富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-01-26

富柏村日剰巻之十 己丑年正月初一。居間に飾つた桃の枝、昨晩より確かに花多く開き蕾も熟す。雲多く寒し。今日と明日初二は新聞届かぬことを幸ひに溜まりたる新聞雑誌拾ひ読み。机に凭り諸事済ます。ふとJohnny Lewis & Charの名曲“Smoky”を聴けば1979年のライヴ版。早三十年昔と驚きつゝ色褪せぬ、否、寧ろ今どきのロックがお遊びに聴かゆセンスの良さに言葉もなし。昼過ぎZ嬢と散歩に出ずる。西湾河の裡道漫ろ歩き筲箕灣に至る。暦で拝神は初二の明日なれど城隍廟、天后廟と譚公廟の三廟に賽す。ハーヴァーに添ひ西湾河に戻る。旧正月ゆゑか湾に停泊の船舶殊更多し。風情あり。この湾を愛秩序湾(Aldrich Bay)と云ふ。アルドリッチは人名か、余はしらず、但し1950年代の地図には此処は水牛湾(Buffalo Bay)とありアルドリッチの名に非ず。そのアルドリッチの音訳かしら「愛秩序」と云ふ漢名に不快感覚ゆ。かつての水牛湾の埋立地には愛信街、愛徳街、愛勤街、愛賢街、愛禮街……と書き写すだけで気持ち悪き愛づくしなり。西湾河の波止場に至れば対岸の九龍は三家村に渡るフェリーの丁度出港時間。半時間に一本。暇に任せ三家村より鯉魚門を歩く。正月客目当てに開けた魚介売る店、海鮮料理屋も少なからず。夕方ゆゑ客引きもなし。寒さに耐へかねブランデーの小瓶購ひちび/\。普段は行きもせぬ鯉魚門の奥まつた村の集落から更に天后廟に賽す。海沿ひの苫屋の門柱に台風等で海荒れての災害を名目に立ち退き求む政府の通告読む。ふとかうした集落の居住権等どうしたものか、と思へば政府地政署の看板あり。立ち止まり一読せば土地不動産登記の不完全なる臨時家屋に関して1980年頃に法整備あり、その際に登記されし家屋以外の増改築は居住上の家屋修理(雨漏り、屋根、壁の老朽化の補修等か)除き一切の禁止。政府は臨時家屋区の整備(つまり取り壊し)進める方針。住民については1985年の調査にて登記された者(及びその後の婚姻や出生により法的に確認能ふ配偶者や子女等の家族も含め、だらう当然)については公共住宅提供。1985年以降勝手に住み着いた者には一切の住宅提供等なし、と謳ふ。薄暮多雲。三家村より西湾河に渡り漫ろ歩き続け太古城。ちやうどApita(旧ユニー)初売りの開店四時半で客多し。押されるまゝ店内に入り地下の食料品売り場も1割引きの由。Chimay麦酒の赤瓶2本と恵比寿麦酒2缶購ふ。H氏夫妻に邂逅。旧正月で広州より香港に戻られた由。帰宅して晩に豚汁、豚と白菜の蒸し鍋など食す。テレビで香港電台(RTHK)の鏗鏘集を見る。「迎新不忘舊」と題しデジタル化の時代にLPレコード、真空管アンプ銀塩フィルムでの写真撮影など好事家取材しての地味な番組。香港電台らしい、さう易々と時代と同衾せぬセンスあり。
定額給付金。東都足立区で支給総額百億円。区役所は住民台帳を本にした支給対象者の確認作業、具体的は支給対応がとても作業間に合はぬとデータ集計等の依頼で業者選定中。公共事業で住民データが民間に託されるとは。国が、否、国の政府与党が、否、自民党が政権維持のためにやりたい定額給付金支給で実際には地方自治体が大はらは。香港なら納税者への還付なら小切手郵送でさつさと済んでしまふし、市民一人あたり定額給付なら(住所登記はないので)例へば永久居民が対象と決めれば役場か(図書館など活用されさう)或いはネットで自らのHKIDで登記しなさい、で済んでしまひさう。台湾もつい先日、国民に定額給付金を総統の鶴の一声で給付済み。日本の行政システムがいかに形ばかりで実用的ぢやないか。NW9のキャスター田口某曰く「こうした混乱は避けるべきですねッ!」。小学生でもわかることコメントするな。
▼話は最早旧聞に属すがオバマ総統就任でオバマ夫人の纏つたドレスの設計で一躍世界に名を馳せた台湾出身の若手デザイナー・吳季剛(Jason Wu)について。21日の蘋果日報吳季剛設計芭比服飾展才華」によれば台湾の裕福な家庭に生まれ幼い頃にBarbie人形の着せ替へに目覚め服飾に興趣示し11歳だかで東京でアート系に勉強始め巴里に留学し1998年に16歳でBarbie人形の服飾デザインコンテストに優勝。その後、米国で衣装デザインの研鑽を積み数年前から女性のドレスデザインでは知られ今回のこの注目。ふと、この人は外省人、それも蒋介石と台湾に渡つた国民党の将軍の一人か軍閥系商人の末裔ではないかしら、と思ふ。事実がベタな内省人であれば話は「はい、それま〜で〜よ」で終はつてしまふが、勘である。作家の白先勇の父が国民党の高級軍人であり、蒋介石の曾孫・蒋友柏(父は蒋経国三男の蒋孝勇)が弟の蒋友常とデザイン会社立ち上げるやうに、どうも台湾で国民党系の外省人の末裔が文芸やアート、ファッションなど「男らしさ」は対極の謂わば「軟弱」系に進むこと。勿論、荷風先生や由紀夫さんのやうに厳格な(といふ印象こそ正確さに欠けるが)官僚の家庭から酔狂な文人やビジュアル系作家が出るなど珍しいことではないのだが、台湾の「国民党系外省人の末裔の軟弱」はテーマとして興趣深いところ。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/