富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

陰暦八月十五日。中秋。安倍内閣にとっては陰暦でも八月十五日で終戦か。閣議安倍内閣総辞職決定。産経新聞は「安倍内閣最後となった閣議には、安倍晋三首相も出席した」ってアナタ、小渕首相が倒れ当時の青木官房長官が首相の「辞任の意向を伺った」として首相臨時代理に就任し総辞職、の時ならまだも、安倍三世は過労で入院で首相の臨時代理も置かず「総辞職の閣議には出たい」と表明しており前日記者会見までしているのだから「安倍首相も」はないだろうに……。ところで内閣が閣議で各大臣の辞表を集め総辞職、となるが一人くらい「自分は辞職しない」と言って辞表書かない大臣がいたりしないのかしら。その場合は罷免? 安倍内閣発足が昨年の九月廿六日(マスコミはちょうど1年、と書いているが陛下による首相任命が今日中に行われないと=明日にずれ込むと安倍三世は危機管理上それまで職務遂行じゃなかったか)。ふと昨年九月廿六日のアタシの日剰読む(こちら)。この日アタシは、野党と自民党離脱組に加え自民党反主流派、ハト派大量離脱で小沢一郎主犯の連立内閣が生まれる夢から目覚め安倍首相による組閣は「今回の安倍チョイスで誰よりも強烈な印象与えるのは大臣でなく首相補佐官「拉致担当」中山恭子様」とアタシの感想(笑)。安倍三世の所信表明の記者会見が「明日の未来、で意味不明」、その内閣が1年で教育基本法改正と日中関係是正だけ成功したことは予想通り。市街で通りがかりの民衆に内閣の布陣を見せて「どう思われます?」と質問し安倍内閣への期待感テンコ盛り報道してみせたNHKの責任追及すべし……と言っても全てが「終わったこと」で、これで流してしまうのが「美しい日本」。ああ……馬鹿馬鹿しい。で今日の現実に戻ると、福田康夫君首相就任。参院では民主党小沢一郎君指名される。決選投票で小沢君に入れた共産党の協調特筆に値す。夕方、雨空の雲が晴れうっすらと青空。中秋の月が愛でる鴨。帰宅して福田内閣組閣をNHKで眺める。昨年の九月廿六日を真似てビール飲みながら。栗ごはん炊いていたがN氏にいただいた「いかめし」も頬張る。福田内閣は安倍第二次内閣の主要閣僚再任(17人中13名)。軍事専門家石破茂君の防衛大臣就任は本望か(前回は防衛庁長官だったし)。だが安倍三世に対して「何を反省しているのか明らかに」と迫った石破君の態度はすでにたんなる軍事オタクに非ず。05年5月時点での築地のH君と行った組閣案を比較してみると、アタシらのも派閥領袖起用という点では自民党の旧体質、派閥政治再演ということで非難も可。しかし当時は小泉帝の御世、ポスト小泉で安倍三世浮上。そこで「なんとしても安倍首相誕生阻止」のため反安倍勢力の大同団結という点では町村、谷垣、高村、古賀といった領袖ばかりか、当時の前原民主党も割って小沢君を引っ張り出したもの。これを今日の組閣結果と比べてみると
内閣総理大臣 - 福田康夫 ◎ 予想的中!
無任所大臣(副総理) - 小沢一郎(無所属)× 今回は民主党からの分裂なし
首相特命補佐官(中国担当) - 加藤紘一 × 対中関係問題なし
総務大臣 - 魚住裕一郎(公明党)× 公明党は冬柴君国交相に留任
法務大臣 - 武見敬三 × 鳩山邦男君起用は民主党でもポストなき兄への見せしめか
外務大臣 - 古賀誠 ○ 党選対 
財務大臣 - 亀井静香 × この組閣当時はまだ離党前 国民新党はいぜん閣外勢力
文部科学大臣 - 久間章生 × 文相適任だったのだが原発発言はアタシらも想定外
厚生労働大臣 - 河野太郎 × 特措法「強硬」新法案「には」反対、で家系としてぎりぎりハト派
農林水産大臣 - 園田博之 ○ 党幹事長代理
経済産業大臣 - 額賀福志郎 ○ 財務大臣
国土交通大臣 - 平沼赳夫(古賀君絡み)× この組閣当時は郵政選挙での離党前
環境大臣 - 浜四津敏子公明党)× 公明党との連立関係も小泉時代に比べると希薄か
内閣官房長官 - 町村信孝 ◎ 予想的中!
国家公安委員会委員長 - 中曽根弘文 × 郵政選挙での変節ぶり、「戦犯」扱いで入閣遠し、か
防衛庁長官(現・防衛省大臣) - 高村正彦 ○ 安倍内閣ですでに就任で今回外相、ほぼ的中か
内閣府特命担当大臣
 沖縄及び北方対策担当 - 麻生太郎(古賀君絡み)× 今回は総裁選孤高ぶり、入閣固辞、で男をあげた?
 金融担当 - 塩崎恭久 × 渡辺喜美が安倍辞任で泣いてみせ、篠原演芸場っぽく留任
党総務会長 - 谷垣禎一 ○ 政調会長 予想ほぼ的中!
政調会長 - 衛藤晟一君 × 郵政国会で党除名、無所属で落選で参院選比例区)で復活、と茨の道
幹事長 - 笹川堯君 × 当選7回で党内基盤強そうだが今ひとつ上がってこない先生
衆議院議長 - 森喜朗 ……これは実現に向け、まだ期待か(笑) 但し森君起用は小泉時代に安倍期待論高まるなか福田首班とするにあたり森派町村派)分裂のためのトップハンティング策にすぎず
こうしてみると、この組閣案で、その夏の郵政国会選挙で自民党離脱した議員のうち、この組閣案に亀井、平沼、衛藤と3名もいたのがポイント。この組閣案がいかに改革派重視であったか。結果的に今回の福田君本人による組閣案と同じような顔ぶれになったが、今回はすでに安倍三世失脚の後と思えば「派閥政治再燃」と批判されても致し方あるまい。それでも今回は自民党結党以来の最大の危機的状況という点では派閥領袖揃っての大同団結で来る衆院選に向けていかなければならぬもの。実は、築地のH君に言わせれば良く言えば「The 自民党」とでも言うべき「相当に手強い」布陣。現在の自民党の持ち駒を使い切った最強の顔ぶれ(加藤紘一山拓さんを除く)。これに比べれば、松岡に赤城、補佐官の「チーム安倍」や高市早苗だの小池百合子だのの安倍内閣の連中などトーシロー。小沢一郎にとっては「いちばんやりにくい相手」のはず。派閥均衡・挙党一致の実現で、外部から自民党の懐に手を突っ込んで、の手が封じられ福田総理との対立軸を争点化するのも簡単ではない。徳俵に足が乗った、追い詰められた自民党の知恵の総結集。「とにかくぜったい下野したくない」という永年与党の執念。H君の言を借りれば、いまの自民党構造改革派・穏健保守派・極右派の三派が鼎立で、小泉内閣構造改革派主導に極右派がのっかった内閣。安倍内閣は極右主導で構造改革派をとりこんだ内閣。とすれば福田内閣は極右派をパージしたが新自由主義推進の構造改革派と、反・新自由主義の穏健保守派の両方に跨がったもの。今後は両派の主導権争い=どちらが首相の取り込むか、の争いで、小沢一郎としてはそこに楔を打ち込んで分裂を誘いたいところ。もともと小沢一郎君は90年代には新自由主義改革の旗手として売り出し。民主党松下政経塾に象徴される都市型の新自由主義政党として成長してきたはずが今年の参議院選挙ではすっかり「反・自由主義改革」路線に宗旨替え(笑)。一見、選挙向けだけの顔のようだが小沢一郎君がこの数年、本当に改心した、という噂もあり。今後の流れとしては自民と民主の「ガラガラ、ポン」でもう一度、保守派とリベラル派を篩にかけて、民主党から前原君らネオコンサバが保守党(現・自民党)に入り、自民党からハト派勢力が袂を分け民主派結集とならねばならぬ。小沢君の狙い目もこのへん。問題はその時に世論が新自由主義構造改革路線の過ちを見切ることができるかどうか。H君の憂慮は、この数年の浮かれたような「改革ブーム」は一段落したものの、小泉三世個人の人気がまだ高く、肝心の「最後の」総選挙で有権者がまた「小泉改革」の如きものを支持してしまう可能性も相当あり。日本国民はみずから革命を起こせぬぶん、施政者による構造改革の掛け声などすぐに信奉するキライあり。ところでNHKのNW9は番組冒頭でまず昭和51年だかの福田パパの首相就任の映像流し「憲政史上初の親子二代の首相誕生」と。親子二代の首相が初なのは事実だが、今日のニュースとしてはまず福田二世の首相就任であり参院での小沢一郎君指名であり、それに先立つ安倍内閣総辞職であり、そこでようやく昭和51年の映像が順番ではなかろうか。しかも「憲政史上初の」ってアナタ、日本では憲政を始める前提で太政官制度廃止し内閣制を採り(明治17年伊藤博文が初代総理大臣に就任、同22年に大日本帝国憲法の制定)なのだから憲政=内閣制だと思えば、親子二代の首相が初という時に、いちいち「憲政史上初の」なんて枕が、結局は無意味で、ただの報道での言葉の箔づけでしかないこと明白。ちなみにシンガポールでは(シンガポールを憲政国家と言っていいかどうかは疑問だが)すでに親子二代の首相が誕生しているのでNHKは厳密に「日本の憲政史上初の」と言うべきだったのかも。ところで佐藤栄作の時に、細川十八世の時に、いちいちNHKは「憲政史上初の」兄弟、祖父と孫、と言っていたのかしら。とにかく報道がチープなセンセーショナリズムばかり。雲立ちこめるが風もそこそこあり雲の流れも早くマンションの裏手に井で東の山から月もずいぶん上がったか、と眺める。偶然にもぽかりと開いた雲の絶え間に中秋の月を愛でる。久が原のT君より「三五夜中新月色。二千里外故人心」と白楽天の詩が届く。『考える人』07年夏号で吉田秀和堀江敏幸の対談少し読む。NHK-FMの「名曲のたのしみ」。そう、番組冒頭「名曲の楽しみ。吉田秀和」と氏の語りから始まる。「吉田秀和です」と言わない。ここに行き着くまでの少しの苦労を語る吉田秀和。素敵だ。あの至福の時。そして「じゃ、また来週」で終わるのだった。30年以上まだ続く。永遠に続かないかしら。
▼今朝の蘋果日報がトップで「闊太發火 國泰讓? 考慮航機升降時名牌手袋免放行李架」と離着陸時の乗客の「ハンドバッグ騒動」続報。これは乗客が離着陸時に乗務員の指示に従わずハンドバッグを棚に収容せず抱えるもので(高級ブランド品ゆゑ手許に置きたいワガママ)、キャセイパシフィック航空はこの乗客を断じて許さず乗務員と口論。香港有数の富豪の妻もこの一悶着あり。口論どころか着陸後に安全規則に従わなかったことで乗客を警察に引き渡す(笑)ほどの強硬路線踏襲。警察が来るまで他の旅客も機内で待たされ迷惑千萬。他の航空会社も同様の規則はあるものの「わがままな客は放っておく」由。キャセイパシフィック航空は断固安全重視か、と思われたが内部資料で機長に対して、この措置の緩和も検討の余地あり、と通告。さらに資料には“a high profile incident when a lady passenger got very upset when asked to place her designer handbag in overhead storage.”とあったことで管理層は「ブランド品=金持ち客には諂うのか」と嗤われ……以上がこの報道の顛末。興味深き点は二つ。まず、ご婦人方が結局は「高級ブランドのハンドバッグを手にしている」ことでしかアイデンティティを保てぬ性根の貧しさ、そして「搭乗客を全て管理下に置くこと」で権力の装置たる航空会社(フーコー的よね)。その二つであるから当然、反発が生ず。結果的には客とサーヴィスの供給者という点で航空会社側が譲歩、となる点も最終的には資本主義の鉄則か。
▼十一月の歌舞伎座の恒例顔見世。夜の部で音羽屋、松島屋に富十郎の「土蜘」はいいが最終幕が「三人吉三」で孝太郎、松緑染五郎
▼自民総裁選。地方票で麻生候補の善戦伝える報道がほとんど。だが河北新報は「予備選は麻生氏2票、同情票か 宮城」と(笑)。「福田氏が国会議員票で当初から優位だったため、麻生氏に同情票が集まったとみられる」ってコレを言っちゃぁお終いよ。
ミャンマーでの僧侶デモ。市民デモへの拡大に対して軍政府の冷静な対応は中国政府による圧力の由(信報)。来年の北京五輪成功願う中国政府はミャンマー軍事政権の主要な支持母体でありミャンマー軍が一旦デモ弾圧に動けば中国政府の印象も損ねかねず。

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