富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-02-27

二月廿七日(水)本日、香港政府財務司による政府新年度予算発表=決定。香港政府の優秀さについてアタシもこれまでこの日剰でかねがね言及続けてゐたが、財務司(曽俊華さん)は財政黒字(今年度HK$1156億)を背景に所得税減税(税金還付が昨年の所得税の75%!で最高25千ドル)、麦酒と葡萄酒の酒税撤廃など市民に至れり尽くせりの大盤振る舞ひ。私らは香港市民であることがなんと幸せなことか、と思はず感涙に咽ぶ。税金還付で中古のライカレンズ購入して葡萄酒でお祝ひしないと……。それにしても、ホテル宿泊税3%撤廃、北京五輪祝賀で7〜9月の公共娯楽施設使用料全面無料措置、低所得者の遠距離通勤補助、電気料金値上げに対しての家庭毎の補填、固定資産税の1年免税、所得税基本控除拡大(年収が単身者で11万ドル、既婚者で22万ドル以下はつまり無税)、月収1万ドル以下の市民に6千ドル即金で年金口座にボーナス支給……「多かれ少なかれ家計はゆとりが生まれ貯蓄なり消費をしてください」と。まぁ「ここまでやつていいの?」と驚くが、実際、09年度は一転して75億ドルの赤字ださうで大盤振る舞ひも安易といへば安易。曽俊華が将来の行政長官のポスト狙ひといふ揶揄もあり。早晩に銅鑼湾。ここ数日なんだかんだと嫌ひなはずの銅鑼湾に日参。通りがかりでWatson's葡萄酒商店に寄る。酒税撤廃は即刻発効だが小売店が追ひつくはずもなし。それでも安売りの銘柄あり祝儀に数本購ふ。今日、葡萄酒携へて歩くは道楽者。「そごふ」の旭屋書店。カメラ雑誌二誌受領。帰宅してミントの葉をいれてホワイトラム飲み洋琴稽古。クラウディオ=アラウ先生のリストのソナタ聴く。夕食後に『日本カメラ』と『アサヒカメラ』読む。とくに後者は「桜、桜」といつたい何頁をバカの一つ覚えの如く桜に費やせば気が済むのか。前者のはうが同じ桜の撮影でもアタシ好み。ずつと子どもの頃から父の影響で『アサヒカメラ』ばかり馴染み、最近また自然とこれを定期購読してゐたが、ふとしたことで『日本カメラ』の方とお知り合ひになり、それがきつかけでこれも読み始める。いぜん書いたが時刻表みたいなものでJTBの時刻表に慣れてゐると鉄道弘済会のがどうも使ひづらいやうなもので(車はスバルだとずつとスバルみたいなもの)『日本カメラ』はどうも……と敬遠してゐたが読み出すと、とにかくデジイチデジイチで時流とはいへ愚の骨頂でデジイチばかり大きく取り上げられるなか『日本カメラ』の地味な「オールドカメラ天国」とかが心のオアシス。四月号もドイツ中古カメラ紀行なんて地味な特集あり。両誌の読者投稿の素人フォトコンテストとかでも『日本』のはうが燻し銀のやうなな地味な写真多し(撮影者の年齢も少し高め?)。でこつちのはうがずつと熟読気味。吉田秀和『音楽展望』1977年のを少し読む。
▼写真家・金村修氏の説得力ある筆致。アサヒカメラで「金村修に叱られたい!」といふ連載から、今度は『日本カメラ』で「金村修の作家になりたきゃなればいい」が毎回面白い。実に面白い。多少長くなるが引用
キャノンのカメラは良かった。カメラフェチにならない程度のボディの感じが好きだった。大量生産でたくさん作っている工業製品みたいなところも良かったし、ライカみたいなワン・アンド・オンリーっていうよりも、壊れたら代替品はたくさんあるって感じで、カメラのことなんかよく分からない人間にはピッタリだった。いまもライカなんてあんまり好きじゃない。ピントは合わせにくいし、カメラは重いし、ファインダーが明るく見え過ぎるというか、なんでも美しく見える。それに『サライ』にでも紹介されそうな、粋なカメラみたいなイメージもあるし。レンズのボケ具合がいいっていっても、そんなものでB/Wの写真をやったら中国の墨絵みたいな感じで、もっとコントラストがあがり気味でピントがキッチリくる写真のほうが好きだった。着物のたもとの中にライカを入れて、正面やシャッターチャンスを意識的にはずす撮影方法がスカしてるみたいな感じで嫌いだ。なんであんなに斜めにものを見ているのか。そういうとり方が東京的というか、都市的な照れというのか、多分田舎からみた都会の粋というものなんだろうけど、撮影はモノを斜めにみたり、意識的に何かをはずす行為なんかじゃない。撮りたい時に正面から堂々と撮るべきだ。だからやっぱり土門拳は偉いと思う。
実に説得力あり。名文。だが「着物のたもとの中にライカを入れて、正面やシャッターチャンスを意識的にはづす撮影方法」なんて器用なこと誰がするか。がいかにもさういふ酔狂な和服姿のオヤヂがゐさうだから可笑しい……まさに銀座の「くのや」の前で、と『サライ』的な世界だが。
▼紐育愛樂樂團(NYPO)の平壌初演。報道多いが演奏曲目が(さういふサイトに行けば情報もあらうが)一般紙でアンコール含む全曲の演奏曲目リスト掲載は経済紙の信報。さすが。ちなみに曲目は、さもありなむ、か「ここまでやるか」の
1 朝鮮民主主義人民共和国国家「愛国歌」朝は輝け (아침은 빛나라)
2 米国国歌 The Star-Spangled Banner
3 ドヴォルザーク 交響曲第9番 新世界より
4 ガーシュイン 巴里のアメリカ人
5 ワーグナー ローエングリン 第3幕への前奏曲
アンコール ・ビゼー アルルの女 第2組曲より ファランドール
      ・バーンスタイン キャンディード 序曲
      ・アリラン
全てが「意味深」な曲がづらり。ドヴォルザークの新世界が米国謳ひ上げる交響曲なら、ガーシュインは「米国の快楽」の象徴、でワーグナーの「ローエングリン」といへば云はずもがなヒトラーの愛した曲で、それの平壌での演奏は皮肉か、だが劇中のハインリヒ王による「ドイツの国土のためにドイツの剣をとれ!」との演説も平壌だとハインリヒ王が将軍様に思へなくもなし。アンコールも「アルルの女」と聞くと小学生必聴のやうだが「ファランドール」は主人公のフレデリが狂つて自ら命を絶つ壮絶な場面の狂騒曲。バーンスタインのキャンディードもこの音楽劇の主人公「カンディード」は「天真爛漫」の意、誰を指すのかしら。さういへば「ローエングリン」の日本初演は戦局険しい1942年11月に歌舞伎座藤原歌劇団藤原義江ローエングリン。調べてみると演奏は東京交響楽団(現在の東京フィルハーモニー交響楽団)で指揮はマンフレート=グルリット。

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