富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-01-08

陰暦十二月朔日。朝の気温摂氏廿度。湿度85%とは不愉快な春の如し。カメラの除湿器の湿度29%の表示眺め「買つて良かつた」とニンマリ。諸事に忙殺され燈刻に到る。帰宅。パイプの煙を燻らしインドのウイスキー一飲し安堵。NHKのNW9を偶然、晩飯の時に見てしまつたら話題がないのか今更、インターネットがいかに時代を変革するか?と秋元康をゲストに十数分。誰でも知つてる当たり前の現実を神妙な表情で首肯いては語る、声が会津の前任者にそつくりなキャスター。NHKの報道センターつてこんなに低レベルだつたのかしら?と猜つてはみても現実はその通り。センターは神南の放送局のなかでも治安厳重だが(行き先表示がないので局関係者でも慣れないと行き着けない)守られすぎて世間に疎くなつてないかしら。晩遅く溜まつた新聞を読む。六日(日)の蘋果日報のA16面。拔萃男書院の張灼祥校長が「激情的沉鬱的音符」と題しチェロ演奏についてJaqueline du Préから王健を語り、嶺南大学の名誉教授・紹銘榮が「演講術」と題して毛沢東の建国演説からケネディ、汪精衛まで演説の魅惑を説く。でもう一つが陶傑先生の星期天休息の蘋果日報日曜版の社説代はりの連載は「第三世界 - 一個禍盡蒼生的神話」。この3つで紙面覆ふ見事さ。日本の新聞でこんな拡張高い文章が3つ、活字がびつちりと紙面覆ふやうなこと、今どきあるかしら。日本がQOLが高い、なんて逆上せてゐる場合ぢやない。陶傑先生の「第三世界論はバンドン会議から話を始め理想を語るは易しいが米ソ対立の時代に理想奮ひ立たせた第三世界がこの半世紀、いつたいどんな悲劇続きだつたか、この世に「第三世界」など存在せず、あるのはただ文明と野蛮、言ひ換へれば「人間と地獄」なのだ、と陶傑氏。
▼今日の信報でHK Chopin Societyの十二月の一連の音楽会について、とくにGary GraffmanとLCOの演奏について評論あり(麥華嵩)。音楽会の演奏についての筆者の指摘に異存ないが、最後に、香港でやるのだからHK Chopin Societyは英文のみの告知やパンフレットでの解説など改め英中両文にすべき、と指摘。尤もな気もしつつ、今でもあの会場の無邪気で無節操な少なからぬ客……たんに子どもに古典音楽聞かせれば子どもの教育になる、と無節操な親、全く聴く気もなく飽きた子どもら(とても子どもが好む演目に非ず)、親が子ども以上にマナー悪いのだから子どもを躾けられるはずもなく、室内楽やピアノ独奏の会場で自分がどれだけ他の客の迷惑になっているのか、前列の客に振り返り睨まれても解せぬ低水準、を思うと「もうこれ以上」聴衆に親切になどする必要もない、と思うのが正直なところ。麥華嵩氏が「英文のみ」の他、もう一つこの一連の演奏会の特色として19:30という、通常の音楽会より30分早い開始時刻を挙げているが、実は30分早く(子連れにはありがたい)而も料金がHK$150と比較的お安い良心さが、こうした「他にとって不愉快な客」にまで門戸を招いている証左。もう、それだけでじゅうぶんに優しいのだから。
▼香港の由緒ある最大規模の経済団体たる香港総商會(HK General Chamber of Commerce)の146年の歴史で初めての女性で主席となつた蒋麗莉さん(46歳)が5年前に某企業上場の際でのインサイダー取引きだかの廉で廉政公署の取り調べ受けお白州へ。財界人の余りにベタな犯罪容疑で記事はよく読んでゐないが、この蒋容疑者、最近パツとしない財界御用政党・自由党の主席田北俊が(蒋容疑者本人曰く)「三顧草蘆」の礼を尽くし入党させ、将来の党主席も期待された期待の星。が今更5年前の容疑で味噌をつける。自由党にとつても泣きつ面に蜂。僅か二ヶ月の間に区議会選での敗北、葉劉淑儀の立法会補選での支援不足、香港観光協会幹部職員厚遇疑惑、で今回がこれ。偶然か。さうぢやない。「政治的に面白い展開」を敢へて言へば、自由党醜聞の次に来るのは民建聯か。2017年の行政長官選挙から普選、と公約の中国政府にとつて「あと10年」の短い期間で香港の自治をどう安定させるか、と言へば、もはや過去10年あれだけ庇護しても育たずの民建聯には愛想つかし(既に、だらうが)狙ひどころは(民主党金属疲労おこしてゐるし)非理性的な土共と実は愛国心も何もない財界政治家を切り、リベラルにも受けゐられる常識的な左派(日本で言ふ右派)と中共が許容できる公民党的なリベラルな中道右派(日本で言ふ中道左派)による「大連合」ではないかしら(ナヴェツネの自民党民主党の大連合に匹敵するくらゐ安易な発想だが)。その大連合にとつて、ならアンソン陳方安生は行政長官として最も最適な人材のはず。が、基本的に中共を信じてをらぬ人が行政長官に推挙されるはずもなし(現認の文革曽は「中共を信じてをらぬ」が本人に「信じるものがない」ぶん北京中央にとつて使ひ勝手は良からう)。いづれにせよ、政党政治が「やつぱりダメ」と北京中央は香港自治でよく理解して、だがまさか自国やシンガポールの如く今更香港を一党独裁にはできぬので、落とし所として「中道政党による安定」が最適と考へる、鴨。ところで先週末(1月3日号)のThe Economist誌は“Democracy denied”なんて見出しで中国政府が香港の普選を2017年まで拒否、なんて大袈裟に書いてみせたが、記事は実は到つて地味で、香港にとつて自治による政治的安定は重要だが、ただ北京はこの「特別行政区の」民主主義が中国の他の場所に対して一つの先例となることを望んでゐないのだ(But Beijing is loth to let democracy take root in this “Special Administrative Region” lest it sets a precedent elsewhere in China.)と。だから香港で罵詈雑言浴びせられようが普選実施を先延ばししてゐる「だけ」のこと。香港はまがひなりにも多党制で民選で選らばばれた議員と職業枠でも司法界や教育界など泛民主派議員が選ばれる余地のある立法会が維持されてゐるのだから民主主義。ただ全面普選が実施されてをらぬだけ。かりに民選が否定でもされれば「民主主義の否定」でせうが。

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