富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-05-18

五月十八日(日)朝十時のジェットフィイルでZ嬢と一路、マカオ澳門芸術節で今晩、浙江省の婺劇の芝居が永樂戯院であり、その参観。バスでのんびりとコロアネ島の路環に向ひRestaurante Espaco Lisboaに昼食。ゆつくりと、のつもりが十人ほどの客の予約の大卓ありイヤな予感、は的中で韓国からの写真撮影愛好家のご一行。写真撮影はいゝんだけど「料理の撮影」が此処のテーマらしく、予め注文で運ばれてくる料理を撮る、撮る、撮る。他の客の迷惑なんて論外での撮影。Z嬢が「樓下に移らない?」と呆れるが「文化人類学者としてこんなフィールドワークの機会はない」と愚行眺めること暫し。フィリピン人の給仕らがタガログ語(あるいはフィリピンの何れかの土語)で「せつかくの料理を食べもしないで冷めちやつて残して……まつたく勿体ない」とか話してゐるのをZ嬢が耳にして「さうよね」と合点して客と給仕とで含み笑ひ。この撮影隊、ほぼ全員がキャノンのEOS 5Dなるカメラ所有で「キャノンの回し者」かしら(それが余計に気にゐらない……笑)。撮影にレフ板持参してゐないのが不幸中の幸ひ、で撮影に熱中して他の卓の客の料理まで望遠で撮影のやりたい放題。フラッシュびしばしつはZ嬢が独り言のやうに苦言したのが通じたらしく閃光だけは途中で止めたが。冷めた料理を食ひ散らかし大方の料理残し撮影隊撤収。ただただ呆れるばかり。アタシらはシェリー酒、白のグラスワインで浅蜊のバター炒めと蛸サラダ。赤はQuinta do Crastoの05年で葡萄牙風牛肉ステーキの煮物……それだけをシェアといひつつ主菜の牛肉だけで14ozくらひ。ゆつくりと葡萄酒の杯を傾けつつデザートまで2時間半。まつたもつて暇。午後遅くバス乗り継ぎMuseu de Aerte de Macau澳門芸術博物館)。巴里のルーヴル美術館より希臘の大理石彫刻、殊に裸体像の数々の展示。ルーヴルの大規模な内装工事で収蔵品が世界に貸し出されてゐる由。夕方、荷蘭園の禮記でアイスクリーム。日暮れまで散歩して公園でのんびりのつもりが乗つたバス間違へ旧市街周遊して白鳩窼公園。鳥渡寛ぎ日暮れに散歩して永樂戯院にて晩の芝居の切符受取り戯院向ひの安記麺家にて牛腩麺食す。芝居まで鳥渡、間があり劇場の周辺ふらふらしてゐたらアタシの琴線に触れるカメラ店あり。鳥渡覗くと好事家にはたまらない新古の写真機やレンズなどづらり。一眼レフとコンパクトが主でレンジファインダー機なかつたのはアタシは幸ひ。ニコンのF2用のモータードライブMD−2はほぼ新品で強気のHK$7,988也。初めて入つた永樂戯院は内装の模様替への直後かしら驚くほどきれい(ある面では期待外れ)。今晩の芝居は浙江省の婺劇で「白蛇前傳」。字幕は中文だけで葡語は各幕開きの数行程度だが土着の葡萄牙人の老若男女少なからず。アタシの一列前にはラスタヘアのアフリカ系葡人の少年がヒューヒューと指笛で舞台を喝采。それも「あり」だらう。浙江省の劇団は香港にもよく来るが婺劇は芝居好きのアタシも未看。でわざはざ澳門まで芝居見物と相成つたが浙江省婺劇團は予想以上に楽団も西洋楽器多用で舞台前方のオーケストラボックスに陣取り音楽も現代風なら舞台の若い役者たちも演出も演技も現代風。最初はちよつと慣れなかつたが「これはこれであり」の判り易さ。主人公の白素貞演じる女優も婺劇らしい高音が冴えるが契妹である小青役の楊霞雲が適役でトリックスター的な小青を上手く演ずる。この蛇の化身が恋する美男の許仙は前半は女優(汪霞蓉)、後半は男優(樓勝)が演じ分け、前半の相思相愛から婚礼、酒に酔はされ蛇の化身とバレる急展開までを女優が演じることで艶つぽく、後半の騒動は男優がコミカルの身体を張つてコミカルに、の演じ分けも見事。殊に後者(樓勝)はまだ若き役者だが器量も声も演技も三つが揃ひコミカルな味もさらりと若い頃の孝夫さんのやうで「大詰め」の「断橋」は拍手喝采。芝居が撥ねると下町の賑やかな町に放り出される、この感じ。実に幸せ。午後十時半、まだ多くの店が開いてをり芝居の後に劇場の近くで軽食だのお茶だの、と。路線バスで波止場。芝居が終はり遅くなること怖れ三更半夜のジェットフォイル予約してゐたが23:15のフェリーに乗船出来て香港に戻る。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/