富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-05-04

五月四日(日)五四運動八十九周年。五四運動の発端は日本の対華廿一箇条要求で反日反帝国主義の大衆運動だが九十年後に北京五輪チベット問題でまた大衆運動とならうとは。我が育ての祖母の誕生日。天気は雨の予報が薄日さす。昼すぎ出街。中環のダンヒル洋装店にて洋傘購入。折畳み傘も携帯には便利だが傘はやつぱりステッキ代はりで長傘は荷風先生。丸善のお気に入りがあるが「失しさう」でよつぽどのことがないと持ち歩けず。カジュアルには千住リーガル靴店の傘(靴屋だが傘)が意外と良い。失してもいい傘は何本かあるが雨も降つてをらぬのに洒落で「持つて歩かう」といふ気分にはならぬ。でお気に入りの三本目になるこの傘は、紳士物然とした丸善とカジュアルなリーガルの間で洒落には気軽でいい感じ。商店出れば肌を灼く強い日差しとなり早速、買つたばかりの雨傘を日傘代はり。パナマ帽被らうが雨傘で陽を避けようがパイプで煙草燻らせようが「老い」は老いで楽し。中環の場外で本日の競馬、皇太后杯の馬券購ひ(結果は外れ)FCCで昨日飲んでとても美味かつたRiverside by Foppianoを二杯。半醒半酔で尖沙咀。香港文化中心のStudio Theatreで観劇。南京の京劇で牡丹亭を台本に『萬暦十五年』といふ題の歴史話劇といふ新聞記事の紹介に先日切符購へば切符に「進念二十面體」の印字あり。進念二十面體は香港の実験劇団にて九十年代初葉に英国帰りの若い舞踊家の凱旋で立ち上げ公演から看た記憶あり。かなり久々。その進念廿面體と京劇?でよく解らぬまゝ幕開け。萬暦十五年は「長き年月」の意味で萬暦かと思つたら物語は明末に萬暦帝なる皇帝を据ゑ萬暦十五年(西暦1587年)舞台に宮廷のいくつかの物語の寄せ合はせ(原作は黄仁宇)。南京から招聘の役者が演ずる「牡丹亭」の場面の幾つかを挿して進念二十面體の役者が萬暦十五年の宮廷劇を話劇として演ずる。これが予想以上の出来。まづ香港の広東語の話劇の見事さ。余は個人的に広東語の音韻を好まぬが話劇にせし時の広東語の音韻の弾みと滑舌の見事さ! 而も進念二十面體の廿代の若く青かつた役者が好く歳をとり=まさに霜降り、四十代のこれがまぁ華のある良い役者に成り圧巻な滑舌で話劇の進む、進むで三時間。徹底的に洗練された舞台道具。削ぐだけ削いだ照明。電子画像などの多様も嫌みなし。予想以上に素晴らしい舞台。今年のベストだよ、これは。見事な出来ゆゑ敢へて難を指摘せば萬暦帝役の女役者(進念の内、今回唯一の女役者で帝=男役)に帝の役のニンなし(敢へて皇帝役を女の男役にしたアイデアは良いが)。舞台跳ね佐敦まで漫歩。Z嬢と待ち合はせ。渡船角に法式三文治食す打算が鳥渡忙しく佐敦は呉松街の咖喱皇に馳名の乾咖喱(ドライカレー)食す。地下鉄で葵芳(それにしても葵景、葵芳、葵興……とこの荃湾線三站の、この「美しが丘」「緑が丘」が如き無味乾燥の站名はどうにかならぬか)。葵青劇院(この劇場名とて「葵」地区と青衣島の二文字合せた、まるで国分寺と立川の間の「国立」の如き最悪の名づけ)。昨晩に続き香港シンフォニエッタと英国より招聘のPeter Donohoeはんによるラフマニノフの一番と三番の演奏会。一番はアタシはほとんど微睡。三番は期待したぶん正直、残念。昨日の二番の方が曲の解釈もしつかり。今晩の三番は流石に二晩で四曲のロングランでフルマラソンの「32km地点的な」(体感したから言へる……!)疲労感。曲の意図、意味が楽団として「解決」(消化と云つてもいいが)出来てをらず。Donohoeはんも巨漢で流石に38kmで快適に走れぬわひ。だが二晩でラフマニノフのピアノ協奏曲全四曲なのだ、それだけでも十分、称賛に値す。
福田内閣、支持率2割を下回り死に体。自民党は強かゆゑ、社会党村山富市君に首相の椅子譲れば自らが政権党では出来ぬ戦後五十年談話で戦争の反省を済ませたやうに、内閣官房長官がニンの福田二世を首相に推す前提として「真面目な福田君だ、他の先生ぢや出来ない財政改革の懸案事項も、ひとつやつてもらおうぢやないか」で福田二世だから「やるべきことはやる」でガソリンだの高齢者医療だのを「ゐぢる」。当然、国民の反発。小泉三世は痛みを伴ふ改革と宣つたが実際に国民は痛みがピンと来ず、今回の福田改革で痛みにピンと来たが反応鈍感の極み。「まぁやるだけのことはやつてくれて、あとは麻生君ぢや困る日中関係が済む胡錦涛来日、洞爺湖サミットまで続投してくれればいいか」が自民党。まるで鵺の如し。
▼Z嬢曰く、昨晩聴きしラフマニノフのピアノ協奏曲1番が映画『砂の器』で加藤剛演じる和賀英良の作曲、指揮する『宿命』にそつくり、と。云はれても『砂の器』は何度か看たが『宿命』のフレーズまでは記憶になし。だが2番を「ゴジラゴジラゴジラメカゴジラ」と歌はれたりZ嬢の楽曲のアナリーゼには多少納得する処あり。

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