富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-12-26

十二月廿六日(金)快晴。Boxing Dayの休日。朝、書室にて机に凭り何をしてゐたのか、記憶にあるのは下腹部がまた痛み、昨晩より胃痛もあり、なんだかその二つが気になりつゝ背後の書棚から何か取らうと身体を捻つたところで鼻がむず/\してハクションッ!と嚏みした、らHexenschussである。ぎつくり腰。いつかアタシもこれに襲はれる、とは思つてゐたが、幼い頃にこれに悩む母を見て、身近でぎつくり腰に泣く人を見て、いつたいどんな痛みなのか、すら想像するばかりだつたが、まさか疲労のうへに下腹部がちくちく痛む、なんて時の年末にぎつくり腰とは情けない。昼過ぎまで寝床に過ごし、どうしても済ませなければならぬ仕事一つあり出掛けたが立つてゐるのは楽だが椅子に坐ると腰の負担大きく自動車の座席に坐るのがなんと辛いことか。路線バスで立つてゐたはうがマシ。帰宅して臥床。安静に養生するしかないか。晩に居間のソファに臥してNHK大河ドラマ篤姫」の総集編第1話眺める。夕食で酒棚から取り出した焼酎が薩摩無双の篤姫に乗じた品柄の芋焼酎(誰から貰つたか……)なのは偶然。寝てゐるしかないから新聞や雑誌などかなり読む。
▼香港政府のエリート官僚ながら局長の問責制導入でさすがに資質問はれ教育統籌局のトップをアーサー王(李國章)に譲り同局常任秘書長に落ち着いたが度重なる暴言など続き、行政長官文革曽によりコトもあらうに廉政公署の署長に抜擢されたが香港教育学院への政治的人事介入の廉で辞職、で万事休すか、と思へば全人代の香港代表に食指延ばし権力への怨念の強さマジマジと見せる羅范椒芬女史が今度は東華三院のトップに就任の由。東華三院といへば香港で最も歴史のある慈善機構で社会的影響力は大なり。
▼久が原のT君が飯島愛嬢の訃報伝へる蘋果日報の記事を見て「陳屍香閨」といふ漢語の力に驚くばかり、「香閨に陳屍たり」なのか「陳屍、閨に香る」なのか、後者ぢや鳥渡可哀想、と。閨、香閨は女性の寝室の意。
オバマ支持率81%ださうな。Paul Krugman教授ももつぱらオバマに期待は過度(今日の紐育時報Obama be good”)。細川の殿様、小泉三世を彷彿する迄もなく高支持率でロクなことはない。Obama spent only 10 years of his adult life in the split world of the cold war, double that in a post-Berlin Wall world of growing interconnectedness. MAC ― mutually assured connectivity - has replaced the MAD - mutually assured destruction - of cold-war days. - Roger Cohen といつた楽観的な状況判断でオバマ氏に期待をかけて良いものか。
ハーヴァード大学の経済学の碩学 Niall Ferguson教授の“The age of obligation”は必読。この経済混乱の中で我々に出来ることは債務帳消し、倒産放置、インフレか「容赦」しかないのだ、と。
▼中国の改革開放経済30周年で江澤民の「三個代表」の評価が興味深い(15日のSCMP紙“Redefining Soclialism”- Ting Shi)。中国科技研究院の胡星斗といふ研究者が鄧小平の「中国の特色ある社会主義」なるプラグマティックな理念は「何でもそこに放り込むことの出来る巨大なバスケット」と表す。筆者はその中国の特色ある社会主義の中で江澤民が資本家を中共に党員として取り込んだことの成果を指摘。1978年に革命階級としての労働者や農民を中心に36百万人だつた党員が昨年末は74.2百万人と倍増し内4百万人は資本家すら含む民間人。経済成長下でのこの中核層の党への取り込みこそ「現状での」社会安定に繋がつてゐるのだ、と(今後のことはサテ置いて)。MITのHuang Yasheng教授は(17日のFT紙“Unmade in China”)この30年で国家統制から資本主義化が順調に行つたか、といへば80年代こそ農村での起業を促すなど企業化が積極的だつたが90年代になると政府は私企業に対する統制を強め国家資本の誘導による投資が目立つた。企業は現代化するに充分な資本がなく、中国は国家引導の資本主義社会のまゝ。そこで未熟な政治指導下で組織的な贈賄が蔓延るなど一部の既得権者による資本主義「らしきもの」が行はれてゐるにすぎぬ。生産性の下落が将来の成長に大きな負因となることは明らか、と手厳しい。処方箋は何よりも政府管轄嫌ひ地下に潜つてゐる貯蓄を、地下銀行の合法化で引き出すこと、と。
マカオのカジノ経済の墜落(本日のIHT紙より)。マカオ最大のカジノ・The Venetianでは名物の屋内 Grand Canal を巡るゴンドラが51艘のうち2艘あれば充分なほどの閑古鳥。一人の米国人のゴンドラ漕ぎは匿名で「2日の猶予だけで国に帰る飛行機のチケット渡されて終はり」と明かす。この賭場の経営元であるラスベガスのSandsも経営が火の車。地元では500人解雇し1000人の従業員の就労時間短縮措置。マカオ特区の賭場からの税収は今年上期前年比45%増であつたが下期の落ち込みで2008年通期では昨年(US$10.4億)並。当然09年はかなり悪化。マカオの6つの賭場の株価は年で8割下落。Sandsの大株主の一人 Sheldon Adelsonの同社所有総額は95%も失ふ結果に。マカオのコタイ地区のSandsやシャングリラ、St.Regis、シャラトンといつた巨大カジノホテル建築は中断、1.1万人の建築作業員が解雇されコタイはゴーストタウン化する怖れすらあり。マカオで遊ぶ賭客の2/3は大陸から。で賭客ではVIPルームが賭客全体の7割を稼ぐ。中国政府のマカオ渡航規制でこのVIP客が激減。賭客のVIPルームは実はカジノ企業じたいの営業でなく、個人の経営契約者がカジノからVIPルーム借り受け、さらにそれに雇はれた Junket Operator がネットワークで大陸からVIPに相応しい客を集め賭場を開く、といふ仕組み。孰客に賭場ではまづ客に有利なレートで主にバカラの賭けが始まり……ここからは賭場の常だが客の負けが込むと信用貸しで……で大損こいた客の前には金貸しが現れ、と。いづれにせよ、そのマカオ潤した孰客らが来れないのだから致し方なし。

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