富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-11-13

十一月十三日(火)鹿児島の古書店から白水社吉田秀和全集(1975年に発売分の全10巻)が1万円で出てゐるのを見つけ早速購入手続き。秀和先生といへば青柳いづみこさんのMERDE日記にある吉田秀和にかかはる話が面白い。鎌倉訪問に至る話文化勲章受賞の話。いづみこさんはアタシらの世代には荷風散人に師事した青柳瑞穂、の孫娘と言はれると「へぇ」と納得。全集は高くてとても手が出ない、と思つていたし若い頃に神田神保町古書店の揃ひ本眺めても値段の高さに溜め息つくばかり、だつたのだが最近は圧倒的に読みたい者よりも「お爺ちやんが遺した?外全集だつけ、あれどうしようか?」で処分される方がずいぶんと多いやうで全集の揃ひ本がかなり廉価で古書店に出てゐる。?外全集全38巻24千円、露伴が全44冊36千円なんてのを見ると、つい注文しちまひさうだが香港の陋宅に全集は荷風全集だけでも書棚でかなりを占めては「?外でも露伴でも読みたいなら香港大学の図書館にでも行けばよいのだ」と言ひ聞かせる(結局、図書館でまで読まうともしないのだが)。どうであれ秀和さんの全集24巻のうち前10巻だけはこれで入手(先月、この日剰で「入手したいがちよつと今は手が出せぬ」なんて書いてゐたつけ)。昏時ハッピーヴァレイ競馬場の内馬場を5周走る。夕暮れから日暮れに陽が銅鑼湾、灣仔のビルの壁面に映るのがきれい。街路沿ひは排ガスで大気汚染深刻だが一旦、馬場に入ると空気もひんやりとして芝の草香も心地よし。帰宅。マッカランをくひつとショットで二杯。アタシは子どもの頃に英国の、人里離れた村の邸宅で夕方、主人が書斎に寛いでゐると友人がふらり現れ、すると「やぁ」と一言で「タンブラーから」グラスにウヰスキーを注ぎ、二人ともぐつと飲み干し、そこで「で、用件は何だい?」なんて会話を映画で見て、ウヰスキーとはこんな風に飲むものなんだ、と心得え、父親のサントリーレッドでそれを真似して喉から火を噴き出すやうに驚いたこと、ふと思ひ出す。さういふ経験を積んで少年は大人になつてゆく。夕食に栗ご飯。すつかり秋。NHKの「今日の料理」が放送開始50周年の由。その記念でかつての偉大なる料理人の名調子を再放送。Z嬢が録画してくれたのを眺める。辻嘉一の正月用の祝ひ肴三種、土井勝の煮豆、阿部なをのふろふき大根、尚道子の沖縄風実だくさん汁……思はず見入る。辻嘉一の京言葉風丁寧な標準語が懐かしく、ちよつと鍋に包丁が当たつただけで「失礼しました」と一言。土井勝は料理上手の祖母でもこの人の時だけはきちんと家事の手を休めシンセイを一服しながら見入つてゐた。阿部なをも尚道子も、この4人の料理が実に簡単で、味噌、醤油、塩に砂糖とお酒、その程度の調味料。いやはや……。それにしても昨晩といひ今晩といひ大根を煮たり煮豆だつたり、我が家の食卓は偉大なる先達たちの今日の料理そのもの、で笑ふ。NHKの「鶴瓶の家族に乾杯」、ゲストの糸井重里、これ見よがしにリコーのGR digitalを「首から下げて」ゐる。確かにネックストラップも市販されてゐるが、GRをわざはざ首から下げてゐる人も初めて見た。他の番組でも(さんまのまんま、とか)同じやうにして出てゐたさうで、愛用なのはいいが、これぢや宣伝マンだよ……さすが。
▼香港ポスト紙に深?の文化情報の特集記事あり。深?音樂廳が先月開幕(公式サイトはこちらだが機能してをらず)。磯崎新の設計で総工費約124億円。磯崎氏曰く「日本ぢやなぜこんなのやるつていはれるだらうね。だいたいこんな空間、日本ぢやダメつて言はれるんだらうね。法律的にダメだと思ふ。何か分からないうちにできちやつた」。コンサートホールは永田音響設計ときたもんだ。どう考へても建物設計も音響も香港の文化中心を凌駕しよう。建物なんて香港のあの「香港を代表する三大ワースト建築の一つ」(あと二つは香港中央図書館と香港文化博物館)。まさか深?がこんな凄いことにならうとは……。ところで広州での国??琴王子 李云迪 2007中国巡演广州音?会なんて李雲迪(ユンディ=リー)のリサイタルで180元。日本や香港でなら高くはないが。中国も豊かになつたねぇ、と驚くべきか実は党政府関係の招待客も多くアトは「180元払へる客はどうぞご覧ください」の特色ある社会主義だつたりして。
▼香港外国人記者倶楽部での明後日昼のレジーナ葉劉淑儀の“Hong Kong's Road to Democracy and Good Governance”と題した講演と記者会見。今日になつて宣伝がまだ届く……といふことは満席になつてゐない? 香港の保守派の市川房枝、94歳のElsie Tu(杜葉錫恩)女史は葉劉淑儀の選挙支援団体の名誉代表だか務めるが、信報の取材にあらためて「レジーナは正直」と強調。言ひ得て妙。誠実かどうかは知らぬが正直。つまりアンソン陳方安生は「正直ではない」と読み取ることも可、か。
▼香港鼠楽園の為体に対して、新華社系の週刊誌・瞭望東方周刊が上海鼠楽園の建造を報道。すでに候補地の浦東の開発区での土地接収も終はり(また強制的だつたのかしら)政府中央の批准待ちで着工。2012年の完成目指し、規模は6平方キロと香港鼠楽園の実に4.6倍。鉄道交通網整備で寧波、杭州、蘇州など上海周辺からの旅客誘致の由。香港は97年香港返還後の新空港と並ぶ大型巨大投資として鼠楽園の誘致を上海と争ひ、結果、鼠楽園に弄ばれてこの態、憐れなり。

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