富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-01-07

一月七日(月)諸事忙殺され晩に到り二更に独り北角寿司加藤。熱燗正一合で寿司をつまみ帰宅急ぐ。
▼ここ数日の出来事。その一。羅范椒芬が全人代香港代表選挙に恥づかしげもなく立候補。羅范椒芬といへば教育統籌局(当時)ナンバー2の「禍舌重なる」常任秘書長当時、香港中文大学との併合拒んだ香港教育学院に対し政府改革に反発するなと圧力かけ教育学院側が正義に訴へ、羅范椒芬は火の粉振り払ふかの如く廉政公署のトップに異動。この介入問題は政府の公聴会開かれ羅范椒芬は廉政専員辞職。教育統籌局局長のアーサー王・李國章も文革曽の「内閣」改造で事実上解任される。その熱りも冷めぬうちに全人代香港代表選に立候補とは面の皮頗る厚し。政府より昨年六月に依願退職したが實はまだ累積休暇消化中(政府公務員の悠長ぶり、呆れるばかり)。立場的には未だ現職公務員。となると「首長級公務員は現職中は選挙に立候補できぬ」政府既定に抵触。だが何故に羅范椒芬が立候補できたか、と言へばマスコミの取材に対して政府公務員事務局の輩曰く「最近、本件につき或る官員より選挙参加制限について問合せあり、検討の結果、現行解釈を改定し上級公務員が離職前の休暇中に全人代選立候補の場合は公務員事務局長宛にその旨申請し批准受ければ問題なしと解釈」と。がその発言のわづか15分後に粗忽なる公務員事務局の輩はマスコミに対して「先ほどのコメントのうち「最近」を削除願ひたし、常日ごろとり本件については検討あり」と訂正(笑)。よーは羅范椒芬の要求受け入れたといふ姿勢隠し(粗忽)。いづれにせよ面の皮厚き羅范椒芬は全人代選に立候補。これについて信報は羅范椒芬は取材に対しすでに特区政府の批准を得たと答へたが「いつ?」についてはコメントせず。公務員事務局はこれまでは首長級官員の全人代代表選立候補能はずも「先週水曜日に」退職前休暇中の公務員の扱ひについては申請があつた場合に局長の認可で参選可、と内部通告、と発表。ちなみに先週水曜は全人代選挙の第一回全体会議の前日で、この全体会議で最終的な今回の全人代選の詳細決定し土曜日から立候補受付始まる。で羅范椒芬はその受付初日に立候補届出、しかも選挙運動用のパンフレットまで用意周到、明らかに公務員事務局よりかなり早い時期に批准受けてゐたとしか考へられず。羅范椒芬もどうしやうもないが香港政府の、公務員事務局の結局は自ら公務員の権益確保のための粗忽なる仕事ぶり、ただただ呆れるばかり。矜恃も節操もなし。信報の練乙錚主筆が(と、かういふ肯定的な意味での引用は初めてだが)この件につき「公務員の政治的活動禁じる」規則にこの羅范椒芬の全人代立候補が抵触するかどうか?について明確に述べる。全人代は政治活動や否や。練乙錚主筆が挙げたのは先日の中共第十七回党大会の胡錦涛総書記による「報告」で、その6章「社会主義の民主政治を確固として揺るぐことなく発展させる」の一項で、曰く「人民代表大会が法にもとづいて機能を果たすことをサポートし、党の主張が法で定められた手続きを通して国の意思となるようにする」と。この主張からも(人民代表大会が実質的に一党独裁の国家にといて党の意志実現の機関であることは明確なのだから)全人代は間違ひなく政治組織である、と。それに参加することが政治活動でなからうか。それに退職前の休暇中の公務員が参与すること批准したのだから香港政府は非難も免れないであらう、と練乙錚主筆。御意。
▼その二。築地の正月明けの鮪の競りで香港の飲食業主が607万円で276kg、初日の競りでは日本一の大マグロ競り落とす。この業主、今回1,500万円を懐に築地の正月明けの競りに出る予定が競走相手多しとの話に1,800万円用意。いつたいどういふやり手かといへば香港の、若者に人気の「板前寿司」の経営者C氏(40歳)。7歳で内地より香港に出て中学卒業後、銅鑼湾の老舗「友和」で修業。彼を見込んだ日本人の板前について赴日。日本で板前修業の傍ら日本語学び香港に戻つてからは日本人相手の観光ガイドを2年。94年に友人とパンケーキハウスなる店を開き商売の基とし96年には味千ラーメン誘致。味千ラーメンは香港と中国に百軒越える展開で昨年三月に香港で株式上場。04年に「板前寿司」開業し今では逆に赤坂など日本に逆上陸の由。06年には九州より雪村なる串焼。で板前寿司の好調で「板長寿司」なる高級店も展開……と、なんだか景気良き話。若輩多き板前寿司など老いてはとても入れず、入る気もせず。
▼その三。朝日新聞の「耕論」で「羊の歌」加藤周一翁と着物姿も粋な東大大学院の女将・上野千鶴子姐が「われはれはどこへ」と対談。誰もが「あの世へ」なのは確かなのだが碩学のお二人、大方の言ひ分に不満はないが、最後に「今後、日本が掲げるべき目標は?」といふ例題に対し千鶴子嬢は「生活の質」(QOL=Quality of Life)取り上げ「国際的にみて、日本のQOLはすごく高い。まづ治安がいい。エネルギーや水道といったインフラの水準が高い。外国に出た若者たちが、「こんないいところはない」と帰ってくる。それでナショナリストになるけれど(苦笑)。こんな安心と安全を捨てたくないと思うインフラを、若者に与え続ける必要がある」と……来年は千鶴子さんももう還暦。「国際的にみて」つてアフガニスタンパキスタンと比べてゐるのかしら? 日本程度のQOL、インフラは先進国なら松竹梅の「梅の上」くらゐ。日本の治安がいひ、とは大したもんだよ蛙の小便、見上げたもんだよ屋根屋の褌。外国で「日本に帰りたくない」といふ若者は(つて老いぼれもだが)数数多。日本に安心と安全が感じられない国民が多いのが今の日本の不幸。千鶴子さんも千鶴子さんなら羊の周一さんも周一さんで「日本では犯罪の発生率が非常に低い。特に夜の町。世界と比較したらまだまだ安全だ。歴史的な例外は、共産ソ連のモスクワと毛沢東支配の中国だったが。ある程度自由な国のなかで、日本は大きな都会が安全だ。それはなぜか。(儒教的価値観は)45年に滅んでしまい、そのあとには何もない。儒教のかわりに対応したのが集団主義だ。その集団主義が崩れたら、社会は危なくなるだろう。その時、どうすか、この問題をうまく解ければ、これからの大きな希望になる」と。これまた唖然。日本は確かに犯罪の発生率はまだ低いが犯行者の検挙率も低い。日本の都会が安全?だとして、その理由に加藤周一ほどの碩学が挙げたのが集団主義集団主義つて周一先生が最も忌み嫌つたものぢやないの、それが戦前のあの不幸な時代を生んだ、つて。ある面では個人主義を唱へ、日本の安全のために、と集団主義を謳ふ。「その時、どうすか、この問題をうまく解ければ……」なんて悠長なこと言つてゐるより、その問題をうまく解いてみせるべき、だらう。失礼だが来年には九旬の碩学に、アタシは本心からさう思ふ。

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