富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-12-03

十二月三日(月)朝起きて立法会港島区補選の結果を見る。陳方安生女史が17.6万票得て葉劉淑儀候補に3.8万票差をつけ当選。これで葉さんが当選してゐたら、アタシは今朝、<近代の超克>な気分だつたらう。アンソン陳さんのはうは丑三つ時に当選祝賀で、抜栓のシャンペンはドンペリであつた。振つて泡をたてるには勿体ない。諸事に忙殺されたが献血(香港で38度目)。毎三ヶ月にきちんと献血のアタシが四月以来実に七ヶ月ぶり。七月に献血に参れば五月の胃潰瘍で服薬が終はつたばかりで四ヶ月のインターバル要るとわかり今回待ちに待つて。終はつてすつきり。シャブなんかよりずつといいだらう。帰宅して晩のケーブルテレビのニュースチャンネル見るとトップニュースが「ベネズエラ憲法改正国民投票」。立法会補選ネタは昨晩からひつきりなしだつたので今更なのか、といふ気もするがベネズエラ内政問題は香港であまりトップニュースらしからず。新聞も蘋果日報やSCMP紙を除き補選についての記事は報道低調だつたが(選挙結果発表が本日未明で印刷間に合はぬ旧態依然の新聞社も多からうが)テレビもアンソン陳当選を余り大々的に流し続けないやう配慮かしら。晩は葡萄牙Quinta do Valladoは白のはうが断然いいみたいだが、その赤の04年を飲みながらクリームソースで煮た骨つき鶏腿肉のソテー食す。FMラジオでモーツァルトのピアノとバイオリンのための小曲(曲名知らず)が流れてゐて聴く。モーツァルトも嫌ひ、嫌ひといつてゐるがちやんと聴かないと。井上直幸先生の言ふ通り愉しいだらう。井上直幸的には「終わったあとのケーキが楽しみ」みたいな感じの曲。「ケーキはイチゴかな、シュークリームかな、って想像しながら……うふつ♡」とか。
▼葉候補は自ら善戦讃へ来年の本選挙には再び立候補を宣言。間違ひなく当選、と思ふが葉候補支援した親中御用政党民建聯の代表が憔悴し切つた表情で「全力を尽くした」と取材に答へてゐた姿が印象的。善戦といふが3.8万票差は両候補の得票数の12.3%にあたる。2大候補の接戦で投票数の1割越える差は僅差とは言はない。寧ろ完璧に敗北。香港島にある「六四黄金定率」が今回もきちんと反映して革新6:保守4の得票比となる。葉候補本人は来年の本選の前哨戦として善戦気分だらうが支援と集票強ひられる民建聯や各商工団体にとつては六四定率を超える得票を次回選挙では求められるわけで、たしかに「たまつたもんぢやない」だらう。それにしても今回の親中派御用団体の動員はかなりのもので朝イチで勵徳邨では老人ホームから投票所へのバスが仕立てられたり、某商工団体関係者の中には陳方安生の番号が7から4に変更になつたといふデマ(4番は葉候補の番号)をSMSで流した者までゐた由。それでも午後になり出口調査で陳候補優勢が伝へられ夕方から土共らによる積極的な葉候補票の獲得の命が下されたらしい。土共左派は昨日午後に蘋果日報が「陳太勢危」といふ号外出し陳候補への投票呼びかけたこと非難。その数5万部、選挙当日の号外は香港でも初めての由。指摘はご尤もだが親中系左派紙に対して一紙くらゐ過激リベラル紙があつてもよからう。土共左派にとつて憎いにはこの蘋果日報と、そして香港大学世論調査センター。同センターの出口調査の途中経過発表でアンソン陳候補の優勢が伝へられ、しかも東区で票伸び悩みと判明し投票日終盤でアンソン候補側は民建聯の票田である東区に乗り込み票掘り起こし。同センターの鍾庭耀主任といへば董建華の時代に「行政長官支持率調査を止めるやう行政長官側から圧力がかかつた」こと暴露し当時の行政長官秘書と香港大学の正副学長辞任にまで追ひ込まれ、鍾庭耀といへば土共左派にとつては千古罪人。
▼台湾出身の知己のY女史が香港の選挙がだんだん台湾化してきた、と指摘は言ひ得て妙。台湾で選挙になると夫婦が国民党支持と民進党支持で対立し家庭内別居とか面白可笑しく報道されるが香港でもY女史の知り合ひは旦那は仕事絡みで葉候補の投票請はれ妻はアンソン陳支持と割れたさうな。
▼立法会の来年の改選は葉劉淑儀が立候補の場合、当選は間違ひないだらう、とアタシは書いたが、土共保守派には土共の事情があり、港島区の保守派の議席数が最大で3の場合、前回選挙では范徐麗泰(立法会議長)と民建聯2議席(逝去の馬力氏議席含む)に対して今回の補選では民建聯が独自候補立てず葉候補支援に回つたが2議席確保は党としての沽券にかかはること。范議長が引退でそれを葉劉淑儀が襲ふなら、それでうまくいきさうだが、問題は保守派財界政党の自由党も地盤の港島区で1議席ゲットは当然望むところ。となると3議席の取り合ひも必至。葉劉淑儀が民建聯入りするのがいちばん簡単な解決法だらうが民建聯に入れば入つたで浮遊票である中間層の反発で右派の集票しか能はず……がジレンマ。泛民主派とて事情は似たり寄つたり。港島区で4議席。公民党の好調と民主党金属疲労。2+2で分け合へばよかつたが前回選挙では民主党チョンボで最後のSOSが災ひし民主党議席得たが比例代表制で票が民主党に集中した結果、公民党が2議席確実だつたのに1議席となり(何少蘭の落選)、それが民建聯に流れ福建女王・蔡素玉を当選させる結果に。今回、昨日の補選で陳方安生の当選でその1議席奪回はしたが、来年の改選では民主党が指定席であつた2議席を1つ失ふ可能性も大、最悪のシナリオは民主党、公民党と無所属の陳方安生に票がばらつき、保守派はそのてん票の調整は確実だから、泛民主派が3議席となる可能性も少なからず。
▼今回の補選にアンソン陳女史が立候補表明するかしないか、の時に信報が「立候補辞退すべき」の論陣張つたのは記憶に新しいところ。その信報が今朝の社説で「選挙結果が政局に与へる影響は小さい」と述べる。敢へていへば「影響は小さくあるべき」といふ主張に読めてならず。信報としては妥当なところだらうが、その論旨よりむしろ驚いたのは社説の最後に「本紙主筆練乙錚が本日より専欄で連載開始」とあり。練乙錚といへば信報の元編集長で、その後、董建華の時代に政府の中央政策組に加はつたが董建華に呆れたのか中央政策組主任の劉教授と仲違ひしたか04年に政府を離れ米国だかに大学院留学。05年に信報で中央政策組時代を反思し「浮桴記」を執筆。期待ほど暴露もなく刹那感、無常感強し。その練乙錚が信報にまた主筆で復帰とは……。その今日からの連載は「香島論叢」と言ふ。社会の和解について、と漠然とした内容は想像に易し。独特のスタンスで政経社会を見てはゐるが、どうも世捨て人感覚で時事評論としては違和感あり。その人がなぜまた組織に属して、といふのも不思議。
関東学院大ラグビー部の大麻「蔓延」。大麻のはうが煙草よりはスポーツマンには健康面でいい鴨。でも大麻などキメてたらゲームで闘争心も起きないかしら。
▼強肴(しいざかな)。懐石などで、酒がちよいとすすむやうに、ちよつと塩辛い雲丹や酒盗などをほんの少し、小振りの鉢などで供す、これもオツだが、料理屋でカウンターで酒を一杯、の時に頼んでもゐないのに「ちよつと、これ食べて」と酒の肴が一品、さつと供される、あの感覚がまた佳し。香港では寿司加藤とかHappy Valleyの寿司澄など。それが料理屋によつては(名前は挙げぬが)馴染みの客に「これ食べてみて」はいいが、きちんとお会計に反映させる肆もあり、而も小皿に少しが百ドル超えてゐたり、更に「これも」「これも」とまぁ山海の珍味を次から次へと、強ひる、強ひる。これぢや珍味も食傷気味で美味くもない下品。馴染みになるとむしろ「この客からは高くとれる」となる香港の日本料理屋の悪い習慣。

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