富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-10-01

十月朔日(月)国慶節。朝八時に湾仔の湾岸にて国旗掲揚式あり。テレビで実況中継観る。この国旗掲揚の「升旗手」務める警官の談話が蘋果日報にあり。普段は香港警察の警察学校教官で40歳、03年の回帰と国慶、今年の回帰に続きの大役。国歌の前奏に合わせ静々と揚げられる国旗。前奏が終わるところで丁度1.77mまで昇った国旗を右手で見事に放つ。天が南風を吹かせれば五星紅旗は順利随風飄蕩。だが西南風だと国旗が旗手の顔を覆い、まるで人に叩たかれているような感覚あり、と。国歌演奏は44秒。升旗手が縄を手繰るのは19回。曲が終わる午前八時丁度に国旗は棹の頂きに揚がっておらねばならぬ。一秒の誤差も許されぬ、これが<近代>であることは原武史の指摘の通り。国家の緻密さのために数十名がいったいどれだけの訓練に労力費やすのか……滑稽なり。ちなみに北京の天安門広場での国旗掲揚での国歌演奏は88秒で時間は香港の実に2倍の由(香港が逆にテンポが2倍速いとも言えるが)。昼過ぎまで自宅にて雑事済ます。内輪話となるが今月の香港での草間彌生の展示につき畏友T君に請われ多少関わる。今月の九日に松本市美術館の常設展で草間彌生の作品群の中にいた時にはまさか今月末に香港でこんな展開になろうとは思いもせず。午後、T君より先日送られ預かった何冊もの草間彌生の美術本あり目を通す。その中で興味深きは『草間彌生 ニューヨーク□東京』(東京都現代美術館・淡文社刊)の紐育編に掲載されているAlexandra Munroe著「天と地の間……草間彌生の文学作品」。泉鏡花の『高野聖』から現代日本文学を語り草間彌生の『クリストファー男娼窟』を位置づけ、中上健次に言及する。面白くて思わず読み耽る。
中上と草間の小説では、性的な妄念は粗暴であると同時に、超越的でもある。違いは中上の私小説では自然現象との恍惚とした交わりが起こるのに対して、草間では崇高なものへの服従がこれとは対照的な感情……性行為に対する嫌悪感と反感から誘いだされるところにある。
ふと思い出したが、アタシは実は草間彌生は美術品から入ったのではなく、1983年に角川書店の『野生時代』(懐かしい……)でこの『クリストファー』を読んだのが最初。美術家としての草間彌生南原四郎氏の雑誌『月光』か何か……と記憶不明。ところで『クリストファー男娼窟』の主人公ヤンニーは香港出身という設定であったのだった。午後遅く尖沙咀。Harbour Cityでクリエーターの畏友C君と待ち合せ。T君ら今回の草間彌生展の関係者にC君を紹介し打ち合わせに同席。国慶節大型連休にて香港に大陸からの旅行者多し。尖沙咀広東道のLouis Vuitton商店前には店内に入場制限で七、八十名が長蛇の列。大陸の金満ぶり。また香港で購入せしLV商品を大陸で売り捌く「担ぎ屋」も少なからず哉。九龍公園隣接する某高級マンション63階に住まわれる某氏宅にて晩の国慶節祝賀の花火眺めるご招待受けZ嬢と末席を汚す。驚くほどに尖沙咀の向こうに香港島一望。北京道一號やペニンスラホテルも眼下に低し。香港の花火は短時間に大量打ち上げ煙も甚だしものが今晩は折からの強風で煙が流れ花火鮮やか。花火を高層ビルから見下ろすもまた不思議。音楽と主題に合わせての花火打ち上げでテレビの生中継でパバロッティの歌声など流れ最後は当然「我愛祖国」だか何だか愛国心高揚のなか花火乱れ咲く……嗚呼、勝手にして。35万人(主催者側発表)だかが花火観賞だそうで深更まで地下鉄ラッシュ。こうして国慶節を皆が祝っていられることは「現状では幸事」ととるべきか。
マカオにて昨日、スクーター三千台が交通規則強化に反対してデモ走行。カジノブームで市内の交通量増加、渋滞が深刻。マカオ政府ポルトガル的な自家用車の路上不法駐車に対処。その煽りを受けたのが市民の下駄がわりのスクーター。人口50万人で8.5万台のオートバイに対して市内の駐車可な車位は4万のみ。これまでオートバイの不法駐車は罰金200パタカで実質上は警察も放置、罰金請求受けて払わずとも追徴もなし、の楽園が、罰金は300パタカに値上げされ15日以内の納入、過去2年に遡り罰金未納の追徴まで求められ、スクーター族が怒る。99年の返還移行、その安定成長が北京中央の評価得たマカオもカジノ建設ラッシュの頃から社会的格差だの政府の傲慢な政策だのに市民の反発目立つ。そして本日、市民一万人が格差、政府と財界の癒着是正、中国含む出稼ぎ流入反対など求め市街をデモ行進。飛ぶ鳥落とす勢い続いた行政長官もついに「何厚?落台!」と辞任求める声も。デモ参加者の一人が言うに給与もこの数年で3割増えたがインフレや家賃の上昇は5割以上で生活は苦しくなるばかり、と。
▼沖縄で先の大戦での集団自決が「日本軍の強制によるもの」とした記述が教科書検定で削除されたことにつき検定意見撤回求める県民集会開催され11万人(主催者発表)が参加(29日)。左傾市民の集会に非ず。県議会各派や県PTA連合会などが主催し実行委員長は県議会議長(自民党)。実質上は政府の国定教科書は沖縄など理解できぬのだから(日本から独立まではしないとしても、せめて)沖縄独自の教科書編集などどうかしら。社会科で歴史は沖縄の立場から見通し、基地問題など通して対米関係を学び、理科で地元の植物に馴染み、「国語」も当然、琉球方言もたっぷり。教育は国の根幹、そう簡単に国家が教育の地方自治など認めまいが、沖縄は沖縄、ついで鹿児島も薩摩史観でとか、水戸は水戸学に基づく国史教育とか……面白そう。
▼今日の信報はだいぶ模様替え。活字が大きくなってロクなことないのだが……。字体も信報らしい明朝体の見出しがチープな太字ゴシックに。随筆欄もへんに囲み記事となり見づらし。

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