富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-04-29

四月廿九日(火)尖沙咀に渡らうと中環からスターフェリー。米国海軍のキティホーク号来港にて海軍兵が目立つ。キティホーク号は建造から41年でもうすぐ退役。41年と聞きアジアの平和のため「戦後ずつと」と思つたが数へてみれば60年代後半のベトナム戦争から、の「つい最近」の話。アタシもすつかり年をとつた。Harbour Cityにて写真家・本城直季氏の“small planet”の写真展。本日開幕セレモニーあり招きあり。この人は大判カメラで所謂「アオリ」を利用することで鳥瞰からの現実の光景がまるでジオラマ模型の如く映る写真で一昨年の木村伊兵衛賞を受賞。香港でもその撮影行はれ今回展示あり。朝日カメラで初めて見た時はそのジオラマ的な世界に驚いたが今日それを「全倍」に近い大きなサイズで至近距離から眺めると「アオリ」が目立たず普通の写真に見えることに気づく。早晩に久々にFCCのバー。数日分の新聞読む。夕飯にサラダ頼んだがサラダでもポーション大のため半分残してお持ち帰り。尖沙咀。少し時間ありペニンスラホテルのバーに寄る。ホテルのアーケードのシャネル商店で白薔薇モチーフにした面白い首輪あり値段だけでも知りたいもの、と店内に入らうとせば入り口の守衛がドアを遮二無二押へてアタシの入店を拒む。どうやら閉店時間の由。店内に客がまだ居るから施錠せぬのはわかるが「閉店」と掲げるなり、シャネルほどの店ならドアを恭しく開けて客に「申し訳ございません。本日はすでに閉店でございまして」と慇懃に言へばよからうに、それを守衛に諭す。ペニのバーは旧正月以来久々。なぜ覚えてゐるか、といへば旧知のバーテンダーP君に「今日はだいぶ静かだね」と言ふと「旧正月の中日ですからね」と答へられた記憶あり。でも今晩も閑か。理想的だが。ドライマティーニ二杯。有名ホテルには奇妙は常連客はつきものだが、先日も今晩も見かけたのが「酒を取りに来る客」。カジュアルな格好の中年の白人客、バーに現れジントニックなど注文し出来上がるとグラスを受取りバーを出てゆく。宿泊客ならルームサービスもあるのに。バーテンダーも手慣れたもので伝票にサインも求めず記録するのみ。かなりの常連。居住者かしら。それにしても酒代だけでも馬鹿になるまい。香港文化中心。Z嬢と五月恒例の“Le France May”仏蘭西の国立ロワール管弦楽団の演奏会。客は六分の入りの悪さは中国全土席巻の反仏感の煽りか(笑)。Alain Lombardの指揮。ビゼーの「アルルの女」序曲。いきなり「オーケストラがやつて来た」の公開録画のようだがロンバールの指揮するこのロワール管弦楽団が「オケとしてのチューニングが合つてゐる」第一印象。ロンバール氏の椅子に坐つたままの指揮者として最小限の動きは怠慢でなく「これだけでオケが響く」凄さ(歌劇の演奏指揮が長いこともこの指揮法に関係あらうが)。ロワールの楽団は「どこか突出して凄い」わけぢやないがフランスのオケらしひ「滑らか」さ。ビゼーに続き陳怡なる中国の作曲家の「多耶」なる小曲。ショスタコーヴィッチ以降の現代音楽が武満すら理解できない私。続いてドビュッシーの「海」。いつ聴いても、これが北斎の冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」ぢやないのは確かにしても、この曲のどこか「海」なのか、波の折り合ひといへばさう聴こえるが、いかにもフランスの印象派つぽい作品といふ以外、アタシの乏しい想像力では無理。中入後、宋思衡といふピアニストでラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。演奏前にZ嬢に第三楽章つて……と尋ねるとZ嬢曰く「ほら、ゴジラゴジラゴジラメカゴジラ、つてフレーズの曲」と歌詞つけて歌つてくれる。ありがたいといふか、何といふか。ワーグナーの「大地の歌」が李白の世界なら、まるで中華拉麺の絵柄のやうな印象の第1楽章、第2楽章はもしこの私のほか誰もゐないペニンスラホテルのバーでこの楽章の最初のピアノソロの部分流れてゐたら……どうしよう。おカネを出して借り切つてツィメルマンを招いて演奏してもらへたら。で、そしてほんとに「ゴジラゴジラゴジラメカゴジラ」が耳に馴染んでしまつて笑ひ堪へるのが辛い第3楽章。……が全般を通じ今晩のピアノ奏者の宋思衡はこのオケに応へてをらず。踊りきれてゐない、といふか。で最後はストラヴィンスキの「火の鳥組曲版。曲を聴いててふと思ひ出したが「火の鳥」を最初に聴いたのは冨田勲シンセサイザーなのだ。ついでに言へば「ダフニスとクロエ」も。ずつと坐つて指揮してゐたロンバール氏がだんだん高揚し指揮も大袈裟になり顔も高揚し……最後にタキシードの糸を一本引き抜くと深紅のタキシードに大変身か、と思つたのは火の鳥といふとアタシは2年前だかにベジャールのバレエ團の香港公演で那須野圭右なる踊り手の火の鳥を見たのが最後。溌剌とした踊りであつた。予想以上に素敵なロンバール指揮のロワールの楽団。でもS席800ドルは香港では高い。私らも不確定要素多すぎ安い周辺席にしたがロンバールの指揮を斜めから眺められたのは儲けもの。ちなみにアンコール曲はカルメンと「アルルの女」序曲のアンコール仕立て、に曲目不明のブラームス?(とZ嬢)、アタシはメンデルスゾーンか、と思ふ弦のソナタを静かに1曲。
▼日本でガソリン値上げで160円。香港はHK$16.4(214円)と比べれば、まだ安からう。米国だの豪州の田舎ならまだしも、あんな狭い島国での自動車社会ぶり、あらためて考へ直しては如何。
▼中国山東省の鉄道事故は結局、人災。高速列車に対する時速制限措置を地元鉄道管理当局が徹底してをらず。省の鉄道局の幹部更迭は当然として同局党委書記も更迭といふのがお国柄か。
▼新銀行石原に1,400億円の公金投入。都知事選での石原氏への投票が300万票なら石原慎太郎に投票した都民1人あたり46,670円。
▼信報の今日の連載で劉健威兄が料理店情報誌Zagat香港版の近々の出版について書いてをられるが、その中で米国のTimes誌が香港の或る老舗洋食屋をbest of Asiaと評してゐるのを嗤つたが、健威兄はその食肆の名前こそ明らかにしてをらぬが隣のコラムで唯靈兄が自らを肉食獣と称し好物のSteak and Kidney Puddingを讃めてゐたのがjimmy's Kitchenで何たる偶然。唯靈氏はJKが大のお気に入りだが劉健威兄は「今更あの肆が何なのか……」といふところ。アタシ的には本来であれば小川軒、たいめい軒レベルで残れる肆だが中環の肆のサービスの横柄さに呆れ「まだマシ」であつた尖沙咀店も緊張感に欠けるきらひあり、と思へてならず。偶然で並んだ、といへば商務印書館の中環の店をちよいと覗いたら平積みの書籍で黎智英氏の人生論語る本と李小鵬のビジネス成功本が並んでゐて大いに嗤ふ。偶然なのか意図的なのか……。黎智英といへば反中国独裁、反権力の蘋果日報社主だが、天安門事件で時の首相・李鵬を「バカ」と罵つたのがつとに有名。その電力皇帝・李鵬の娘が李小鵬なのだから。

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