富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-03-10

三月十日(月)諸事忙殺されたが強制終了で燈刻にFCCでZ嬢と待ち合はせクラブサンドヰチとステラアルトワの麦酒で夕食軽く済ませ九龍に渡り尖沙咀の香港文化中心。伊太利のTeatro Regio di Parmaの歌劇でヴェルディの『リゴレット』観る。権力による淫行、無知による惨憺、で悲劇的結末を知り眼をぐりぐりとさせて舞台眺める我々=観衆。『リゴレット』の筋、あらためて思ふに歌舞伎なら南北かしら。演目にもなるリゴレットの傴僂男は今の役者なら(好き嫌ひは別として)ニンとしては勘三郎リゴレットの愛娘・ジルダは若手なら亀治郎あたりが(必要以上に)「こつてり」なんだらうが何といつても京屋だらう、こりや。で殺し屋・スパラフチーレは(好き嫌ひは別として)高麗屋(父子どちらでも勝手だが)の好演?、でその妹の淫売婦・マッダレーナは(観たくないが)扇雀、チェプラーノ伯爵に?島屋……と配役は決まつてゆくが、それぢや誰がアントヴァ公爵か。Z嬢が「興行的には」海老蔵、と。御意。だがアタシは今晩のこの『リゴレット』を観てゐて、この役のFrancesco Demuroなるテノールの体格が似てゐたからかもしれないが先代の辰之助(1946〜87)がニンだつたのぢやないか、と思ふ。公爵に弄ばれるジルダ役のDaniela Bruera(ソプラノ)が歌ふ『慕はしき御名』Caro nomeが秀逸。とくにこの場面の舞台の展換も見事。ところでカンツォーネ『女心の歌』La donna è mobile も、イタリア語のこの劇中曲が堀内敬三訳の「風の中の 羽のやうに いつも変はる女心」でZ嬢のやうに田谷力三に聞こえるならまだマシで、アタシにはエノケンで、つい『ボッカチオ』の「ベアトリねえちやん、まだねんねかひ」が続いて聞こえてきてしまひ二村定一などに気持ちがいつちまふから困つたもの。あの第3幕で公爵がこの曲を明るく唄つてみせるから悲愴さがさらに増すのがベルディの企図したところなんだらうが日本で当時の浅草で、この曲が流行つた時にいつたいどんなふうに聞かれてゐたのか、が気になり、そして実はオペラを知る人を除けば今も大して変はらないの鴨しれぬ。香港は香港で、死んだはずの公爵(リゴレットの目の前に殺害された公爵の死体が入つてゐる布袋あり)が歌ふ、この歌が旅荘の中から聞こえてきてリゴレットは狼狽へるのだが(じつは布袋の中には愛娘が虫の息でゐるのだから)、このリゴレットの狼狽の場面で観衆の間から笑ひ声が漏れたのはが香港らしさ。アタシでも今でも香港で慣れぬが「ここで笑ふかよ」の悲惨な場面での笑ひ声。中国語で言ふ「意外」が起きた時には、まづ笑つてみるらしい。帰宅して長徳先生『銘機礼讃』3読み出す。
▼マレーシア総選挙でマハティール王に厭はれ更迭され鶏姦罪等で服役までしたアンワル元副首相率ゐる野党が躍進、統一マレー国民組織(UMNO)ら与党は過半数維持したものの議席急減。マハティール王が自ら後継に指名のアブドラ首相の引責辞任求めたが与党はひとまづアブドラ首相続投を全面支持。それにしてもマハティール王、子飼ひのアブドラ氏非難のなかで「明らかに間違つた選択」つて、そりやアンタが選んだんで、自分が引責すべき。東京都も石原銀行の破綻で雇はれ経営者に罪の擦りつけ。無惨。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/