富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月廿三日(水)酷暑。Amexより「T/Cの再発行をいたします」と電話あり。昨年暮に荷風散人の如く手提げ鞄なくす失態あり貴重品のうちにUS$100の旅行者用小切手2枚あり。紛失でも安全なのがT/Cの良さだが肝心な事なのに番号を控へてをらぬ。最近は世界中何処でもPlusだのCirrusで現地通貨で自分の銀行口座から現金引き出せるのでT/Cなど(取引のある某銀行では発行手数料無料なのに)用意もせぬが(緊急事態ならAmexに飛び込めば手数料や自分の小切手の振り出しでEmergency Cashの調達も可)何年か前に旅行の際に確かUS$100のT/Cを20枚だか作つた記憶あり。確かなのは取引先の銀行でT/Cを購入したらT/CがAmexだつたわけで銀行に無理を言ひ中途半端な額の現金の引出しを調べてもらひ、更に特定できたその日に、その銀行で売つたT/Cの中から私の購入分を判明して貰ふ。出てきた番号の20枚のT/Cのうち最後の2枚であることは確実。その番号で10日ほど前に紛失届を米国のAmexに送つたら、の今日の応答。「香港のAmexは、えーと……」と言ふ先方に尋ねるとシドニーからの電話。香港の支店でいつでも再発行できますので、と。銀行といひAmexといひ簡便至極。唯一の失策は連絡先の番号でZ嬢が電話に出てしまひ、数年前の旅行で使ひ切つたことになつてゐた、このUS$200の存在が発覚(笑)。早速、尖沙咀のAmexに行き再発行するとAmexのカードで支払へばT/Cの発行手数料は無料ださうで序でに購入。銀行でもAmexでも発行手数料無料特典はありがたいがマイレージが貯まるぶん後者のはうがお得。晩に鰻の蒲焼き。ためしてガッテンのレシピでスーパーの鰻を焼くと確かに関西風でホクホク。昨日、郷里より届いた小包から井上直幸の1999年のCDでバッハ、ベルグ、武満を聴く。井上直幸さんのバッハのパルティータ(6番ホ短調)聴く。主題のフレーズが途中で一瞬止まつてしまひさうに思へるのは井上直幸「ピアノ奏法」のDVDを観たヒトにはわかるところ。ピアノといへば今日の朝日(衛星版)で吉田秀和さんが音楽展望で「ブレンデルの引退」について記述あり。数年ぶりに維納探訪の秀和さん、学友協会に近いホテルでピアニストのブレンデルとほんの僅かの差で遭遇を逸す。今年、引退公演で各地を巡業中の由。だが秀和さんが聴いたのは絢爛なポリーニ。「ブレンデルは、私はこのところ敬遠してきた。何だか退屈で、しかし世の中には色々な種類の退屈があり、二度と会へないやうなものもあるのだ」と秀和翁。寝際に田中長徳さんの『トウキョウ今昔』を眺める。まだ二十歳そこそこのチヨートク先生(その当時のまるで15歳の少年に見えるやうな童顔!)が撮つた1960年代後半の東京を40年後に同じレンズでEpsonR-D1sで撮つて風景を見比べながら偽ライカ同盟の友たちとの雑談集。失礼ながらベタな写真で、肩の凝らない本であるから1600円で済ませるところがチヨートク先生と岩波書店。一つハタと膝を打つたのはチヨートク先生曰く、餃子(ギョーザ)といふ言葉は昭和30年代になつてから普及したもので、戦後、吉田健一も何かの本で餃子といふ言葉を使はず、その形態で説明してゐる、と。さう/\、健一さんが『三文紳士』だつたかで確か銀座の維新號で食べた「それ」を書いてゐるのだが、いつたい何なのだらう、とあたしも想像するばつかりで、まさか餃子だつたとは。いづれにせよさういふ合点を聞かせてくれるのがチヨートクさんの文士たるところ(写真家なのだが)。
▼先週末のFT紙のアート欄で“Power Games”といふ近代オリ厶ピックの競技場建築の政治性に関する興味深い記事あり(Edwin Heathcote記者)。日本ならさしづめ松葉一清氏あたりが書きさうなところ。多少長い引用になるが
The meaning of Beijing’s efforts are as clear as were those of London a century ago: city as symbol of superpower status. What London’s architecture will tell us is less clear. If, ultimately, 2012 reveals a city that has moved beyond the childish urge to impress with architectural grandeur and instead its legacy is a site on which the Olympics becomes just another memory subtly expressed in a revivified landscape, that will be an impressively mature result. Beijing’s Bird’s Nest, perhaps, signals an operatic finale. London could hope that, rather than the tacky, throwaway, fast-food games the proposals might indicate, it creates the template for a new type of intelligent Olympic architecture. There is still time.
と、建物の奇抜さで見せるオリムピックは「北京が最後になるであらう」とし、否、寧ろさうあるべきで2012年の倫敦に21世紀らしい再考を促すもの。かりに東京がその次のオリムピックとなる場合(それへの賛否は別として)1964年の国立競技場を再利用でもできれば称賛しよう(間違つてもベイエリア開発などこれ以上進めないでほしいが)。
▼「相次ぐ理不尽な通り魔事件」「なぜこんな事件が続くのか」とニュース番組やバラエティ番組は始まりノンフィクション作家や心理学者がコメントして「不安でせうがない」「こんな犯罪をおこす人は絶対に許せません」と市民の声。被害者の小学校や中学校の卒業アルバムから将来の夢。殺害現場に花を手向け合流する親友ら。犯人の父や母のコメント……と続き「この相次ぐ無差別殺人を社会全体の問題として真剣に取り組むべきですよねつ!」とキャスターのコメント。……こんな報道?が続くことぢたひ、それを見て潜在的な犯行予備軍を助長しないかしら。少なくても犯罪に対してこんな報道?が昼夜を問はず続くのは日本だけ。「まつたく怖いわねぇ」と茶の間でテレビでかふした事件報道を眺め茶を飲みながら、お上や警察がしつかりしてゐない、と詰るばかり。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/

トウキョウ今昔1966・2006

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