富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-07-03

農歴六月初一。信報の発刊35周年。この新聞が香港にあることで日々どれだけ気持ちが落ち着くことかしら。余にとつて「なくてはならぬ」滋養源。香港紙といふと何だか左右なんだか怪しい媒体の代名詞のやうだつたが信報は日本にも存在せぬ知識層相手の高級紙。ところで、この記念紙で陳雲氏が書かれてゐるのは「漢字」について。「正體直排、行文素潔、是舊日香港正道報紙的最低要求」であり「正道報紙要直排、接通漢朝制定楷書以来的文脈、這是文化國格、連日本人都廑得的」と。元来の漢字は今では「繁体字」と呼ばれるが、実はこれは中共が簡体を用ゐた際に、それに対して「繁体字」と呼んだもので、ただしくは正字。今どき「正字」なんて言ふのはアタシのまわりでは久が原のT君くらい。だが本来は活字は正字を用ゐて書き文字の簡便性で簡略字が用ゐられるべき。で遂に「信報、おまへもかつ……」で信報に電子版が登場。年間HK$389で全記事の閲読可とは便利至極。
▼最初にこの記者の名前を見たのは「スリの始末記」だつた。新聞の社会面になら失礼ながら「ありがち」な社会観察の連載だ。だが一読して惹きつけられた。老いて廃業寸前のスリ、あるいはスリをもう止めようと決意してもまた「やつちまふ」スリを、温かい視線で見つめるこの記者。朝日新聞には疋田桂一郎や深代惇郎といつた歴代の名文家は揃ふ。この、社会面で初めて連載記事を担当したのだらう若い記者には、すでにこの記者自身の文体があつた。記者の名前は市川速水。その市川記者が特派員で香港に駐在し、お会ひする機会もあつた。その後、ソウル支局長など経て、現在は外交・国際エディターとして健筆を振るふ。今日の朝日にロシアの新大統領が西側主要メディアと会見の記事。市川さんのコラム(「憲法の保障人」掲げ)は、独特の市川文体の語り口で、この新大統領の個性、プーチン前大統領との関係やロシアの現状などを、平易に、で的確に伝へる。読んでゐて、思はずトトントン、と乗せらてしまふ、どこか志の輔師匠の落語にも似た世界だ。……と市川速水風に紹介するとこんな感じかしら。
▼東京の国分寺市共産党市議が市内のマンションの「オートロックドアの外に設置されてゐる」集合ポストに同党市議団の市議会報告を投函したところ住居侵入容疑で逮捕される。被害届出すマンションの管理組合も管理組合だが被害届受けた警察が書類送検。立川の自衛隊官舎での反戦ビラ配布(最高裁で有罪)以上の最悪。ファッショ国家といふのは本来、政府権力がファシズムを指向し国民にそれを強要するものなのだが、今の日本を見てゐると「前近代的な」といふと江戸時代が未開みたいなので失礼な話で、「近代市民化されてゐない方々」が社会不安に徒に脅え自らファッショ化する、といふ怖さ。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/