富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月十六日(木)未明に目覚めると月の光が窓から居間の床を照らすのが美しい。朝早いうちに電網でさつさと来春のHK Arts Festivalのチケット予約。今日から先行予約開始。目玉はベルナルト=ハイティンク指揮のシカゴ交響楽団モーツァルトの41番とリヒャルト=シュトラウスの「英雄の生涯」が初日で翌晩はマーラーの6番。ハイティンクももう齢八旬。アタシらの世代にはコンセルトヘボウ管弦楽団ハイティンクといふ印象強いがもう20年も前のこと。歌劇はラトヴィア国立歌劇場でヘンデルの「アルチーナ」。ハイティンクとシカゴの後者、京劇などいくつか切符押へる。本日も多忙続くが少し先が見えてきた感あり。落ち着かうと先のちよつと個人的に楽しみな動き画策。
▼史上最悪のニュース番組としての今晩のNHKのNW9。相変はらず、なぜ不安を煽るのか。東証株価のまた大幅な下落。「下落はいつたいどこまで続くのかッ!」って、火曜日の急上昇が先週の下落からの反発でご祝儀的なもの。「止まらない下落」って、冷静に考へれば先週の底値からの下落幅で考へればけして大きくないし「長期的混乱が続く」といふ見方が世界で当然なわけで、だとすれば「まだ下がる」のはもはや想定内ぢやなからうか。
今日の朝日新聞の天声人語はお粗末。
上方落語人間国宝桂米朝さんが、デパートの食堂に通い詰める昔の芸人衆を『米朝よもやま噺(ばなし)』で描いている。注文はといえば、お子様ランチ二つと酒5本。この取り合わせ、なにやら据わりが悪く、並べて聞かされると説明が欲しくなる。「いろんなおかずがちょっとずつあるんで、飲みながら食べるのにまことに都合がいい。仕上げのチキンライスまであるしね」と師匠の種明かしが続き、合点がいく仕掛けだ。どう説明されても、落ち着かない取り合わせに出くわした。はなむけと死、である。海上自衛隊の特殊部隊で、日頃の訓練がきつくて隊を離れる男性(25)が、15人を次々と相手にする「格闘訓練」で亡くなった。海自側は「はなむけのつもりだった」と遺族に語ったそうだ……
と、確かに何れの話も「落ち着かない取り合はせ」だが「お子様ランチと日本酒」と「餞けと死」を並べて語れる、センスはとても尋常とは思へぬ。で
日本海での不審船事件を教訓とした精鋭部隊である。無法国家まで相手にするからには、一対一を含め、厳しい鍛錬は当然であろう。その上で問いたい。味方を死なせてどうする。はなむけの語源は、旅立つ者の安全を願い、馬の鼻を目的地に向ける所作とされる。国防を担わんとする若者を仲間が冥土に送っては、この言葉が許してくれまい。自殺の多さといい、組織が病んでいるのなら危うい。軍と閉鎖体質。こちらは古今東西、なじみの取り合わせだ。
とまとめてみせるがベタすぎ。軍の、殊に戦場や特殊部隊の精神の異常さ、なんてジョセフ=コンラッドの『闇の奥』とか文芸作品でもいくらでも描かれ、寧ろ「フレンドリーでオープンな軍」なんて想像しただけで米朝師匠ぢやないが落語だ。この特殊な集団からの除隊を願ふ一人の青年に15人が順番に、外部からは暴力と見られる鉄拳をお見舞し殴り倒す世界。これが60年代なら三島由紀夫なり大島渚により「暴力とエロス」で語られた。それが米朝の四方山話と一緒に語られることの方がアタシには精神的にずつと怖い。まぁ見方によつては部外者には滑稽といふ点では同じだらうが。

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