富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-10-21

十月廿一日(火)晴。早晩にZ嬢と銅鑼湾で待ち合はせるつもりが軽く早めの夕食済ます目当ての食肆が廃業で急きよCovaに食す。黒服の給仕長の歯が煙草のヤニで茶色に染まるを見て気分は一気に茶餐庁(笑)。三鞭酒をグラスに一杯。ハムとゴーダチーズを薄切りのオムレツにはさんだ軽食。この有閑夫人が主な客筋の高級茶餐庁、温かい料理も瞬く間に冷めるであらう強烈な冷房もミスマッチなジャニス=ジョプリンのBGMもいたゞけず。中環。市大会堂。日曜日に第2回のHK Int'l Piano Competition終はり今晩はClosing Ceremony Gala Performanceなり。このために組んだThe City CHamber Orchestra of HKなる楽団を指揮するのはウラジミール=アシュケナージ先生。プロコフィエフのピアノ協奏曲4番(左手のため)の演奏はゲリー=グラフマン師、続いてパスカル=ロジェさんがラヴェルのピアノ協奏曲ト長調、で休憩はさんでクリスティーナ=オルティス女史がラフマニノフのピアノ協奏曲2番。当初の予定ではグラフマンに続きOrtizがヴェートーベンのピアノ協奏曲3番でトリがロジェのラヴェルであつたが演目変更は必然的にかなり華やいだものに。楽団は未知数だしアシュケナージの指揮も個人的にはそれほどの期待はないがグラフマン、ロジェ、オルティスのピアニストの演奏を一晩で、しかも本人が得意中の得意とする楽曲なのだから必然的に期待も高まるもの。グラフマン師の演奏はこの曲は聴くのは二度目。八旬でこの音色。ドビッシーやラヴェル弾きとして評価高いロジェさんだが、この楽曲で殊に第2楽章は出色の出来栄え。音を織り込むやうなこんなアダージョ=アッサイはアタシには初めて。もしこのロジェさんのラヴェル小澤征爾の指揮でサイトウキネンなんて、想像しただけで失禁しさう。なんてこつた!と感動醒めぬままオルティスさんのラフマニノフの2番。誰が弾いても第1楽章の導入はゾク/\とするこの曲だが彼女はまるで馬を調教し慣らすやうにピアノを撫で、叩き、楽団の旋律になれば音に聴き入り自らの躍動を顕に、自づと曲は盛り上がり続ける。エネルギッシュな、で且つ繊細な演奏は万雷の拍手にご本人も高揚するほどの出来だつたやうで目頭を押さへられてゐたほど。本当に素晴らしい演奏を聴けてしまつた。奏者も凄いが何よりも、このピアノコンペを2度にわたり主宰したAndrew Freris氏のお見事。BNP Paribasの投資部門の要職にあり折からの金融恐慌ではかなり深刻だらうが当然、一切それを噯にも出さず連日のステージ上では饒舌なる一言続けた由(Z嬢談)。
▼中信泰信(CITIC)の株価暴落。一夜で半値。HK$155億の巨額損失はCITICによる豪州での鉄鉱会社買収に絡む豪州ドルのデリバティブ投資で昨今の豪ドルの急落での為替損に拠るものの由。一大企業、それも中国政府の信託企業である中信集団傘下と思ふとリスク大きなヘッジファンドへの巨額投資は無謀。この会社で投資請け負ふ二人の重役即刻解雇されたが実は同社最上層部も知らぬ資金運用部の独断での取引で、更に解雇された二人は実はスケープゴートでこの無謀な投資の主犯は中信泰信の栄智健(Larry Yung、かつての名駒オリエンタルエクスプレスの馬主と言つたはうがこの日剰読まれる方には分かり易いかしらw)の娘で同社財務部の管理層にゐる栄明方の由。巨額損失が栄智健ら最高層部に知らされたのが九月上旬。で北京の中信集団よりUS$15億の緊急資金調達を受けたりしたやうだが今回の金融恐慌で「もはや手の打ちようなし」で事実公表、株価暴落に至る。ところでこのニュースを伝へる共同通信電「中信泰富は香港株式市場に上場し、中国政府の支援を受けた有力企業とされる」つて、この「される」は何だ? 中信泰富が中国政府の支援受けてゐることなど当然の事実。それを「される」としたのは若い記者が知らないだけ?(笑) 記者の無知は百歩譲つて最近の新聞、通信社は熟練デスクの不在こそ問題では? ちなみに中信集団について復習せば、20世紀前半に栄徳生といふ広く紡績や製粉など扱ふ商人あり、後を継いだ息子の栄毅仁は50年代に自有の企業体を国家に献上し国営化に協力。所謂「赤い資本家」の筆頭格で上海市の副市長。文革時代は辛酸を嘗めたが1979年に国務院直属で創設された中国国際信託投資公司(中信集団)の経営を鄧小平より託される。毅仁は1998年に国家副主席となり2005年に逝去。その息子が智健で文革では四川省に「下放」され、その後は中国電力部に勤務(これが後の李鵬の発電閥に繋がるが)。1978年に香港に移り住み80年代後半に中信が香港で開設の子会社「中信香港」に参画。数年でこゝの董事となり、その後は同系列別会社の中信泰富のオーナーとして現在に至る。中信集団が国務院直属の政府系企業なのに対して中信泰富が栄家の私企業的色彩が強いのは事実だが中信を冠とするやうに中信集団の資本が投入された会社で智健自身が中信集団の常務董事。この経緯を見れば「中国政府の支援を受けた有力企業とされる」なんて表現が曖昧なのは当然だし、文法的には「中国政府の支援を受けてゐるとされる有力企業」のはうがまだ正確だらう。どうであれ中信泰富、これほどのデリバティブ投資が一握りの幹部の匙加減一つで行はれたことでコンプライアンス上かなりの信用失墜。中信集団本部は今回の中信泰富の巨額損失補填のためUS$15億の資金提供を既に決定ださうで(03年にはSARS疫禍の不況でも資金補填あり)栄智健は本日、北京に上奏で善後策請ふ由。これは小さく見れば一企業の無謀な投資の失敗だが、巨きく見れば国務院直属の政府系企業の関連会社では資金も何割かは知らぬが国庫よりの拠出、それを「赤い資本家」の孫娘が投資しての損失では、まさに政府中央の企業経営、投資へのコンプライアンスに問題あり、だらう。
▼上海で七月に警察署に押し入り警官六名を銃殺の若者に上海高級人民法院(最終審)が一審と再審判決を引き継ぎ死刑判決。……と言へば凶悪殺人犯に極刑、で済みさうな話だが中国ではこの若者に共感集り英雄視する見方もあり。コトの発端は昨年秋にこの若者が無登録の自転車で上海市内を走行中に警官に呼び止められ署に連行され身元調査など受けたこと。警察の尋問態度など不満に思つた若者は公道に訴へ賠償求めたが聞き入られず鬱憤晴らさうと、の結果がこの殺戮。党政府末端の官僚機構の横暴、汚職や公安当局への不満など鬱積した市民にとつて、のこの若者の行為がどう映るか、である。
マカオのカジノ減収=中国のマカオ渡航者数の引き締め。中国で唯一の合法的な賭場だが賭博のネガティブな社会影響もあるが何より収賄の公僕によるマネーlaunderにマカオのカジノが使はれることへの警戒(Reuters電)。確かに豪奢な生活や不動産投資では世間に「賄賂を受け取りました」と言ふやうなもの、で投資先も香港はすでに政府中央に筒抜けが怖く、スイスの銀行に預けるほどの巨額資金にもあらず。で持ち出せぬカネであるから博打に賭ける。賭けて儲かれば手持ち資金増え、擦つたところで懐は痛まず。そのニーズに米国のラスベガス賭場資本が便乗した形だが、いづれにせよ中国の公金が米国に流れるのはバカな話。

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