富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-08-31

農暦八月朔日。香港天文台の天気予報は昨日も今日も雨。昨日は快晴で今朝も薄曇り。天文台は「晴れ」と云っちまって日に香港の何処かで俄か雨の一つあることも「外れた」と云はれること怖れ鳥渡でも驟雨の気配あらば「雨」の予報。昨日、裏山を走り先週購ひしトレイルランシューズの穿き心地の良さ更に確かめるべく今日も裏山より大潭へ。シューズがもはや足の一部の如し。この業界の二年とかの進化の凄さ。大潭のダム湖の静寂。湖水に泳ぐ亀の水掻く音すら聞こえさう。今年は秋の訪れ早い、と言ひ切るは性急すぎるが気温摂氏卅度ながら風は心地よく走つてゐても喉が渇かぬのが何より、で15km近く走る。午後、なんだか読み進まずの大江『万延元年』を木陰にて読了。途中鳥渡読み進まぬのは、例へば主人公「蜜」が大江健三郎本人に映り、また大江の男根に対するホモフォビア(例へば『セブンティーン』などでも見られる)も鳥渡、食傷気味ゆゑ。後半やつぱり「これか」の展開もうんざり、であつたがずいぶん昔に途中で降参の時に比べ今になつて著者の含蓄の言はんとする処も少し納得したり。だがやはりこの小説の主人公「蜜」が大江本人ならば弟の「鷹」は敢へて云へば石原慎太郎的な、大江の最も対局にある苦手で且つ大江みづからにはない魅力への憧憬に映り、だが余がなぜこの「蜜」にも「鷹」にも共鳴できぬか、小説が面白いと感じられぬか、と云へば、この小説では「名前すら出てこない」、鷹に率ゐられる蜂起に加はる谷の無数の若者らが(芝居で云へば大部屋の名もなき役者たち)が如何に魅力に溢れるか、を中上健次が物語の主人公に据ゑて描いてしまったから、なのだらう、きっと。帰宅して日暮れまで飲む。モヒートは本来、ラムをミント葉とライムジュース砕きシロップ加へソーダで割る飲み物だがヘミングウェイダイキリシュガーレスだったやうに甘さ厭ひ先づはシロップを抜き、今日はソーダもやらず単にミント葉とライム果汁を加へたラムのロックでやったがこれはこれで美味。夕餉はチーズソースのパスタ。葡萄酒はオイスターベイのシャルドネ07年。三代目三木助の「芝浜」をiTuneで聴く。多少「つっかえ」が目立ち晩年の録音かしら。流暢な江戸の言葉は優しく聞こえるし三代目のあの老いての風貌も(故・下條正巳が三代目に鳥渡似てゐる、とアタシは思ふのだが)品の佳さ、だが「芝浜」の筋は本当はもっと短気で粗ッぽくても良いはずで(あの志ん朝ですらもつと意気盛んに演じてゐる)それが「芝浜の三木助」と言はれるほど三木助の「芝浜」が名演なのは、じつは三木助は若い頃は上方に流れたり荒んだ時期もあり、賭場でもかなりならし=地獄も垣間見ただらう、それほどの人だから逆に「芝浜」を上品に演じても奥底に余力があるから。他の噺家がこれをこんな静かに演じたら、とても聴くに耐へない。枕上荷風散人日剰大正九年読む。
▼雨は降らず、と綴つたが中国の五輪金メダリストらのうち香港鼠楽園参観組は雨に降られた様子。それに比べれば、天気にも恵まれ移動至便でマカオに向ふ前の高級ブランド品掃貨(買ひまくり)も楽である海洋公園参観組のはうが選手団の中では羨ましがられた鴨。だがアシカのショーに飛び込み選手は洒落にならず。で、このドサ回り、連日の強行日程で深更まで親中系の偉いさん接待、超高級店営業時間特別延長でのお買ひ物など疲労困憊で今日は眩暈で卒倒し記念撮影で座り込む選手すらあり。タクシー運転手セクハラ醜聞以来すつかり隠遁の白花油王子・顔福偉さんはご贔屓の男子飛び込みの「お気に」選手二名を自家用車(レクサス)みづから運転しペニンスラホテルでのLVお買ひ物にご案内の由。福偉さんのマスコミの揶揄承知でのタニマチぶりも凄いが案内される選手(秦 凱)もまるで「あんた、メケメケで評判の丸山明宏?」の風貌なり。マカオでは賭場「見学」もあり、かしら。
アフガニスタンで死亡したNGOペシャワール会」の伊藤和也さんの撮つた写真(朝日新聞)。本当の意味で現場写真とはかういふものなのだらう。ご本人が亡くなつて写真が余計に評価されるのもなんだが次の木村伊兵衛賞を追贈したら如何だらう。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/

決定盤 三代目 桂三木助 落語集

決定盤 三代目 桂三木助 落語集