富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月卅日(水)写真雑誌の頁ぱらぱらと捲る。田中長徳さんが凄いのは(朝日カメラ5月号)ライカM2で巴里とリスボンの「ベタな」都市風景の写真が何枚かあり「こんな写真ならアタシだつて」と思つたりさせておいて次の頁を捲ると「なんでつ?」と驚くリスボンの坂の街並み。見開きにどかーんと「なぜ50mmでこれが撮れるの」と。それが凄い。それにしても写真専門雑誌が朝日カメラにせよ日本カメラにせよ「デジタルでのプリント技術」の特集が結局はレタッチだの色の補正だつたりするのが悲しい時代。そのなかで前者に今どきマニュアル露出特集があつたのは立派。だがふと考へればマニュアル露出といふ数十年前なら当然のことが特集になることじたい隔世の感あり。
▼昨晩のロンバール指揮のロワール管弦楽団でピアノを弾いた宋思衡は数ヶ月前の香港フィルの「のだめカンタービレ」コンサートでラフマニノフを弾いた人、とZ嬢が思ひ出す。去年のこのFrench Mayはリール国立管弦楽団(指揮はJean-Claude Casadesus氏)。ベルリオーズの「夏の夜」、ラヴェルのTzigane(ツィガーヌ)や円舞曲(La Valse)であつたが、やはりS席800ドルと強気で4割程度の入り。香港で知名度低いが「いかにもフランス」の楽団来港は大歓迎だがエッシェンバッハ指揮のパリ管弦楽団でもないかぎり、この値段ぢや香港では客集めは無理。小屋を満員御礼にすることが胴元の最も大切なことだと思ふのだが……フランス総領事館はせつかくの恒例なるFrench Mayなのだから熟慮すべき。
▼昨日読んでゐた信報で、名前失念の書き手曰く、中国は義和団にせよ五四運動にせよ海外列強が中国に圧力かけ中国の国力が脆弱で対抗し得ぬ時に民衆が、殊に若者が排外主義掲げ蜂起する伝統がある、と語り始め、今回の北京五輪に向ふ民族主義高揚について。今回の中国国内での仏貨不買や海外での聖火擁護など運動の主体は八〇年代生まれの若者。中国の貧困を知らぬ世代のはずで、なぜ豊かな若者が、なぜまるで中国国歌=義勇軍行進曲の「起ちあがれ! 奴隷となることを望まぬ人びとよ!」の如く盛り上がるのか。それはこの若い世代の中国人にとつて、殊に大都市や海外に留学するやうな世代の若者にとつて「中国は経済成長甚だしくすつかり大国になつた」それなのになぜ欧米諸国が19世紀のやうに中国に干渉するのか、それぢや中国は依然として弱小な立場に置かれてゐる事に対するフラストレーションの表れ、と。御意。だがその中国の経済大国ぶりについて昨日の信報は社説で「経済環境大変「世界工廠」不保」(経済環境の激変で「世界の工場」の地位維持も危ふい)と説く。すでに中国の製造業は人件費や物価の高騰やインフラ整備の遅れ、通運の問題(とくに内地)などで製造業が中国から更に第三国に移る傾向少なからず、と。日本は少なくとも数十年間、高度経済成長謳歌できたが、それも製造業に技術開発や技術水準維持といつた背景があつたから。単に人海戦術と安い賃金、では魅力は十年ちよい、なのか。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/