゐない。
アタシはこの山村さんの『禁煙の愉しみ』を読んだ時、珍しく著者に感想を書き送つた。著者の勤務先が青学の図書館と紹介されたゐたため、そこに書状を送ると、すぐに丁寧なご返事をいただいた。几帳面できれいな字が並んでゐたが、この方がまさか日刊ゲンダイの<狐>氏とは当時は全く知らず。アタシがそれを知つたのは不覚にも山村氏の急逝の後だつた。
佐藤優『高畠素之の亡霊』連載第12回「テロル」昨年晩秋の『文藝』誌を読む。

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